磯の香が漂う濃厚な一杯ができた!
解説員/野外生活技術研究家 藤原祥弘
「磯もん」とは、磯で獲れる雑多な魚介類のこと。食べられるけれど、漁業権で囲うほどには価値が高くない。そんな生き物を海辺に住む人たちは磯もんと呼んでおかずに利用してきた。
磯もんは、売り物には小さかったり採集効率が悪かったりもするが、味はなかなか上等なもの。レジャーで採集を楽しむ身には、ちょうど良い獲物だ。
大潮を待って向かったのは、某県某所の磯。磯もんは、その名のとおり浜ではなく磯にいる。磯のなかでも、釣り師が立つような荒磯ではなく転石が散らばる浅い磯がいい。
こんな磯では、潮が引くときに生き物たちも水と一緒に移動する。広大な磯が干上がったとき、磯に暮らしていた生き物は水際の最前線まで逃げて潮が上がるのを待つ。集まった場所を狙い撃ちにするわけだ。
最干潮の浅瀬は生き物だらけ。目についた獲物を手当たり次第にバケツへ入れていく! ……とはいかなくて、磯もん獲りには守るべきルールがある。
ひとつは都道府県ごとに定められる漁業調整規則。このルールは遊漁者が使える漁具や漁法を定めている。この規則とは別に、磯を漁場にする漁協がそこで採集してはいけない生物を定めてもいる。
遊漁者は漁具・漁法、種類に抵触しないものだけを採集できるが、小さな岬を境に隣の浜では合法的に採集できるものがその隣の浜では採集禁止、なんてこともあるので注意したい。
法的なルールとは別に、採集者が守らなくてはいけないマナーもある。必要量以上に獲らないのはもちろんのこと、岩に着く生き物を獲る場合は全体の一部だけにすること、起こした岩を元どおりに戻すことなどは、必ず守りたいマナーだ。
潮が引いた磯で、こちらでひとつ、あちらでふたつ、と目についた磯もんをバケツに収めていく。どれもたくさんは要らない。この日、私にはある目論見があった。磯もんで出汁をとってラーメンをつくるのだ。
スープのベースになるのはマツバガイとカメノテ。これらは岩場で簡単に獲れた。ほかにショウジンガニも欲しいが、なぜかこの日は姿を見せない。潮が満ちるまでに見つけられず、結局泳いで徒手採捕した。ついでに砂地でマガキガイも拾う。殻から恨めしげにのぞく視線が痛い(マガキガイは漫画『寄生獣』のミギーにそっくりの顔をしている。目が強い)。
これらを鍋で茹でて出汁をとり、塩味のタレと合わせて麺を入れ、盛り付ける。半日の磯遊びの末にできたラーメンは、磯の香が漂う濃厚な一杯になった。
磯もんのみなさん、ごちそうさまでした!
※このページで紹介した生き物には、地域によっては漁業権の対象になるものがあります。磯で遊ぶ際はその場所のルールを調べてください。
磯の浅瀬は生き物だらけ!
タモとバケツと3点セットを用意
❶タモ。暗色で網が深いと生き物が逃げにくい。
❷バケツ。白色だと水温が上がりにくい。
❸水中捕獲用タモ。透明な網は魚が警戒しにくい。泳いで近づき手で網へ追い込む。
❹マスク&シュノーケル。
❺足ヒレ。
いつもは海のなか
磯もん特濃ゾーンを攻めろ
磯もんを採集するなら、潮の干満の差が大きくなる大潮が有利。ふだんは海に没しているエリアが干上がるので、そこに暮らしていた生き物が水がある場所へと逃げて浅瀬が賑やかになる。最も潮位が下がる最干潮の2時間ほど前に現地に入ると効率良く遊べる。
常に水上にいる生物や深場の生物の採集は、潮まわりの影響が小さい。道具を用意しておき、陸上と水中は潮が満ちたあとに攻める。
知ってる?「漁業調整規則」
遊漁者に許される水生生物の採集方法は「漁業調整規則」で規定されている(この規則は都道府県ごとに異なる)。これとは別に遊漁者が採捕できない種を地域の漁協が定めている。注意!
食べるな危険! デンジャラスな仲間たち
ハオコゼ
ハオコゼをはじめ、磯には刺して身を守る魚がいる。ウニやガンガゼなども棘は鋭い。手袋は必須!
オウギガニの仲間
オウギガニの仲間にはフグ毒のテトロドトキシンをもつものも。食毒の不明な種は絶対に食べない!
磯もんで取る命のスープ!
真夏の海鮮 潮ラーメン
雑貝&雑草を茹でる
沸騰した海水に食材をくぐらせて体表を加熱。お湯を切って汚れと粘液を洗い流すと磯臭さを軽減できる。野草もアクが強いのでしっかり茹でる。
垂涎! 海の黄金スープ
下処理した食材を水から加熱。貝類は茹ですぎると硬くなるので頃合いを見て取り出す。味を優先するなら甲殻類は殻を割ると旨味が出る。
食材はこちら!
カメノテ
磯のなかでも波をかぶるかかぶらないか、といった高さの岩場に群生する。貝のような見た目だが、実はカニなどに近い甲殻類。
アサリとカニの間のような風味で、殻を剥くと現われるピンクの身も美味。
イソスジエビ
岩陰の群れを網で捕獲。塩茹でにしたが、ちょっと生臭く殻が口に残った。トッピングするなら揚げてカリッとさせるのが正解か。
ツルナ
ハマヂシャの別名をもち、栽培されることも。種子が海流で運ばれるため、日本の太平洋岸をはじめオセアニアや南米にも分布する。
ショウジンガニ
波をかぶる磯際を猛スピードで駆け抜ける赤い彗星。甲長約5㎝の中型のカニだが、体の大きさのわりに濃厚な出汁を取れる。
マツバガイ
飛沫を浴びる大岩の表面に住む。張り付く力が強いので採集にはマイナスドライバーが必須。成長の遅い貝なので採集は最小限に。
マガキガイ
沖縄でティラジャー、高知でチャンバラガイの名前で呼ばれる。近年関東でも増加中。めっちゃ見てくるのでちょっと食べづらい。
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2024年9月号より)