第3弾は、タンザニアを走行中に近況をインタビューした。ガンプさんは、今も人力車を引いて毎日約40kmを走っているという。しかし、ただ1人で走っているのではなく、目標は「Run For Fun」。「走ること」を通して世界中のみんなが笑顔になることを目指している。
そのために日本にいる人も一緒にできる行動を提案。また、現地で出会った人々との関わりや、近況についても聞いた。
子どもたちが喜ぶ「おやつの時間」
「僕が走っていると、学校帰りの子どもたちが一緒に走ってくれるんです。『イチ、ニ、イチ、ニ』と言うと、僕のマネしてくれて。関西弁を交えて話しかけると、その言葉を返してくれます。発音がいいのがびっくりです」
アフリカで直面した現実とは?
ガンプさんは地元の子どもたちとの交流を楽しみながら走っていた。ただ、このようなことだけではなく、「食べもの」や「お金」を求めて寄ってくる子どもたちも少なくないのが現実という。ガンプさんはそんな子どもたちを避けながら走る自分に「これでいいのか?」と自問自答した。子どもたちの笑顔はとても豊かな表情だが、彼らが住む家の横を走り貧しい生活も垣間見ていたからだ。
アフリカの乾いた大地を前へ前へと走りながら、ガンプさんはずっと考えていた。
「物乞いのような状況に直面して、自分たちになにかできないかと思ったんです。子どもたちにお菓子をあげると喜ぶかなと。ぶっちゃけお菓子が一番必要かというと、それは微妙なんですけど(笑)。でもこの小さな支援から交流に広がって、なにかが生まれるかもしれない、そう思い始めました」
1袋10枚入りのクッキーが24袋で1箱。1箱は約600円。これを人力車に載せて、道々で出会う子どもたちに配り始めた。
1人に配り出すと、どこからか溢れるように集まってくる。その弾ける笑顔たるや。だいたい1日に1箱のクッキーがなくなる。「やはり子どもには『お菓子の時間』が欠かせない」そうガンプさんは語った。
日本からでも応援できる「Run For Snack」ってなに?
アフリカ縦断が始まるときに立ち上げた「Run For Fun」という企画では、ガンプさんと日本のランナーたちがつながり、そこでは「一緒に走ることを楽しむ」を目標に掲げてきた。今回、ガンプさんは子どもたちと交流するなかで、「Fun」を「Snack」に置き換えた「Run For Snack」というアイデアを提案した。
こうして「Run For Snack」は、毎週土曜日、ガンプさんがいる場所の現地時間午後3時に開催されることになった。日本時間では午後9時くらいになるが、この時間にガンプさんと走る日本のランナーも増え始めているという。参加費100円で、これがお菓子の寄付金となる。イベントと同じタイミングで走ることが難しければ、いつ走っても参加できる。そんな人のために、各々が同じ目的で走った距離や時間をシェアできる、LINEを使ったオンラインコミュニティを立ち上げた。走ることを通して、つながりを持つためだ。
民泊を叶えてくれた女性との出会い
ガンプさんが走る目的のひとつに、「現地の人との交流」がある。今までの旅や、浅草で俥夫として仕事をしていたときも、常に出会った人たちとのコミュニケーションを大切にしてきた。いつもそこから生まれる「なにか」が、すべてガンプさんのモチベーションになった。うれしいことも、ハプニングもパワーに変えて、走る原動力にしてきたのだ。
ただ、ケニアのナイロビから出発したあとの道中では、地元の人とじっくり関わるチャンスがなかった。そこに心残りはあったそうだが、順調にケニアを突破、続くタンザニアに入国しても走り続けた。
ある日、ガンプさんがタンザニアのイリンガという街を目指して走っていた。その頃、先に到着したカメラマンたちが1人の女性に出会った。宿泊する場所を探していた一行は、女性と話しているうちに、彼女と家族が住む家に泊まらせてもらえる展開となった。
「僕の到着前に民泊の話になったようです。25歳の若い方で、人を家に招くのが好きといってくれて」
ケニア人コーディネーターのレギーさんは「彼女は人が好きで、シンパシーを感じた。これは彼女の思いやり」と通訳した。彼女と家族には2軒の家があり、気に入ったひとつの家に泊まらせてくれるという。リビングやベットルームがある、きれいに整えられた家だ。ガンプさんにとって民泊となれば、地元の人と話す時間が増え、実際の生活、習慣、考えなどに触れられるので、願ってもないことだった。
彼女は、到着直後に汗をかいているガンプさんを見て、まずシャワーを勧めてくれた。
それならば「すぐにシャワールーム!」ということではない。ここではシャワーの水を汲みに出かけるところから始まる。まずリアカーにバケツを載せて歩くと、後ろから子どもたちが駆け寄ってくる。
人が集まる場所に到着すると、直径2mくらいの大きさで深く掘られた井戸があった。そこにロープを結んだバケツを入れて水を汲む。かなり深くまでバケツを入れないと水面まで届かない。しかも引き上げた水はもちろん泥水。ガンプさんは「おお、これかー」と自分が利用する水を見て驚いた。そして現地の人が促すままに何杯かのバケツを満たした。
村でのハプニングは文化の違い?
水を汲み終わりシャワーの準備はできた。しかしその前に子どもたちにクッキーを配ることになり、集まる村人を前にガンプさんは話し始めた。日本のSNSフォロワーと一緒に走る企画を通して集まった参加費でクッキーを買っている、という話をしていた、そのときだ。
「Wait, No photo! No photo!(待て、撮影禁止、撮影禁止!)」
と叫ぶ男性がいた。話を聞くと、撮影もお菓子の配布も許可なしではだめだというのだ。
「いや、またきたか、と思いました」
ガンプさんたちは、その大きな声にうろたえるというよりも、これがどういう意味かがすぐにわかったと話す。結論からいえば、この男性は「ビールを奢ってくれたら、撮影とお菓子の配布の許可を出す」という物欲しさから起こした行動だったのだ。それでクッキー配布中に割り込んできた。この男性へはビールを買うことで一旦話は終わったようだったが…。
実はこの「なにかを引き換えに、なにかを許可する」という経験はこれが初めてではなかったとか。ガンプさん一行がケニアのナイロビ空港に到着したときだ。カメラ機材の持ち込みについて話を聞かれると、そのまま別室に連れて行かれた。そして空港職員にお金を払えば解放という、金銭の授受を経て入国したことがあったという。
日本とは違うタンザニアの慣例
日本人にとって、アフリカでのこのような馴染みのない言動はとても戸惑う。そこでタンザニアに3年住んでいた友人にこの事実を伝えると、以下のような話が返ってきたという。
「タンザニアはもともと『お金のある者が、ない者(家族・親戚)を助ける』という文化が強いです。それ以外の関係でも『お金を貸してくれない?』は日常茶飯事で、私も何度もいわれたことがあります。お手伝いさん、警備員、学校の先生まで。警察など公的な立場でも金銭の要求はあるので、これは『ワイロ』と呼べるけれど、その他は『お金を工面し合う文化、習慣』といえるかもしれませんね」
ビールを渡した男性の件がひと段落し官、クッキーを持つガンプさんに村の子どもたちは群がった。そしてあっという間に足りなくなり、村の食品店に買いに行ったときだ。突然、警察官がガンプさんに近寄り話しかけてきた。
「名前は?なぜケニアからここにきたのか?この女性が、君が村にいることの説明をしてほしいといっている」
地元警察官から英語で質問され始めたガンプさん。村でリーダー格の女性が、ガンプさん一行の村滞在について、警察を通して尋ねてきたのだ。この女性に滞在する許可をもらわなければいけないということだ。このあと警察官との話し合いが2時間あまり続いたという。結果は?
「警察官は『水を1本くれ』といってきたんです。タンザニアではお金が欲しいという意味で、よくあるパターンらしいんですが。結局、水に5,000シリングをつけて渡したところ、警察官は笑顔になってグータッチ(苦笑)、そして解決です」
ガンプさんは感情を抑えながら、現地での出来事を淡々と話してくれたが、このような「アフリカの習慣」なるものが連続してあることをどう感じたのだろう?
「もちろん理不尽な話だと思います。でも結局、お金を持っている外国人だと思われて、そうなるようです。気持ちも状況もこれ以上面倒なことになりたくないので、安く済むようにします。この村で払ったのは日本円で300円くらいです。これがリアルですね」
ハプニングを乗り越え、ようやくかなった民泊と現地の人との交流
「民泊で現地の人と交流したい」という思いの一方で、現地の人と関われば関わるほど、ハプニングがおこる。それがアフリカを走るということなのか、ガンプさんはまだ解せない表情だ。
ワイロとは日本では一般的に「袖の下」というイメージがあるが、アフリカでは堂々としている。ガンプさんも友人も「習慣に近いこと」と口を揃えていう。日本の文化には無いことがアフリカでは日常だということとして、話を留めた。ガンプさんたちは、ただ「アフリカの習慣」に応じたのだ。
すべてが終わり、夕飯が始まる。宿泊させてくれる女性はレストランを営んでいるので、感謝の気持ちを込めて、みんなでたくさん食べて、ビールも飲んだ。女性とも村の出来事をシェアし、村の人間模様をゆっくり話せたという。
この夜、提供してくれた家の中には全員が寝るスペースはないので、ガンプさんやカメラマンたち5人は車やテントに分かれて就寝した。
「Run For Fun」のオンラインコミュニティでさらなる広がりを
元々は人力車を引いて1人で旅をはじめたガンプさん。アジアから始まり、次第に旅のスタイルに賛同してくれて一緒に走る仲間が増えていった。しかし、それぞれの事情で継続する人はおらず、前回のアメリカ横断の旅でまた1人となった。
「仲間もいない、1人なのになぜ自分は走るのか?」と自問自答し続けた。このときに出会ったのが「JUST FOR FUN」という看板だったという。アメリカの国道に突然現われたその文字に、ガンプさんはハッとした。そしてその看板から遠くない街に暮らす男性が教えてくれた生きる目的、これもまた「JUST FOR FUN」。そのときガンプさんは、「旅を楽しみたい」という、最初に抱いた気持ちを思い出したという。
アフリカの旅への出発をひかえた今年5月、ガンプさんは東京で数人の仲間と食事をした。そのうちの1人、田中喬祐さんは、元々浅草で7年間、人力車を引いていたガンプさんの俥夫仲間だ。彼は人力車で世界一周する旅に出るというガンプさんに賛同し、現在は日本で「ガンプ鈴木のアフリカ縦断」プロジェクトを支えている。今回、田中さんにもお話を聞くことができた。そしてガンプさんにも負けないアフリカに賭ける思いを語ってくれた。
「アフリカ縦断は、アメリカ横断を超える旅にしたいと思いました。アメリカ横断のときにたくさんのメッセージを頂いて、ガンプさんの旅が誰かの人生にいい影響を与えているのではないかと感じました。なので、人生を楽しんでいる人も、これからの人も『JUST FOR FUN』の気持ちで一緒になにかしたいと思っていました。それをガンプさんたちと話していたら、突然『RUN FOR FUN』はどうだ?『RUNして世界をFUNにする』。それいい、いい!という話になったんです」
当時を思い出しながらそう話す田中さんから、いいアイデアが閃いた喜びが伝わってきた。
走っているのは、もはや”ひとり”じゃない
ガンプさんが1人で走るのではなく、「みんなで楽しく走る旅にしたい」という発想だ。南アフリカでゴールするときには、世界中で何万人もの人が一緒に走っている絵が浮かんだという。そこで立ち上げたのは「RUN FOR FUN」というオンラインコミュニティだ。田中さんは、みんなでどうしたら継続できるかを考えて、インスタグラムやWEB(こちらのサイトからLINEのオンラインコミュニティへの登録ができます)などのプラットフォームを開設した。
「僕自身が強くないので、走る仲間と繋がれる居場所がほしいと仕組みを作りました」と田中さんは続けた。
現在、「RUN FOR FUN」のインスタグラムのフォロワーは約1,500人、LINEのオンラインコミュニティ登録者数は約330人。一方ガンプさんのインスタグラムは約200,ooo人、TikTokは337,000人、YouTube 70,800人と比較すると、まだ「RUN FOR FUN」の参加者は少ないのが現実だ。
日本で走って、どんどんつながろう!
ここで冒頭の話に戻るが、実際にアフリカを走り始めて、子どもたちとの交流で思いついた「Run For Snack」という企画。これが7月から開始されて現在(2024年9月14日 )まで8回、合計358,304円の寄付(参加費)が集まった。
「いつも乗る電車を乗らずに走って、電車賃を参加費にまわしました」
「いつも飲んでいるお酒を1杯がまんして、その分参加費にまわしました」
そんなランナーの声も届いているという。ガンプさんは「寄付に賛同して参加費を募金してくれる人に感謝している」と話してくれた。そして、自分の健康に加え、子どもたちのお菓子になっていることで、自分の喜び以上に感じてもらえていればと願っている。
筆者も最近ランニングを始め、このLINEコミュニティに参加している。そこでは「今日、〇〇km走りました」と青空や虹の写真を一緒に投稿したり、「今度〇〇でランニングのイベントがあるので、一緒に参加しませんか」などの募集もある。走ることで人とつながる場ができはじめている。参加者が自発的に動き出したオンラインコミュニティに、田中さんは喜び、さらなる希望を語ってくれた。
「僕らも手探りで、正解を作りにいってます。南アフリカのゴールでは目標1万人、いや本当は10万人の人とつながって走りたいんです」
もはやガンプさんの一人旅ではない。彼を支え、同じ方向を向いて進むスタッフや日本のランナーが日に日に増えている。南アフリカのゴールでは、ほんとうに数万人規模の大イベントに発展するかもしれない。
ガンプ鈴木さんの関連リンク
写真提供:Just For Fun
同行カメラマン=ハルノスケ、関大基、パト