そんなファットバイクのスペシャリストが、久しぶりにニューモデルを発表。2世代目となる新型「MOONLANDER(ムーンランダー)」の全貌を明かす。
ファットバイクのスペシャリストが常識を打ち破る新型を発売
初代「MOONLANDER(ムーンランダー)」は、2011年にデビューした。初代のタイヤサイズは、26×4.8インチ。それまでのファットバイクよりも約1インチ幅が広い、当時としては世界でもっとも太い新型タイヤを装備したことで大きな話題となった。従来の幅4インチクラスのファットバイクでも走れなかったコンディションの悪い雪道や荒れたトレイルを走破できることから、幅4.8インチのタイヤを履いたファットバイクが主役の座に躍り出た。
ファットバイクの歴史に残る2モデル
初代ムーンランダーが生まれたころには、まだ世の中にファットバイク専用設計の幅が広いハブやクランクが存在していなかった。そこでサーリーは、標準的なマウンテンバイク用のパーツを搭載するために、フレームを左右非対称に設計し、パグズレーと初代ムーンランダーの2モデルを完成させた。やがてファットバイク専用のパーツが流通し始めると、サーリーは、「ウエンズデー」「アイスクリームトラック」という新規格(左右ほぼ対称)のファットバイクを発売。パグズレーやムーンランダーの需要は減り、その後、生産が終了した。
新型ムーンランダーの気になるスペックは?
新型ムーンランダーは、ファットバイクの進化の過程で大ブレークした名フレームの後継車種となる。ムーンランダー=月面探査機というネーミングに恥じない、とてつもない存在感のあるデザインに度肝を抜かれた方も多いのでは?
タイヤサイズは、なんと24×6.2インチ!!
新型ムーンランダーの最大の特徴は、これまでにない太いタイヤにある。サイズは、24×6.2インチ。サーリーは、フレームのみならず、専用のリムとタイヤを開発して、この新型ファットバイクを完成させた。
フレームに内蔵された内装9段変速
タイヤが太くなればなるほど、リアタイヤとチェーンが干渉しやすくなり、従来の外装変速機では、使えるギアが少なくなってしまう。そこでサーリーは、ドイツの「ピニオン」の協力を得て、専用の9段内装変速機を搭載した。通常の内装ギアは、リアホイールのハブの中に組み込まれることが多いが、この内装変速機はクランク内に組み込まれている。そのため6.2インチという太いタイヤの空気圧を極限まで抜いても、タイヤとチェーンが干渉しないチェーンラインを実現した。
ただし、内装変速は、ペダルを漕ぐ足を停めないと変速操作ができない。短い距離を試乗したが、コーナーや上り坂に差し掛かったときに、漕ぎながら変速をすることができないのは、ちょっとしたストレスだった。ほかにも、空気圧を低くすればするほど、ハンドリングにクセが出て、勝手にハンドルが切れたり、まっすぐ進むことすら難しくなった。どちらも慣れれば問題ないレベルではあるだろう。
しかし、そのクセこそが、乗る人をなぜか笑顔にしてしまう圧倒的な魅力ではないかと感じた。そんな並外れた個性をおもしろがれるかが、この自転車を買うか買わないかの分かれ目になる。この感覚は、パグズレーや初代ムーンランダー、ビッグファットダミーに初めて乗ったときに感じたものに近い。久しぶりにサーリーらしいパンチのあるカウンターバイクである。
タイヤの空気を抜いて、あらゆる地形を走りに行こう
ファットバイクのタイヤは、一般的な自転車と比べて極端に低い空気圧にセットする。これまで自分が乗ってきたフィールドでは、デジタルのエアゲージで測定して3~8psi(約0.2~0.54気圧)という範囲の空気圧で調整した。指でタイヤを押すとベコベコに感じるレベル。実際に乗って走っても、タイヤが深く沈みこむ。
以前、サーリーの開発スタッフに話を聞いた際にも「ファットバイクで10psi入れることはない」と話していた。これはタイヤの弾性を利用して強いトラクションを引き出し、同時に振動吸収性やコーナーリング性能を高めるためだ。
サーリーは、最初のリムやタイヤを開発する段階から、超低圧で走ることを想定して設計を始めた。数年のテストを繰り返し、リムの発売から遅れること2年、2006年に台湾のタイヤメーカー「INNOVA(イノーバ)」の工場に専用ラインを作り、低圧にした状態で走ってもタイヤがリムから外れない製品を完成させた。
新型ムーンランダーに装着された「モレンダ」というタイヤも、同程度の空気圧で乗ることを想定している。もちろんイノーバ製だ。空気圧を極限まで落として、砂漠、ゴロゴロの岩場、雪原など、これまでのファットバイクが入れなかった世界へ、さらに一歩踏み出せることは間違いない。
しかし、これだけ太いタイヤとなると、低圧でも相当な空気量を必要とする。ロングライドする際には、手動の空気入れではなく、電動の小型エアポンプを用意すべきだろう。
丈夫で乗り心地がいいクロモリスチールフレーム
フレームは、サーリー・オリジナルの4130ナッチクロモリスチールだ。サーリー全モデルに共通するフレーム自体の振動吸収性の高さは、このバイクにも踏襲されている。
撮影したMサイズのホイールベースは1,248mmとある。サーリーがこれまで発売してきたファットバイク「アイスクリームトラック」が1,131mm、ロングテールのファットバイク「ビッグファットダミー」が1,563mmだ。また、「サルササイクルズ」が発売していた「ブラックボロウ」というセミロングテールのファットバイクが1,336mm(※いずれもMサイズ)。タイヤサイズのおかげで、見た目にはかなり長く感じるが、ホイールベースの数字を比べると、そこまで極端に長いわけではないことが分かる。
ホイールベースが長く、タイヤが太いことで低速安定性が高くなるので、不整地をゆっくりと踏みしめて前進するときには、その威力を発揮できるだろう。
拡張性にもぬかりなし。バイクパッキングにも
そのほか、フレームには、ラックやフェンダーを装着するためのアイレット(ネジ穴)が多数ある。サーリーから発売されているファットバイク用のリアラックが装着できるので、キャンプ旅はもちろん、国内外を問わずアドベンチャーなライドにも使えそうだ。この大きくて重いバイクを、どうやって目的地まで運ぶかが問題ではあるが…。
そのほか、大きな特徴としては、複数のタイヤサイズにコンパチブルできること。オリジナルのタイヤクリアランスは、24×6.2インチ。そのほかに、26 ×5.1インチ、 27.5 ×4.8インチ、29×3インチまでのタイヤを装着できるクリアランスがある。現存するファットバイク用のタイヤとリムを使えば、好みの仕様に組み替えることもできるのだ。
その存在感は、まさにモンスタートラック級
重量は軽く20kgを越える。それなりにサイズもあるので、フィールドへ運ぶためには、ワンボックスなどが必要になる。もはや普通のファットバイクが、ファットバイクに見えないほどの圧倒的なサイズ感や、極太のタイヤによる「ブリブリブリ…」という耕運機のような大きな走行音(ほぼ爆音)は、世の中に存在する市販自転車のなかでも屈指の存在感だ。
自転車版のモンスタートラック。久しぶりにサーリーらしい一台の登場に、心躍らせている人は少なくないのでは?チャンスがあれば、このバイクに相応しいフィールドを走ってレポートしたい。
◎商品情報
サーリー/ムーンランダー
- 価格(完成車):726,000円
- サイズ:S、M、L、XL
- カラー:ルナーダストグレー
- フレーム/フォーク:4130クロモリダブルバテッド
- 変速機:ピニオンC1.9 XR 9段内装変速
- タイヤ:サーリー/モレンダ24×6.2インチ(60tpiチューブレスレディ)
- ハンドル:サーリー/ターミナル
- ブレーキ:テクトロ/HD-M285(2ピストン油圧)
- シートポスト:トランスX/YSP15JLドロッパー
- 輸入元:モトクロスインターナショナル
- ホームページ:http://ride2rock.jp/
- 商品情報(本国サイト):https://surlybikes.com/bikes/moonlander-v2