WIND from ONTARIO~森の海、水の島~
#6 森の冬じたく
by Tomoki Onishi
撮影・文/尾西知樹
トロント在住のフォトグラファー、マルチメディア・クリエイター、カヌーイストでサウナー。オンタリオ・ハイランド観光局、Ontario Outdoor Adventuresのクリエイティブ・ディレクターを務める。カナダの大自然の中での体験とクリエイティブを融合させたユニット magichours.caを主宰。
アカリスはセカセカ、ムースはソワソワ!?
「おいっ! こっち入ってくんなーっ!!」と、木の上から声が聞こえたような気が……。
紅葉の季節、凛と冷えた空気の中、森へ足を踏み入れる。頭上からキキキーッと甲高い鳴き声が聞こえたら、それは縄張りを主張するアカリスだ。
オンタリオ州には、アカリス(Red Squirrel)とシマリス(Chipmunk)、2種類の原種のリスが生息している。シマリスは、好奇心があってフレンドリー、上目遣いで微笑む愛嬌タイプ。キャンプサイトで、ちょこちょこと近づいてくる。一方、アカリスはというと、警戒心が強く木の上から威嚇してくる野生味あふれる孤高の存在だ。アカリス同士でも餌場を争って喧嘩しているのをよく目にする。
この時季のリスたちは、冬ごもりの準備で大忙し。松の実やどんぐりなどの木の実を、地面に掘った貯蔵庫へとせっせと運ぶ。ところが、しばしば場所を忘れてしまって、準備した食べ物はそのまま森の木となってしまうとか……。木の上で啖呵をきっているかと思えば、おっちょこちょいなのが愛くるしい。
人影の減ったアルゴンキン州立公園では、時折ムースにも出逢う。秋はムースの繁殖期で、雄は角の最盛期を迎える。彼らの角は、大きさで雌に雄々しさや強さを視覚的にアピールする象徴だ。温和で森の王と称されるムースもこの時季ばかりは鼻息が荒くなり、注意が必要だ。
静謐な秋の森で、色暖かな紅葉のトーンの下、ムースたちはロマンスにソワソワと、冬の準備に余念のないリスたちはセカセカと、森の生活を享受している。このなんともいえない独特の空気感が、僕はとても好きだ。
(BE-PAL 2024年11月号より)