ツチアケビの学名はCyrtosia septentrionalis
ラン科の多年草。木陰に生える腐生植物。高さ約50cm~1m。茎は太く直立し、全体が黄褐色。根茎は太く横に這い、ところどころに鱗片葉がつく。6~8月、2cmほどの淡黄褐色の花を多数つける。果実は肉質で赤くアケビに似ており、果実を干したものを漢方で強壮・強精薬として用いる。
初夏に黄土色の花をつけるツチアケビは、秋にはウインナーソーセージに似た実をつける。
伊豆の友人が「おらとこのサワガニは甲羅が青いよ……」というので、確かめにいくことにした。東京あたりだとサワガニは赤茶色をしているからだ。
伊豆・松崎町の友人、イナちゃんこと稲葉粂良さんの軽トラに乗って宝蔵院への山道を登っていった。両側に巨木の並ぶうっそうとした森だ。
道の脇に車を止めると、「いたいた、いたよ!」と彼がつかまえたカニは、確かに甲羅が青い。
「ねねね、これを茹でると赤くなるのかね?」と私。
「さあな、こんなもん食ったことないからなぁ……」とイナちゃん。
「東京へ持って帰って茹でてみよう」と、用意した虫かごへ、むしった草と一緒に3匹のカニを入れた。
気が付くと彼がどこかに消えている。「お~い、イナちゃん」と大声で呼んでみると、「ああ、こっち、こっち」とイナちゃんが手招きしている。
やぶをかき分けて下っていくと、「これこれ、これさ! なんだろうねえこれは」とツチアケビのそばにしゃがんでいる。
「ツチアケビっていうんだよ。珍しいよ、これは。むかし千葉の森で一度見たことあるけどさ、これでもランの仲間なんだよ」
「いやぁ、まるでソーセージだね。ねぇ、これは食べられるのかね?」とイナちゃん。
「いや、食ったことはないけどさ……」と切り開いてみると、小さなタネがたくさん入っていた。
ツチアケビはラン科の腐生植物で、葉緑素をもたない。根の中にナラタケの菌糸束を取り込み、菌と共生する。分布は北海道から九州までというが、見つけることはとても難しい。
ツチアケビの花やタネを公開
6月のツチアケビの花
実には小さなタネがたくさん入っていた。
赤茶色の甲羅のサワガニ。
伊豆・松崎町のサワガニ。
イラスト・写真・文/おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2024年11月号より)