こんにちは、川下りの旅人ジョアナです。アマゾン川を現地で買った船外機付きの木舟「ペケペケ号」で旅してみたら、毎日トラブルだらけの【佐藤ジョアナ玲子のアマゾン旅】シリーズ。
今回は舟ではなく、タイのトゥクトゥクみたいな三輪バイクに乗ってアマゾンの村を見学することに。順調に進むと思ったのですが、村の人からあらぬ疑いをかけられてしまって…!?
アマゾン流域にある良い村と悪い村…?
旅を楽しむコツは、計画をあまり立てすぎないこと。だってせっかくの休みなのに、予定に追われたくはないから。なんていうと聞こえが良いのですが、計画を立てたところでその通りには進まないのがアウトドアの旅というものでしょう。
だからアマゾン川下りでは、適当にその日たどり着いた村にペケペケ号をとめて、翌日また別の村へ行く、村から村へ移動するスタイルで旅をしています。ジャングルのイメージがあるアマゾン川ですが、実は結構あちこちに人が住んでいるのです。地図を頼りに向かっても見逃してしまうくらい小さな村だったり。反対に、地図には詳しく載っていないけれど、行ってみると意外と活気がある村だったり。
前回の記事で故障したペケペケ号を直してくれたおじさんが、こんなことを言っていました。
「いいかい、アマゾン川には良い村と悪い村があるんだ。ここから2回大きく川を曲がったら、左手に木舟がいくつか停まっているのが見えるから、そこへ行きな。サン・クリストバル村だよ」
2回曲がるだけ。おじさんは簡単にいうけれど、川は途中で大きな中州にぶつかると分岐したり蛇行したりするから、どの曲がり角を数えれば良いのやら。そのうち左手ではなく右手に集落が見えきちゃって、「あれかな」と私。「いや、違うよ」と今回一緒に旅をしてくれているマキシーちゃん。村を探しながら、ゆっくり運転しているうちに日も暮れかけてしまった頃、いくつかの木舟が川岸に引っかかるようにして停っているのを発見。もう、ここしかない!
村で出会った個性派おじさんのお家へ行ってみた
「ようこそ、サン・クリストバル村へ」
夕飯のための魚を捕りに川へ出た帰りだというおじさんが、私たちのペケペケ号に気がついて、お家へ招待してくれました。このおじさん、ちょっと個性的で、「手作り」にこだわった生活をしているようなのです。住んでいるのは、自分で建てた小さなお家。外にイスを並べたのがリビング代わりで、もちろんイスも手作り。アマゾン川を眺めながら、ここに座って煙草をふかすのが日課です。
「君も一本吸う?」
いえ、私は煙草は吸わないんです。断ると、「じゃあ代わりにこれを」と言って、家の脇のヤシの木から実を一つ取ってきてくれました。ナイフで切れ込みを入れて、コップをあてがいひっくり返すと、ココナッツウォーターがドバドバ出てきて、ちょうどコップのスレスレのところで止まりました。1個でコップ1杯。それがサンクリストバル村の飲みごろココナッツの法則なのでしょう。
村のみんながおじさんのような家に住んでいるわけではありません。ほとんどの人は、屋根と壁がもっと普通の見た目をした建物に住んでいます。でも、そういう家からはあえて少しだけ距離を置いて、自分の好きなように住みたい。そういうこだわりを感じました。
アマゾンの煙草事情とは
私は、ココナッツウォーターをゴクゴク。そしておじさんは煙草をスパスパ。普通の煙草ではなく、マパチョと呼ばれるタバコを吸っていました。マルバタバコという品種から作られていて、普通の煙草よりニコチンなどの成分が何倍も強いのだとか。でも、煙の臭いは意外と臭くない。まるでアマゾンの森が煙を吸い取ってしまうみたい。ペルー・アマゾンの先住民の儀式などを行なう際、シャーマンと呼ばれる人たちが吸う伝統の煙草なのです。
サン・クリストバル村のおじさんは、紙巻きたばこは吸いません。自分で吸いたい量のマパチョを巻いて、香りづけに違う植物を混ぜたりしながらオリジナルの煙草を楽しむ、こだわりの愛煙家でした。
キャッサバ芋で育つニワトリたち
ひとり暮らしをしているおじさんですが、家族がまったくいないわけではありません。放し飼いのニワトリたちがいるのです。彼らがつついている木の幹みたいなものの正体は、キャッサバ芋。なかなか腐らないし、地面に放っておけば数日分のエサになるのだとか。もしエサが無いときは、ニワトリたちは土をほじくり返して虫を捕まえます。喉が渇けば、水たまりの水を飲みます。自分で生きていける生命力の強さを考えると、私って、ニワトリ以下なんじゃ…。
トゥクトゥクで駆け抜けたアマゾンの夜
「この道路は隣村まで続いているんだ」とおじさん。サン・クリストバルには一本だけ道路があって、看板によると隣村のドス・デ・マヨと繋がっているようです。でもこの道路、ちょっと狭くない?いえいえ、大丈夫なんです。
村の人はみんなタイのトゥクトゥクみたいな三輪バイクで移動するから、大きい道路は必要ないのです。
「せっかくだから、隣町までドライブしようよ」
隣村のドス・デ・マヨはサン・クリストバルから内陸へ約5km進んだところにあって、栄えているそうなのです。良いですね、せっかくだから行ってみましょう。そうと決まった途端、どこかへ消えてしまったおじさん。近所の友達からトゥクトゥクを借りてきてくれました。一家に一台、というには高級品で、ご近所同士で貸し借りをしているそう。
夕食を済ませて真っ暗になったころ、隣村へのドライブが始まりました。ガソリンを入れて、いざ出発進行!
バイクのライトが壊れていて、明かりは私のスマホの懐中電灯。これじゃあ、前、見えないんじゃない?不安をよそに、トゥクトゥクは夜のアマゾンを走ります。おじさんのハンドル裁きに迷いはありません。上を見ると、満点の星空。そのまま夜空が私たちに落っこちてきてしまうじゃないかと思うくらいの、圧巻の空。アマゾンの夜の迫力に口をポカーンと開けてトゥクトゥクに揺られていたら、虫が口の中に入りそうになって、急に現実に引き戻されました。すると、おじさんが急にこんな質問をしてくれました。
「君たちは、本当はバケツに何を積んでいるんだい?」
ペケペケ号に積んだバケツの中身は?まさかの密売人疑惑をかけられる事態に
こんな風に私たちのペケペケ号はバケツをたくさん積んでいます。黄色い蓋は、食べ物など頻繁に取り出すもの。緑の蓋は、洋服やハンモックなどなど。もともと調理用油が売られていたバケツで、蓋でしっかり密閉されるので、川下りの旅の安価で便利な防水アイテムとして導入しました。このバケツを見て、村の人はよく私たちにこんなことを尋ねてくるのです。「何を売りに来たの?」と。目的もなくただ川を下る、そんな無駄なことをする地元の人はいません。旅人は珍しいのです。
「あれだけ荷物を積んでいるんだから、行商人だろう」
そう思って話しかけてくれるのですが、私たちは売るようなものはなにも積んでいません。そうすると、ますます怪しまれてしまうのです。おじさんは繰り返し尋ねます。本当に変なものは積んでいないよね?コカの葉をお茶として伝統的に飲んでいるペルーでは、それとは違う違法な薬物をアマゾン川で運搬しようとする人たちがいて、私たちもその一味ではないかと疑っているのです。
ペケペケ号はジョアナの船だから、同行者のマキシーは巻き込まれているだけかもしれない。私はスペイン語が得意ではないから、マキシーにだけわかるスペイン語で「明日の朝、出発する前にバケツの底まで中身をしっかり確認した方が良い」と注意されてしまいました。ただ旅をしているだけなのに、夜のアマゾンの森で密売人と疑われてしまう日が来るなんて…。
深夜のアマゾンの森で今度はガス欠の危機
こちらがドス・デ・マヨ村の中心を飾る広場、プラザ・デ・アルマス。広場の周りだけ、夜でも意外と明るくてビックリ。だけど、町の電気は24時間ではなく、使えるのは19時から21時のたった2時間だけ。村の隅に大きな発電機があって、大きな音を立てながら稼働しています。それ以外の時間に電気を使うときは、各家庭で発電機などを使うのです。
私が恐れていた事態が起こったのは帰り道のこと。暗い森の中を走るトゥクトゥクが、調子の悪そうな音を立てて徐々に減速してしまいました。ガソリン切れの合図です。果たして村まで戻れるのか。もし戻れなければ、暗いアマゾンの森を、トゥクトゥクを押しながら歩くしかないのか?いよいよトゥクトゥクが停止してしまいました。
幸い、すぐにボンヤリと明かりが見えてきました。お店の鉄格子が付いた窓越しに、大人や子供たちが集まって、なかのテレビ画面を盗み観ていました。おじさんが目分量でトゥクトゥクに給油したガソリンはピッタリ、村の往復に必要な量だったのです。
楽しくて便利な乗り物だけど、乗るとどうしてもハラハラさせられる。ペケペケとトゥクトゥクは、似ていると思いませんか?泥水のアマゾン川にはペケペケ号が似合うように、土っぽい汚れた道を行くトゥクトゥクもカッコイイものです(次回へ続く)。