一度立ち止まることで見えてくる休息の大切さ
「僕、旅人だったんです。バックパッカーだったことが縁で知り合った人がここに勤めていて」
ロケ地となったゲストハウスの縁側で、映画『ココでのはなし』のこささりょうま監督が語る。物語の舞台は、住み込みバイトの詩子らが切り盛りするゲストハウス「ココ」。そこにパラリンピックでボランティアをしていたフリーター、部屋探しに来たアニメ好きの中国女性ら、人生にふと立ち止まるゲストが訪れる。詩子は、日替わりのおむすびと味噌汁で彼らを迎える。
「疲れてしまってご飯を美味しいと感じられない瞬間って、時折あると思うんです。そんなときに味噌汁をのんでホッとし、ああご飯って大事だなと思ったり。この映画は当初コロナ禍をテーマにしていたのですが、あのころは思ったように活動できない人がたくさんいましたよね。僕自身、重症化して2か月ほど入院しました。そうして無理やり立ち止まってこの映画を撮る意味がわかりました。本来、休憩って自ら選んでするものなんだなと」
映画もゲストハウスも重要なのは人との距離感
映画づくりでは「人との距離感が重要だった」とも。肝のようなセリフをいうにも、極端なクローズアップはなし。それは観る人に、こう感じて! というプレッシャーを覚えてほしくないから。それは近年の物価高やインバウンド需要で注目されるゲストハウスの特質と通じる。
「そこは見知らぬ人と一時的に生活をともにする場所ですが、押しつけがましくない距離感があります。映画を観たスタッフに〝居場所の映画ですね〟といわれてなるほどと。人生は1本の長いタイムライン、それを高速道路にたとえるなら、これはその安息地のようなもの。立ち寄ったからいい景色が見られた、そんな映画になれたら」
完成した映画はトルコ、ポーランド、アメリカ、ベトナム、ドイツと10以上もの国際映画祭を旅した。日本映画への注目の高さを明確に実感したそう。
「日本は島国のせいか、コミュニケーションの取り方が独特。日本語は主語がなくても伝わる、汲み取る文化です。この映画も〝日本人らしい表現だね〟とたびたびいわれました。世界に目が向いているなんておこがましいですが、日本人らしさをもっと出すことで、世界の人に届く何かになりえる。そんなことを思ったんですよね」
『ココでのはなし』
(配給:イーチタイム)
●監督/こささりょうま ●脚本/敦賀零、こささりょうま
●出演/山本奈衣瑠、吉行和子、結城貴史、三河悠冴、生越千晴ほか
●シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開中
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こささ監督的「旅の知恵袋」
必需品
「日本のお菓子」
「海外では、コミュニケーションツールとしてウケがいいです。特に小分けにされたものは、より使いやすいのでよく持っていっていました」
お土産
「瓶ビールのフタ」
「穴をあけ紐に通して集めていました。どれだけの国を回ったかの記念になります。自分は最大70個を集めました。バックパッカーあるあるです」
※撮影協力/ゲストハウス「toco.」東京都台東区下谷2-13-21 バー営業:18:00-22:00 ※バーの営業は宿泊者以外の方もご利用いただけます。
※構成/浅見祥子 撮影/小倉雄一郎(人物)
(BE-PAL 2024年12月号より)