BE-PAL厳選! 話題の新刊4冊はこちら
BOOK01
科学が照らす人びとの営み
自然好きの心を揺さぶる短編集
『藍を継ぐ海』
伊与原 新著
新潮社
¥1,760
山口、奈良、長崎、北海道、徳島、日本の各地で暮らす人びとの営みを紡いだ全5篇から成る本書。萩焼やニホンオオカミといったそれぞれに特色のある風土が、各ストーリーの根幹をなす。
「狼犬ダイアリー」は、奈良に移住したWebデザイナーが主人公。ある夜に山から遠吠えが聞こえ、その後オオカミを見たという少年が血相を変えて帰ってくるところから物語が動きだす。長崎が舞台の「祈りの破片」は、久しく空き家になっているはずの家に、夜に光が灯っていたという市民からの電話相談を役場勤務の主人公が受けるところから始まる。そして、タイトルと同名の「藍を継ぐ海」は、徳島の小さな町の海辺でウミガメの卵を自らの手で孵化させ、育てようとする中学生少女の話だ。神秘的なウミガメの生態も描かれる。
全てフィクション(一部は事実から着想を得ている)ではあるものの、歴史的学術的な説明語りが織り交ぜられ、事実がベースにあることも相まって、読み進めるうちに架空との境界線が時折ぼんやりとしてきてしまう。ミステリアスな空気をふんだんに漂わせながらも、最後にはふっと柔らかな光が射すようだ。人びとの営みと受け継ぐ心は、壮大な地球の自然の中にある。もっと知りたいと知的探究心をも刺激される5篇だ。
BOOK02
日本人は牛乳好き
一杯の牛乳から考える
『牛乳から世界がかわる
酪農家になりたい君へ』
小林国之著
農文協
¥1、760
我々にとって身近な食品の牛乳。チーズやバターの原料で菓子にも使われるが、身近なあまりにどのようにして手元に届くかなど、考えもしない人が多いはず。しかし、牛乳は牛という動物から搾った母乳、生き物由来であることを改めて理解させてくれるのが本書だ。乳牛が食む草は肥料を撒いて育てていること、その肥料も飼料もほとんどが輸入品であること。牛乳は国内製造だが、本当の国産とは一体何かを考えさせられる。
世界的にみても日本人は牛乳を生鮮飲料として飲む割合が高いという。つまり大の牛乳好き。牛乳や酪農についてもっと考えてみてもいいのではないだろうか。
BOOK03
食う食われるじゃない
極めて巧妙な相互関係
『タネまく動物
体長150センチメートルのクマから
1センチメートルのワラジムシまで』
小池伸介、北村俊平編者
きのしたちひろイラスト
文一総合出版
¥1,980
自力では移動ができない植物。子孫を残すにはタネの散布が必要だ。実を動物に食われつつもタネ(砕かれなければ)は糞に混じり放出され大地で芽吹く。あるいは動物の体にひっついて、見事移動に成功。’60年代にサルが絶滅した種子島では植生が今後大きく変化するだろうと見られており、
’00年に大規模な噴火をした三宅島ではメジロ(火山の有毒ガス下でも生活できる!)が森の回復に大きな役割を果たしているという。タネを介した生き物同士の緻密なつながりに驚嘆。
BOOK04
異世界との邂逅
歯に衣着せぬ調査譚
『遊牧民、はじめました。
モンゴル大草原の掟』
相馬拓也著
光文社
¥1、100
遊牧民と聞けば草原に白いゲルと馬、そんな情景が思い浮かぶ。さぞかし厳しい自然の中を生き抜いているのだろうと想像はしていたが、本書を読了した今は想像以上に厳しかった! と改まった。マイナス40度Cを下回る冬、オオカミの存在、酒が絡んだいざこざ、“厳しい”にはあらゆる要素を含む。著者は長年に亘り遊牧民の生活ぶりを共に暮らしながら調査してきた研究者。追い剝ぎさながらの出来事や沙漠でのガス欠など著者もまた厳しさを生き抜いてきたひとりといえる。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2024年12月号より)