機械の力を借りず素潜り・手銛にこだわって巨大なイソマグロに挑む小坂さんが、命を落とすリスクをあえて受け入れるのはなぜなのか?関野さんが迫ります。
「自分の存在そのものを全部懸けてみたくなるような、いい顔をしたイソマグロがいる」
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
小坂薫平/こさか・くんぺい
1995年秋田県生まれ。東京海洋大学海洋科学部卒。大学のサークルで魚突きを始める。2015年から「素潜りで100kgのイソマグロを獲る」ことをテーマに放浪生活を送り、年250日ほどを国内外の海で過ごす。現在までに6つのスピアフィッシング世界記録を樹立。
ひとつのミスが死に直結する
関野 命を懸けているという意識はありますか? 100㎏のイソマグロが獲れるんだったら命は惜しくない?
小坂 いえ、命を捨ててもいいとは思ってないです。でも、息を止めて海中に潜っているわけですから、何かひとつでもミスがあったら死んでしまいます。
たとえば、銛に繋がっているロープが体に絡まったら、イソマグロに引きずり込まれて一巻の終わりです。あるいは、獲ったイソマグロを水面に上げるとき。サメが来る前に一刻も早く息の根を止めなければならないのですが、イソマグロが大きすぎて、しかもヌルヌルしているので、エラに手を入れるんです。
イソマグロは最後の力を振り絞ってエラの中をギュッと締めてくるので、簡単に手は抜けません。その瞬間にもしイソマグロが息を吹き返して海中に潜ろうとしたらかなり危ないことになるでしょう。イソマグロの力は半端ではないですから。
関野 サメなどの危険もあるのではないですか?
小坂 サメはうじゃうじゃいます。海流や波もやばいです。ある海では複雑すぎる海流によって何メートルもの波が立つんですよ。そんな海では、海中は洗濯機みたいになっていて体がもみくちゃにされたり吸い込まれたりするし、海面では波が被さってきて呼吸がまともにできません。
怖いのはそれだけではありません。海に潜っていくと暗くて底も見えなくて吸い込まれそうな怖さがあります。その暗い海の中でイソマグロと向き合うのも怖い。海の中では物は陸上の1.3倍に大きく見えるので、僕が狙っている2mのイソマグロは2.5mぐらいに見えるんです。
目は拳ぐらい大きくて、顔自体も恐竜のような怖い顔をしている。ただ、めちゃくちゃ怖いんですけど、今まで自分が培ってきた経験や自分の存在そのものを全部懸けてみたくなるようないい顔をしたイソマグロが存在するんです。そんなイソマグロと向き合ったときには、とても濃い時間が流れます。コンマ数秒のことですが、自分のすべてをぶつけられるという充実感に満たされるんです。
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