この写真はペケペケ号でたどり着いたアマゾンの玄関口と言われている、ペルーの都市イキトスで撮りました。ところで、私の後ろに移っている小屋は一体なんだかわかりますか?これが実は廃墟ではないのです…。
イカダの上に建てられた小屋の正体は?
イキトスには空港があって、アマゾン川を目当てに多くの観光客が訪れる大きな都市です。都市部に行くほど貧富の差が出てくるもので、ここでも川沿いの一部地域がスラム街のようになっていました。私が訪れたのは乾季でしたが、この場所は雨期になると川の水位が上がって、まるで川の上に家がたくさん浮かんでいるように見えるそうです。
カヌーや小舟が浅瀬に置かれているなか、ペケペケ号の後ろにあるイカダの上に浮かんでいた謎の小屋。その正体は、トイレでした。
勇気を出して、イカダ式のトイレの持ち主であるおじいちゃんに話しかけてみました。
「おお、ワシも若い頃は川であちこちへ行ったよ」
意外にも旅を応援してくれて、イキトス観光をする間、ペケペケ号を預かってもらえることになりました。
アマゾン川流域にあるという魔女市場を探して
イキトスには、いくつか大事な用事がありました。まずは、ここまで一緒に旅してくれたベルギー出身のマキシーちゃんの帰国を見送ること。ペルーに6年間住んでいたマキシーちゃんが、最後にやりたいことがイキトスにあったのです。
「ねえ、魔女市場へ行こうよ!」とマキシーちゃん。
「えっ!?ま、魔女市場!?なんじゃそれ」。聞けば、とにかく魔女が使いそうな物がたくさん並んでいる市場なのだとか。
場所はベレンという大きな市場の一角。実はマキシーちゃんがこの場所を訪れるのは初めてではなく、以前来たときには屋内型の魚市場の2階部分にあったそう。いや、まさかそんなところに魔女市場が隠されているだなんて…。
ドキドキしながら行ってみると、残念ながらそこはシャッター街でした。魔女市場はここ数年で屋外エリアに移転したのだそう。そりゃあ、ちょっと暗くてジメジメしたところの方が魔女っぽいけれど、あんまり奥まった場所にお店を構えちゃ、客足が掴めないものね。
薬草香る町を歩いて
通りを歩いていくと、なんともいえない臭いのする通りに出ました。例えるなら、そう、私のおじいちゃんのタンスの中。おじいちゃんは、そこに胃腸トラブルの強い味方、太田胃散を常にストックしていて、独特の臭いがしました。そのタンスに、さらにいろんな薬草を詰め込んだのが、魔女市場の香り。
この市場で売られているもので無臭なのは多分、シカみたいな動物のツノだけ。ほかには、よくわからない木の樹皮がたくさん売っていて、近くには山盛りのニンニクが。ドラキュラ退治のためではありません。魔女市場とは、自然由来の体に良いものを集めた市場、つまりアマゾン版の漢方市場だったのです。
ハぺの木は、粉にして鼻から吸うと、頭痛などの体の不調に効くのだとか。ただし、結構鼻にツーンとくるし、酔っぱらったみたいになる不思議な薬。
細くて白っぽい枝のようなものは、可愛い名前をしていました。その名も「シミパンパン」。怒りっぽい気分を鎮める効果があるのだとか。
魔女市場でもっともたくさん売られているアイテムは、液体の飲み薬でした。なにが入っているのかは、よくわかりません。ラベルはかなりの個性派揃い。例えば「パンツ破り」とか、滋養強壮の薬が多いみたい。さすが情熱の南米!
ちなみに、一帯の独特の臭いは、通り一面のマパチョ屋さんのせいでもあります。「マパチョ」とは、マルハタバコという品種の葉を乾燥させて巻いた、ペルー伝統の煙草のようなもの。我が旅の親友マキシーちゃんはヘビースモーカー。マパチョ売り場からまったく動きません。
「マパチョは悪いものをすべて追い払うんだ。蚊も、川の盗賊も、おばけだって、マパチョが全部追い払ってくれるのさ」
アマゾンではそう言われているので、非喫煙者の私に代わって旅の間はずっと吸ってくれていたマキシーちゃん。煙草を吸うのも、安全に旅をするための大切な仕事だったのです(笑)。
神聖なシピボ族の儀式を体験した
2人で最後にイキトスでやりたかったのが、シピボ族の儀式を体験すること。シピボ族とは、ペルーのアマゾン川流域に古くから住んでいる先住民族で、彼らには、森の植物を用いた伝統の儀式があるのです。
使うのは、木の断面が可愛い花柄をしている、アヤワスカという植物。以前の記事でも紹介しました、おでこにくっつく不思議な木です。シピボ族の間では、これをほかの材料と一緒に煎じると、人間の本能よりさらに奥深いところで、自然の世界と繋がることができると信じられています。現代的にいってしまえば「幻覚」ということになりますが、今でも、伝統の儀式として大切に継承されています。
この特別な儀式を行なうことができるシピボ族のシャーマンが、イキトス近郊に住んでいると聞き、渡し船に乗って行ってみました。
「あなたはどうして、儀式を受けたいの?」実際に儀式を始める前に、自分自身との対話を促されました。儀式に使う煎じ薬は、体への負担が大きく、激しい嘔吐などの副作用もあるらしいのです。
この嘔吐は体の毒素を出すデトックス的な作用がある良いものとして解釈されているそうですが、儀式が行なわれる前は、刺激のある食べものを避けたり、断食したりします。肉と塩を食べない、野菜だけの食生活を何か月も送る人もいます。
美味しい食べ物を食べないで、人もいなければ、娯楽もない山中で何か月も過ごす。そうして空っぽになった自分が、儀式の助けを借りて本能の先に、どんな自然の真理をみるのか。精神修行のための儀式でもあるのです。
儀式が行なわれるのは、深夜。真っ暗な森の中に建てられた小屋の中で、おちょこ一杯分の煎じ薬をいただきます。しかし、儀式が始まる前の真っ暗な中で瞑想をする時間で、爆睡してしまった私。
揺り起こされて差し出されたおちょこをグイッと飲むと、ま、マズい!!!激マズ!!人生で口にしたもののなかでダントツにマズい!
ドロドロしていて、喉を流れていきません。粉っぽいのがザラザラ残っているうえ、とにかく苦い。これまで体験したことのない苦さです。もう、飲みたくない。
気になる幻覚作用ですが、儀式が終わってウトウトしていると、夢と現実の合間でなぜか巨大なズッキーニが見えました。視界いっぱいに、種がハッキリ見えるズッキーニ。これは、ペケペケ号の旅の最中、ズッキーニ入りのパスタばかり食べていたせいでしょう。まあ、最後の方はズッキーニも尽きて具無しパスタを食べたりもしたのですが。
「ペケペケ号を操縦しているときって、瞑想しているみたいに頭が空っぽだったなあ」
辛いこともあったけど、旅を通して自分自身や自然と十分向き合うことができていたから、もしかしたらこの儀式は今の私たちには必要なかったのかもね。最高の旅であり、最高の修行だったと、二人旅を振り返って思いました。
二人旅の締めくくりは、やっぱり川で
儀式の最後は、早朝の川に入ります。陰と陽に似た考え方で、儀式の薬は「温」だから、川の「冷」で締めるのです。
まずは、川の上流側を向いて水を浴び、次に下流側を向いて水を浴びる。川がやって来る場所と、去る場所、順番に水を浴びるのにも意味があるのだとか。川下りの旅の途中で受けたこの儀式の締めくくりとして川に戻って来たのは、不思議な縁を感じました。
次回は、魔女市場の近く、朝市でゲットしたとある珍味を料理します。お楽しみに。