今回は、ソロで高所の雪山までステップアップしてきた筆者の経験を元に、雪山に登るための準備と心得をご紹介します。
雪の低山は山の魅力がいっぱい詰まっている
3シーズンでは見られない雪の世界
ハイキングや登山を続けていると「いつか登ってみたい」と思うのが雪山です。春夏の緑に溢れた時期、秋の紅葉など、山は季節ごとに見られる風景があり、1年を通して山に登るモチベーションにもなります。
中でも冬、雪が降り山が白銀の世界に染まる時は山が一変します。青空以外、全てが白に染まった空間に身を置く緊張感と高揚感は冬でしか得られないものです。
それまで見えづらかった動物の足跡が明確に見え、澄んだ空気から見える遠くの眺望、雪が発達して見られる自然の造形美などは、雪山でしか経験できません。
登山者としてのステップアップ
魅力とは少し違うかもしれませんが、登る山が同じでも、雪が降ると難易度は大きく上がります。道が見えづらくなったり日が落ちるのが早くなることで、より計画的な行動が求められるだけでなく、軽アイゼンなどの雪山ならではの道具を使えるようにならなくてはなりません。
難しい山に登り、登頂する感動が雪山にはあり、登山者として成長したことを実感できる瞬間です。
雪山に登るための準備と心得
無積雪期(春〜秋)に行き慣れた山を選ぶ
筆者が雪山に挑戦したのは、年間を通して多くの登山者が訪れる丹沢の塔ノ岳でした。3シーズンで何度もこの山に登り、山頂までの所要時間や気をつけるポイント、トラブルが起きた際の対処などを心得ていたことや、行き慣れていたことでの安心感があることが決め手でした。
また電波が通じるのかといった、現地に行かないと分からないことが把握できていたことも大きかったと振り返ります。
雪山の挑戦が初めて登る山となると、低山でも現地情報の把握は3シーズンより慎重を要することになります。トラブルの対処も難しくなることから、まずは行き慣れた山を選ぶことが大切です。
装備を準備する
筆者が雪山に登る際に準備したのが、保温性のあるアウターやグローブ、ゲイター、軽アイゼン、サングラス、低温下でも使える燃料などでした。主に雪によって受ける影響と低温対策で、暖かいダウンジャケットと軽アイゼンは必携でした。
筆者が登った雪の塔ノ岳は風が強いと凍るという言葉が適切なほど寒く、頂上をはじめ休憩時には暖かいウェアが必須でした。
ご紹介したアイテムは3シーズンで使い慣れていたり特別な経験がなくても大丈夫でしたが、軽アイゼンは事前に装着の練習をしておくと良いです。装着自体はそう難しくはありませんが、グローブをした状態や寒さで指先が十分に動かない状況での装着は結構難しく時間を要します。事前の練習で手順やコツを掴んでおくと、現地でも冷静に装着できるようになります。
所要時間を長くする
十年近く前、稀に見る降雪に見舞われた塔ノ岳に登ったことがあります。所要時間は3シーズンの2倍以上かかり、特に登りは体力を消費し苦労したのを覚えています。
多くの場合、雪山は他の時期と比べて所要時間は長くなります。雪を持ち上げるように歩くことで脚に負担がかかったり、軽アイゼンの装着をはじめとした手間がかかるなどが原因です。
3シーズンでの所要時間の1.5倍から2倍を想定しておけば、焦ることなく行動することができます。
早出を心がける
行動時間が長くなると、日没で暗くなり行動不能に陥るリスクが上がります。また気温も下がっていくので、行動力の低下や寒さによる不安も大きくなります。
冬は日没が早いこともあり、余裕を持って下山するには3シーズンより早い時間にスタートすると良いです。
所要時間の見積もりと同様、マージンを多めに取っておくことで安心感が得られ、焦りによる転倒をはじめとした怪我の予防にも繋がります。
ときには引き返す判断を
十分な装備を持ち、所要時間を長くしたり早めのスタートをしても、上手く登れないときがあります。雪山では体温低下を防ぐためにドライな状態をキープして登ることが求められます。
筆者はその基本が守れず、焦って登って大量の汗をかき、寒さのあまり雪の塔ノ岳を途中で引き返したことがあります。夜明け前に登りはじめ、朝一の特別な山頂を見たくて登ったのですが、急がないと山頂前で夜が明けてしまうと焦ったのが原因です。
悔しい経験をしましたが、あそこで引き返さなかったら寒さで動けなかったかもと思うと、反省はありながらも引き返す判断は正しかったと振り返っています。
予定時間より大幅に遅れている、想定以上の積雪で道が読みづらいなど、不安材料が増え遭難リスクが上がったときは早めに引き返す判断をしましょう。
十分な準備をして雪山に登ろう
雪山は3シーズンとは異なる特別な世界が広がり、登山者の成長とあいまって忘れることのない時間を過ごすことができます。行き慣れた山を選び、装備を増やして念入りな計画を立てるなど、十分すぎるくらいの準備を行うことで、安全に登ることができます。
ぜひ雪山を楽しんで新たな山の世界に触れてみてください。