海外の旅とフィールド遊びの面白さがわかる2冊を紹介
BOOK 01
“線の旅”から見た世界。旅の記憶は舌の記憶だった
『世界の果てまで行って喰う─地球三周の自転車旅─』
石田ゆうすけ著
新潮社
¥1,760
自転車の動力はペダルを漕ぐ乗り手自身の力による。自動車を走らせるために燃料が必要なように乗り手にはメシがなくてはならない。
本書は、「走るために喰っていたが、もはや喰うために走っている」、そんな著者が放つワールドメシエッセイ。世界87か国を自転車で約7年半(一度も帰国せず)をかけて巡っている。著者曰く“線の旅”、連続性のある自転車旅ゆえに気づく食文化の遷移が特に興味深い。
一気喰いしたバゲットや毎日食べたという牛肉麺、パタゴニアの羊肉など数多の絶品メシが登場し、出会った人びとと食べたときの風景がともに描かれる。もちろん“旨い話”だけではない。炊いた米に混ざる謎の黒い粒々や肉にまぶされたまさかの灰色の粉……。馳走になったものの旨いとは言い難いメシも多々あり、「本当に申し訳ないのだけど」と必ず枕詞を挟む著者は食に対して素直で真摯だ。
世界一周はいたるところに心残りを作る旅でもあったという。一周旅で行きたくても行けなかった国にはその後に訪れ、食い走り続けている。それゆえ旅の総走行距離は地球三周分!
今の日本では手軽に食の世界旅行が可能でそつなく旨い。だがしかし、やはり現地で、本場で、食べてこそ味わえるものがある。旅の醍醐味を改めて教わった。
BOOK 02
人の顔か動物か?冬場のフィールド遊び
『冬芽ファイル帳 かわいくておもしろい冬の植物たち』
鈴木 純著・写真
小学館
¥1,760
冬は草木が枯れて物寂しい季節でもある。だが、この冬こそがいいときだと本書は「冬芽の観察」を推す。冬芽とはいわば蕾のような状態の芽のこと。公園や街路樹など身近な樹木の先端を見るだけ、観察方法はとてもシンプルだ。こういう楽しみ方があったのかと、今まで気にもとめていなかった植物への関心が格段に上がり、茶色一辺倒だった景色もなんだか賑々しい。
本書では50の冬芽を紹介。実物の多くは小指の爪ほどの大きさしかなく、かなり小さい。どれも人の顔や愛嬌ある小動物のように見えるから不思議だ。冬芽は春まで同じ姿で動きがないというから長く楽しめそう。
※構成/須藤ナオミ(BOOK)
(BE-PAL 2025年1月号より)