ホーボージュンが見惚れた「二次燃焼」を実現した焚き火台とは?
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    2025.01.30

    ホーボージュンが見惚れた「二次燃焼」を実現した焚き火台とは?

    ホーボージュンが見惚れた「二次燃焼」を実現した焚き火台とは?
    前回は「生きるための火」について書いたが、今回は「食べるための火」。僕が調理に使っている焚き火台は、そっけないけど強力なこんなモデルだ。

    厳しい旅で「生き延びる」ために使う焚き火台【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学03】

    【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学】第4話「食べるための火」

    ギア「mont-bell / Folding Fire Pit」

    ロストルに小枝をひとつかみ放り込み、ライターで火を着けた。すると白煙がモクモクと湧き上がり、僕の顔面を直撃した。

    「ゲホゲホッ」と思わずむせる。煙が目に染み、涙が滲んだ。どうやら雑に集めた焚き付けの中に、生木が混ざっていたようだ。

    「テメエら覚えてろよ!全員火あぶりにしてやるからな!」 僕は罪のない小枝たちに向かって悪態をつく。モタモタしている暇はない。早く火を熾して夕メシの仕度に取りかからないと日が暮れてしまうのだ。

    とはいいつつ、僕はたいして心配していなかった。今日は強力な焚き火台を持ってきている。焚き付けが多少湿ってようが、薪が広葉樹ばかりだろうがぜんぜん問題ないだろう。

    その期待どおり炎はスルスルと燃え広がり、やがて白煙は霧散した。そして10分もしないうちに太い薪に火が回り、ステンレスの内壁に反射した炎がまるでマーマレードのようなオレンジ色に輝きはじめた。

    「よーし、そろそろかな」

    僕のつぶやきが聞こえたのか、内壁にうがたれた孔からチロチロと炎の舌が出始めた。そう、二次燃焼が始まったのだ。

    「ふふふふ……」

    僕は作業の手を止め、内壁から噴き出す炎にしばらくのあいだ見とれていた。いつ見ても愉しいものだ。やっぱり“ニジネン”は男のロマンなのである。

    「二次燃焼」というのは薪が燃えるときに発生する可燃ガスのうち、燃え残った成分(つまり煙だ)を再加熱して最後まで燃焼させることだ。これによって燃料の無駄をなくし、強力な火力を得ようという企みである。

    こういった再燃システムは薪ストーブやボイラーでは古くからあったが、これをキャンプ用の焚き火台に応用したのが米国のソロストーブだった。円筒型の燃焼室が二重構造になっていて、この隙間を通る空気が焚き火に熱せられて急上昇し、上部の穴から筒内に噴出する。そこに燃え残った可燃ガス(煙)がぶつかって二次燃焼を引き起こすのである。

    僕はこのソロストーブが大好きで、これを真似てトマト缶で自作したり、大型の『レンジャー』で巨大な炎を楽しんだりしているのだが、この手のストーブの最大の弱点は嵩張るので持ち運びが不便なことだ。

    そんななか2020年に登場したのがモンベルの『フォールディングファイヤーピット』だった。これは燃焼室が箱型でペタッとたためるが、両サイドの壁が二重になっていて二次燃焼を引き起こすようになっている。

    初見のとき僕は「なんかダサいなあ……。焚き火台というより焼却炉みたいだ」と思っていた。でも火を入れてみるとこれが調子いい。ちゃんと二次燃焼するし火力も強い。そしてこのダサい箱型が調理にめちゃくちゃ使いやすいのだ。

    上に五徳を渡せば大鍋も乗せられるし、網を乗せて焼き物もできる。横幅は42㎝で、一般的な薪がちょうど横たえられ、縦幅は22㎝で、10インチスキレットを乗せたときのバランスがちょうどいい。そして五徳は左、中央、右と3か所に固定できるので、薪の燃え具合に応じて火力調整がしやすいのだ。

    また燃焼室に深さがあるおかげでドラフト(上昇気流)が発生しやすく、下から新鮮な空気が流入する。だから薪を組み替えたり、火吹き棒で空気を送り込まなくても勝手にどんどん燃えてくれるのだ。

    じつはこの焚き火台、モンベルの辰野岳史社長が直々に企画・開発したものだ。僕は大阪本社で開発時のエピソードをうかがったことがあるが、エアインテークの形状と空燃比(空気量と燃料の割合)の設定がとても難しかったという。

    まさかモンベルの社長から「空燃比」なんて言葉が出るとは思わなかったが、じつは岳史さんは大の乗り物好きで、内燃機関やキャブレターセッティングにめちゃくちゃ詳しい。僕もそっち方面は大好物なので、ふたりしてウェーバーやミクニのセッティング話で盛り上がってしまった。

    さて、こうして燃焼効率を徹底的に突き詰めた結果、コンパクトに折りたためる高出力の焚き火台ができ上がった。そしてこの製品は登場と同時にベストセラーとなったのである。

    ただしコイツには「薪を組む楽しさ」だとか「火を育てる喜び」などはまったくない。火は愛でるものではなく、使うもの。色気も雰囲気も必要ない。そんな業者的な割り切りがコイツの持ち味なのである。

    炎が大きくなるにつれて、僕の体も温まってきた。ネルシャツのボタンをはずし、『ファイヤーピット』の前に腰を降ろす。

    薪はバンバン燃えさかり、噴出孔からは二次燃焼の炎がドラゴンのごとく噴き出し始めた。黒光りするスキレットが油をバチバチと跳ね散らかせている。いまなら100人分のチャーハンだって作れそうだ。

    「さあて、やるか」

    白米はもう炊けたし、2ポンドもあるステーキ肉はグローブカットして特製のスパイスを揉み込んである。あとはジュージューと焼くだけなのだ。

    さあ火を焚け、肉を焼くぞ!

    天を焦がし、星を喰うのだ!

    僕は缶ビールをグビリと飲んで腕まくりをすると、夕メシ作りにとりかかった。

    付属

    右からロストル、焼き網、火床、本体がセットになっている。左が完成品。収納すると本体は厚み5cmになり、とても薄くなる。

    薪をセット

    広葉樹がゴロンと入り、高火力な焚き火をしたい人にはうってつけだ。

    穴

    焚き火台の上部にある穴。側面下部から入った空気が二重構造の壁の間を駆け上がり、ここから噴出。

    二次燃焼

    燃え残ったガスとぶつかって二次燃焼する。この状態がたまらん!

    ホーボージュン

    image

    大海原から6000m峰まで世界中の大自然を旅する全天候型アウトドアライター。X(旧Twitter)アカウントは@hobojun。

    ※撮影/中村文隆

    (BE-PAL 2025年1月号より)

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