180年以上前から親しまれてきた練馬区・氷川神社の富士塚【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.111】
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    2025.01.12

    180年以上前から親しまれてきた練馬区・氷川神社の富士塚【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.111】

    180年以上前から親しまれてきた練馬区・氷川神社の富士塚【プロハイカー斉藤正史のTOKYO山頂ガイド File.111】
    東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。

    FILE.111は、練馬区の氷川神社の富士塚です。

    第111座目「氷川神社の富士塚

    今回の登山口は、東京メトロ平和台駅1番出口です

    東京メトロ平和台駅1番出口登山口。

    今回の目的地は、練馬区にある氷川神社の富士塚。最短の登山口=最寄り駅は、東京メトロ下赤塚駅です。

    事前に地図で見ると、山行としては近距離すぎる感じでした。周辺には他にも地下鉄などが走っています。近すぎず遠すぎず、ちょうどよい距離の登山口はどこだろう…と考えて選んだのが、東京メトロ平和台駅でした。

    思い出深い街の馴染みのない道

    実はこの平和台駅、僕にはとっても思い出深い駅なんです。僕が、プロハイカーとして活動したてのころ、弟が平和台駅の近くに住んでいました。当時の僕は上京するたび、弟のアパートに泊まっていました。

    記念すべきプロ転向後、最初のトレイルであるアメリカのパシフィック・クレスト・トレイルへ出発する時も、その旅から帰ってきた時も、東京で仕事がある時も、トリプルクラウナーになった時も、平和台の弟のアパートが拠点でした。平和台は、そんな思い出の場所なのです。

    その後、弟が郷里の山形に戻ってからは、僕も平和台に行く機会もなくなったので、今回は久々の訪問です。ほぼ無意識でしたが、結果的に登山口に平和台駅を選んだのは個人的に馴染みがあったからかもしれません。

    ただ、そんな平和台といえば住宅街。弟のアパートも、一戸建てやマンションが軒を連ねる住宅街にありました。これまで連載で何度も触れていますが、住宅街は特筆すべきことが何もないことが少なくありません。記事を書く立場の人間にとっては、まさに魔のエリア。今回も事前に地図を見ましたが、これといったものが全く見当たりませんでした。

    不安なまま、とりあえず平和台駅1番出口を出発。東京都道411線沿いに歩いていきます。この周辺はいつも工事をしている印象です。

    実は、今回歩いたのは弟のアパートがあった場所と反対側なので、駅前を通り過ぎると未知の道のりになっていきます。少し歩くと真新しいお店が見えてきました。銀座鈴屋×雪華堂平和台店です。

    もともと雪華堂は、創業明治12(1879)年の老舗和菓子店だそうです。一時は練馬区を中心に7店舗あったそうですが、2023年に全店が閉店。ただし、平和台店を含む3店舗は、1951年創業の甘納豆専門店の「銀座鈴屋」が承継したそうです。お店に歴史あり、ですね。

    銀座鈴屋×雪華堂 平和台店。

    ただ、これ以上ネタはないかもしれないという予感が的中。とうとう、行けども行けども一戸建てやアパートしかない住宅街(って当たり前ですが)に突入しました。

    下を向いて歩いていると、住宅街にのぼりがありました。見ると「シェア畑」文字が。早速調べてみると、シェア畑練馬平和台のサイトを発見しました。

    手ぶらで気軽に畑作りが出来るのが「シェア畑」だそうです。東京都だけで40カ所以上あるようで、季節ごとの野菜の種や苗、重たい農具や肥料も畑に用意。

    農具以外に必要な資材も全て畑に常備されていて、経験豊富な菜園アドバイザーが週4回以上勤務しているそうです。こんな農園が都内にあるとは。東京で土に触れられるなんていいですね。

    住宅街にぽつんとある「シェア畑」。

    さらに住宅街をどんどん進んでいきます。すると「どんぐり山の森緑地」が見えてきました。この連載で取り上げる山の調査をしたとき、練馬区内で候補になったのが「どんぐり山の森緑地」でした。

    当たり前ですが、「山」と名が付く場合、結構な確率でそこに「山」があります。でも、「どんぐり山の森緑地」については、山である事実が確認できなかったので、リストから外していました。

    ちょっと寄り道をして公園に入ってみます。入り口には説明看板などはないようです。公園の奥まで進むと大きなどんぐりがたくさん落ちていました。小さいですが、豊かな森です、ただ、やはり「山」ではなさそうでした。

    どんぐり山の森緑地。

    気を取り直して、住宅街をさらに進んでいきます。すると、「大松橋」の碑がありました。このあたりは田柄川(たがらがわ)水域で、かつて水田が多くありました。農地対策事業の一環で畑地となり宅地化されていった歴史があるそうです。

    ただ、元水田の湿地帯に家が建ち並ぶこととなり、かつては降雨時の家屋浸水被害が頻出する原因となっていたそうです。大松橋がかかる田柄川の川幅も6mに拡張し、河床掘削も行われました。

    また、1971(昭和46)年からは下水道としての田柄川幹線工事が開始され、田柄川も地中にその姿を消したそうです。その名残が大松橋跡、というわけです。

    こうして大松橋跡と碑を残してくれていなかったら、ここに川が流れていたことも、かつてこの地区に水田があったことも、一般の人たちには知る機会がなかったでしょう。こうして土地の歴史を伝え、何かを残すことは、結構重要なことだと思います。

    「大松橋」の碑。現在は道路になっています。

    そのまま住宅街をどんどん進んでいきます。そして、ようやく細い路地に入ると、大松氷川神社の入り口にある富士塚にたどり着きました。

    目的地の富士塚に到着

    氷川神社

    創建は定かではないそうですが、古くから「大松の氷川様」「松の木の氷川様」といった呼び名で親しまれていたそうです。「大松」とは、下練馬村の小字(こあざ)、つまり住所の大字の下にくる細かい土地の所在を示す地名だとか。

    氷川神社。

    氷川神社の富士塚

    富士塚は丸吉講によって築かれたもので、頂上の祠(ほこら)は1835(天保6)年に再建されたそうです。塚の中腹の手洗石は、1838(天保9)年の再建と刻まれているそうで、富士塚自体はそれ以前からあったと考えられます。

    この他にも明治・大正時代の登拝記念碑や、鈴原神社の碑も建てられていて、練馬区指定有形民俗文化財になっています。ちなみに、こちらの富士塚の高さは約3.7mで、登れます!

    氷川神社の富士塚。

    数年ぶりに訪れた平和台。あれだけ何度も来ていたのに、平和台という街とその周辺について知らないことばかりだなと痛感しました。もう少し身の回りに興味を持って見ることも大切だなと思う山行でした。

    次回は練馬区の下練馬の富士塚です

     ※今回紹介したルートを登った(歩いた)様子は、動画でもご覧いただけます。

    私が書きました!
    プロハイカー
    斉藤正史
    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。最新情報はブログを。

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