【佐藤ジョアナ玲子のアマゾン旅 vol.20】ブラジルの辺境に住む、長寿の秘薬=ガラナを育てる日本人を訪ねて
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    2025.01.12

    【佐藤ジョアナ玲子のアマゾン旅 vol.20】ブラジルの辺境に住む、長寿の秘薬=ガラナを育てる日本人を訪ねて

    【佐藤ジョアナ玲子のアマゾン旅 vol.20】ブラジルの辺境に住む、長寿の秘薬=ガラナを育てる日本人を訪ねて
    ペルー、コロンビア、ブラジルの3か国が交わる国境地帯にあるタバチンガという町に住む日本人がいる。そんな噂は、かれこれ3年以上自転車で南米を旅しているという友人から仕入れたもの。

    サブローさん、84歳は、アマゾンの珍しい果物=ガラナを育てる農家さん。自宅の目印は、壁に日本語で「ありがとう」という看板らしい。港から続く道沿いに家があるはず。でもどこかって、どこだろう?見つけるまで歩き続けるぞ!

    サブローさんを訪ねてブラジル・タバチンガへ

    壁に「ありがとう」と書かれた家

    噂の通り、「ありがとう」と書かれた建物を発見。

    歩き始めたら、あっさり見つかりました。お家の脇の看板には、「ORGANICO GUARANA(オーガニコ・グアラナ)」とあり、これは有機栽培のガラナを販売していることを意味します。

    ブラジルで使われるポルトガル語の発音では「グアラナ」ですが、日本では「ガラナ」のほうが一般的。というのも、この果物を材料にした炭酸飲料が北海道などにあり、それがガラナという名称で親しまれているからだとか。

    ところでガラナとは、どんな果物なのでしょう?サブローさんの畑へ行って、教えていただきました。

    バイクに二人乗りして畑へ

    バイクに二人乗りして畑まで連れて行ってくれるサブローさん。

    バイクの後ろに乗せてくれたサブローさん。背中がカッコいい!

    ジャングルみたいなガラナ畑

    畑がある敷地

    サブローさんのガラナ畑がある敷地に到着。

    舗装路からそれて、道なき道をバイクを押して進むサブローさん。ガラナ畑はこの先にあります。

    近所の人の飼い犬

    忠犬は近所の人の飼い犬。

    サブローさんの後ろをついてきた犬は、畑のご近所の飼い犬。サブローさんが持ってきてくれる朝ご飯の残りのパンを目当てに、いつも後ろをついてくるのだとか。

    農作業用の小屋

    農作業用の小屋がトタンなのには、理由がありました。

    犬は人懐っこいけれど、サブローさんのお話を伺うと人間はそうとも限らないようです。この農作業小屋は、もともとは道路沿いにあったのを何度か再建築したものだそう。というのも、アマゾン川地域にルーツを持たないサブローさんを疎ましく思う人たちがいて、小屋を燃やされてしまったことがあるのだとか。

    「だから、敷地の奥の方に移したんです。それに、トタンなら燃えないでしょ」

    アマゾンで農家として果物を育てるには、自然環境以外にも乗り越えなければならない障壁がたくさんあるそうなのです。畑をめぐる対立で、命を狙われたり、死んだという噂を流されたこともあるサブローさんは、「私は3回死んでいる」と語りました。

    生命があふれるアマゾンでは、一つ一つの人命が軽くなるようなのです。

    「スイカを育てるとしたら、人を10人殺さなきゃならないくらいだ」

    なぜなら、美味しいスイカは盗もうとする人がたくさんいるから。だから誰も殺さずに済むように、昔は人気がなかったガラナに目を付けたのだと、サブローさんは冗談交じりに話してくれました。

    ガラナ農家の男気

    サブローさん家族の写真

    サブローさんの奥さんタミエさんと、お子さんの写真。赤い実がガラナ。

    ガラナが実るのは早くても秋ごろですが、私が訪ねたのは7月。畑に実がない時期なので、代わりに写真を見せてもらいました。丸い真っ赤な実がガラナで、パックリ割れて黒い頭をのぞかせているのが種です。

    なんだか目玉の妖怪みたいな木の実。現地ではこの種の部分を炒って粉にしてお茶にするのだそう。私も一杯いただくと、やや渋みのあるスッキリした味。甘くないあんこみたいな、優しさを感じる香り。

    ガラナ畑を歩くサブローさん

    ガラナ畑を歩くサブローさん。

    サブローさんのガラナ畑は、まるでジャングル。手入れをしても、熱帯雨林の栄養豊かな土と太陽で植物がグングン育ち、あっという間に茂ってしまうのだとか。

    剪定するサブローさん

    枝を迷いなく切って進んでいくサブローさん。

    ガラナの実の成長の邪魔になる余計な枝などは、チョキンと剪定します。現地では健康に良い長寿の薬として有名なガラナのお茶。その効果を疑う余地がないほど、サブローさんはハツラツと農作業をしていました。

    白いガラナの樹液

    ガラナの樹液は白かった。

    切った枝の断面からは、白い樹液のようなものが垂れてきます。これは一度洋服についたら二度と取れないくらい、頑固な樹液なのだそう。

    ガラナのつぼみ

    ガラナのつぼみが生え始めていた。

    サブローさんがブラジルへやって来たのは、1965年最後の移民船「ブラジル丸」。45日間の荒い航海を経てブラジルの地を踏み、入国の手続きを待つ間、初めて現地で飲んだのがガラナのジュースでした。

    「ブラジル丸ではジュースといえばコーラばかりだったから、初めて飲むガラナのジュースは美味かった」

    それは半世紀以上経っても覚えている味。サブローさんにとってガラナは特別な果物なのです。ただし現在、流通しているガラナの清涼飲料水は、ほんのわずかなガラナの成分しか含んでいないので、健康のためには毎日お茶で飲むのがおすすめだそうです。

    ガラナはお茶にしても美味しい

    ちなみにガラナのお茶の粉は茶色いものが多いそうですが、サブローさんが作るお茶は白っぽい色をしています。なぜなら、ガラナの種を割ると中身は白い色。粉にしたときに茶色くなってしまうのは、炒りすぎが原因。

    これを防ぐために、サブローさんは二度炒りをしているといいます。まず一回目は80度C程度で炒って、それでは足りなかった大きいものだけを選別してもう一度炒ることで、全体の炒りすぎを防いでいるそう。

    ちなみに、ガラナの収穫はカカオと少し似ていて、実をもいだら土の上に数日間放置して追熟するのが一般的な収穫方法なのだそう。しかし、これをやると風味が悪くなるからと、熟した実だけを収穫して、その日のうちに炒るのがサブローさん流。

    2025年は、ブラジルと日本の外交関係が樹立してから130年の節目の年です。日本にいたころから柔道をやっていたサブローさんの夢は、この節目を記念して、ブラジル、ペルー、コロンビアの三国国境に柔道場を建てること。講道館や日本政府に協力を求めたいと語る目は本気でした。

    働く姿も生き方も、真面目で力強いサブローさんは男の中の男なのです。

    アマゾンの森にある食べ物

    食べられるこの赤い木の実

    この赤い木の実も食べられるらしい。

    ガラナの実は見られなかったけれど、自生している食べられる木の実を次々に紹介してくれるサブローさん。まずは、枝になっている小さな木の実を食べてみることに。

    味はのしない果実

    見た目はトマト、味は、とくになし。

    トマトみたいな断面をしているけれど、酸っぱくもなく、甘くもなく、あまり味がしませんでした。のどが渇いているときに食べたら美味しいかも。

    白くて柔らかい木の実

    この白くて柔らかい木の実も、お茶にして飲むらしい。

    この白っぽい果物も、やわらかくて熟していそうだけど、実は甘みもなにもなく、強いていえばお茶にして飲むぐらいとか。森には甘い実がたくさん自生しているそうですが、残念ながら私が訪ねたのは季節外れ。でも、美味しいものにも出会いました。

    岩に見える木の実

    岩に見えるけれど、これも森の食べ物。

    この岩みたいな物体の正体は、ナッツ。かたい殻の中に、ナッツが詰まっているのです。

    アマゾンのナッツ

    これがアマゾンのナッツ。

    外側の分厚い殻の中に、さらにもう一層の殻に包まれたナッツが何粒も詰まっていました。カシューナッツみたいな上品な美味しさ。

    サブローさん、奥さん、筆者

    左からサブローさん、奥さんのタミエさん、私。

    サブローさん、タミエさん、いつかガラナの実が成るころにまた会いに行きます。それまでお元気で!

    私が書きました!
    建築学生
    佐藤ジョアナ玲子
    フォールディングカヤックで世界を旅する元剥製師。著書『ホームレス女子大生川を下る』(報知新聞社刊)で、第七回斎藤茂太賞を受賞。中日新聞の教育コラム「EYES」に連載。ニュージーランドとアメリカでの生活を経て、現在はハンガリーで廃材から建てた家に住みながら建築大学に通っている。

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