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日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第4回をお届けします。
[ポトマックヘリテージトレイル編 その4]
出発直前までアレコレ悩む道具選び
前回の記事に書いたような補給や行程などの計画を綿密に決め終わったら、次は持参する道具のセレクトを行います。これまで何度もアメリカや海外でトレイルを行ってきましたが、いつも出発直前まで道具選びに頭を悩ませます。いざとなったら現地調達も…と、いろいろ想定していきます。
まずは、今回のポトマックヘリテージトレイルの状況について、以下の分析します。
①気候は?
周辺エリアの気候についてネットで調べると、日中は暖かい様子です。でも、10月には朝晩が寒くなり始め、11月に入ると日中でもかなり気温が下がる日もあるようです。
ポトマックヘリテージトレイルで通るペンシルバニア州・フィラデルフィアでは、11月の最低気温が14℃~7℃まで下がります。今回は、ニューイングランドトレイルのあるコネチカット州へと移動します。コネチカット州の10月下旬~11月上旬の最低気温の推移が6℃~2℃。これは海辺の町の気温で、山や水辺を歩くことを考えると、最低気温0℃への対応も必要になるかもしれません。
また、晴天率は約70%なので、雨の心配は少ないかもしれません。
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こちらは2023年のニューイングランドトレイル挑戦の際に持参したウェア類。
②トレイルの道のりや距離は?
今回は、ポトマックヘリテージトレイルが500kmほど、ニューイングランドトレイルのコネチカットエリアが約160kmほどなので、合計660kmほどの距離を歩くことになります。
ポトマックヘリテージトレイルの70%は自転車との共有ルートなので、ダートロードやアスファルトの混成ルート。ニューイングランドトレイルは前半が完全なる自然歩道で急なアップダウンのある道のり約70%、舗装路やダートロードが約30%になります。
また、ポトマックヘリテージ・トレイルはキャンプ場やシェルターがある程度あります。一方、ニューイングランドトレイルはテント中心になりますが、低山で町が近くそれほど過酷な環境ではありません。
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歩いたことのない場所を想定した場合、靴選びはまさに難問です。
③食料の補給頻度は?
ポトマックヘリテージトレイルは、大小含めると1日1回はお店があるとの情報もありましたが、実際に地図を見るとそんなこともなさそうです。仮に毎日買えるとしても、必ずしもスーパーマーケットではなく個人商店などの様子です。そうなるとかなり金額が高くなることが予測されます。
町と町の間隔などを考慮すると、スーパーマーケットやディスカウントショップは最長で4日ほどなさそうです。つまり、最多で4日分ほどの食料を背負うことになる見通しです。
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日本ならこんな感じでアレンジできるのですが…。
④通信機器やその他のツールは?
通信手段はどうするか?
サブバックは何にするか?
電子機器は何を持っていくか?
バーナーの種類は?
カラトリーは?
浄水器は?
…などなど、トレイルを歩く場合、上記①〜③の条件などを考慮して道具選びをします。
登山と違い、標高差での変化はありません。でも、どこのトレイルを歩くか?どこの地域を歩くか?どの季節に歩くか?どれくらいの距離を歩くか?という条件だによって道具の選択肢は複数あります。つまり、トレイルを歩く場合、それらの条件に合わせて柔軟に対応していくことが必要になります。
普段使用している道具がむしろオーバースペックになる場合もあります。条件によっては、道具をダウングレードして選ぶこともあり得るのです。
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2021年九州を歩いたときに携帯した電子機器。
さて、上記①~④までの条件を考慮して道具を選んでいきます。
1.バックパック類
どのバックパックを背負うか?毎回悩みますが、ここ数年はミステリーランチのテラフレーム60Lを選ぶことが多いです。円安ということもあり、比較的短いトレイルを歩くので、食料補給もそれほど長くなく、乾燥地帯で水を多く運ばなくてはいけない場合も、フレームとバックパックの間に荷物を挟めるので重宝しています。
今回、特に迷ったのがサブバックでした。飛行機で移動する際、リチウムイオン電池を使用する電子機器は預け荷物には入れられません。大量の電子機器を入れられて、時にはサブバックとしても使えるもの。毎回いろいろ試していますが、今回はミステリーランチのミッションスタッフル 30をチョイスしました。これなら移動中にブーツも入れられます。
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ここ数年、頼りにしているミステリーランチのバックパック。
2.テントなど居住用ギア
今回のトレイルは、未舗装より整備されているエリアの比率が高く、キャンプ場での宿泊も多くあります。そこで、今回チョイスしたのは、NEMOのドラゴンフライ オズモ バイクパック 2Pです。野生動物との接触機会を減らすテントを使用するのは、個人的にマストです。だからといって、狭くては寝返りも打てません。
僕は当初、日本のロングトレイルの第一人者であり、作家でバックパッカーの故加藤則芳さんからバックパックを引き継ぎ、歩いていました。僕にとってバックパックは相棒なので、外に置いたり足を乗っけたりすることはあり得ません。安全面も考え、常にバックパックと寄り添って寝るので、必然的にテントは1.5人用~2人用をチョイスします。
そのくらいのサイズのテントなら楽に寝返りも打てますし、秋冬の長い夜も快適に過ごせます。何より、トレイルにおいてテントは、時には数カ月過ごすことになる「家」です。少しぐらいかさ張るサイズだとしても、いつもと変わらずにくつろげるよう、テントに妥協はしません。
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休息に不可欠なテントなどの居住用ギア。
ああでもない、こうでもない…と上記のことをさまざまに勘案し、今回のトレイルに持参した道具類は下記の通りです。
【2024ナショナルシーニックトレイル】ギアリスト
バックパック類
●ミステリーランチ
テラフレーム65
ミッションスタッフル 30
フォーリッジャーボックス
フォーリッジャーポケット L
パックフライ M
●フォックスファイヤー
ダートパックスサコッシュ
テントなど居住用ギア
●ニーモ
ドラゴンフライ オズモ バイクパック 2P(テント)
コーダ 25/35 (寝袋)
フィッロエリート フィールド(ピロ)
テンサーインシュレーテッドレギュラーマミー(マット)
チッパー(シッドパット)
●フォックスファイヤー
SCボックスシーツ(シーツ)
●ユーロシルム
スイングバックパック(傘)
●セリア
フォールディングバケツ(バケツ)
持参するギアが決まって、いざ出発!とはなりません。道具選びの話、もう1回続けます。これに懲りず、どうかお付き合いください。
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