BOOK 01
直木賞作家の知られざる原点
羊飼い15年の記録
『私の最後の羊が死んだ』
河﨑秋子著
小学館
¥1,650
北海道のグルメといえば、やはり道民のソウルフード、ジンギスカンを思い浮かべる。だが、その多くはニュージーランドなどからの輸入肉。道内をはじめ国内でも生産されてはいるが、とても少ないのが現状だ。
本書は、たまたま北海道産のジンギスカンを食べ、「既成概念を覆すような美味しさ」に感銘を受けた著者が“羊飼い”を志し、実際に酪農家として働いたドキュメントである。
著者の実家は北海道東端・別海町にある牧場。幼いころから動物や自然に親しんではきたが、自らが酪農経営など露ほども思っていなかった。しかし、著者は羊の本場ニュージーランドへ単身飛び込む。1年後に帰国し、研修などを経て実家の一角で家業の牧場を手伝いながら飼育を開始。札幌市内のレストランに得意先を持つまでになる。
本書では酪農業の現実も描かれる。たびたび起こる感染症も脅威だが、何が起きても動物たちの世話は毎日続く。生き物を相手にするとはどういうことなのか。覚悟がなければならない生業だと痛感させられる。
動物相手の日々の中でもフルマラソンに挑戦したり、小説を書き賞に応募する著者の活力には脱帽の一言しかない。今は作家として第一線で活躍するその原点に驚きと納得が交錯した。
BOOK 02
思いを実現するチカラ
気仙沼はアツかった!
『海と生きる
「気仙沼つばき会」と『気仙沼漁師カレンダー』の10年』
唐澤和也著
集英社
¥2、420
宮城県気仙沼市は漁業が盛んな場所だ。2011年3月11日、未曾有の大震災。すべてを流し去った海。しかし、発災の数日後に真っ白な無傷のマグロ漁船が帰ってくる。それを見ていたふたりの女性がいた。私たちには、気仙沼には、漁師がいる! このふたりの女性の発案から漁師を主役としたカレンダーが生まれる。
「気仙沼漁師カレンダー」は10年間続いた。撮影したのは日本を代表する写真家ばかりで錚々たる顔ぶれ。素人同然の彼女たちが一体どのようにしてカレンダーを作り上げたのか?撮影に挑む写真家、実直な漁師、色濃い人間模様と数々の心の交流が胸を打つ。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2025年2月号より)