週末縄文人の謎に迫る!「僕らが山でスーツを着る理由」Web連載#02
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    2025.01.28

    週末縄文人の謎に迫る!「僕らが山でスーツを着る理由」Web連載#02

    週末縄文人の謎に迫る!「僕らが山でスーツを着る理由」Web連載#02
    BE-PAL.NET読者の皆さん、こんにちは。週末縄文人の文(もん)です。

    週末になると山へ行き、現代の道具は使わず、自然のものだけでゼロから文明を築く。そんな遊びを相方の縄(じょう)と一緒にしながら、YouTubeで配信しています。

    週末縄文人 – YouTube

    多くの人に聞かれる、週末縄文人の謎

    前回の連載初回を読んでくれた友人から、なぜ縄文人なのにスーツを着ているのかと聞かれました。ゼロから文明を築くのであれば、裸になるべきではないかと。

    実にめんどくさい友人を持ったものです。しかし痛いところではあるので、今回はその理由を説明しましょう。

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    確かに気になるよね。

    いきなり結論から申し上げますと、森の中で全裸になる度胸がなかったのです(ごめんなさい)。

    週末縄文人を始めたのはちょうど秋が近づいていたころで、そこそこ寒い上に、いつ自力で火をおこせるかもわかりませんでした。

    森には虫や蛇の危険もあり、いきなり噛まれて終了チーンなんてこともありえます。

    さらに、これはYouTube上の問題なのですが、開始当初は顔にモザイクをつけていたので、全裸だと上と下のダブルモザイクになってしまいます。そんな悪夢みたいな映像は見たことがないし、この世に出してはいけないと思いました。そんなこんなで理由をつけて、普通に洋服を着て活動を始めることなったのです。

    初期のYouTube動画より。顔にモザイクかけていた。

    ところが、文明が少しずつ進むにつれて、やはりどうしてもルールとの整合性が取れていないことが気になってきました。

    そこで考えた結果、普段はサラリーマンなのだから、いっそ全部スーツでやるのはどうかという話になりました。服装で自分たちのキャラクターを示すこともできますし、現代のサラリーマンが大昔にタイムスリップしたみたいで物語性も生まれます。

    何より、スーツで泥だらけになって火おこししてる男たちなんて、かっこよくてモテるに決まってます(決まってるはずでした…)。

    サラリーマンにとって、スーツは言わば「鎧」。そんなアーマーの上で、仕事道具の木を削る。

    スーツがボロボロになったら、そのとき衣服をゼロから作ればいい。こうして、家にあった就活生時代のリクルートスーツを引っ張り出し、ネクタイを締め、山へと入っていったのでした。

    週末縄文人の気づき①「知られざるスーツの特異機能」

    そんな苦肉の策で生まれたスーツですが、着てみると意外な発見がありました。なんと、めちゃくちゃ縄文活動と相性がいいのです。以下にその高性能っぷりを箇条書きにしてみます。

    その1 夏の日差しをブロック

    長袖の白シャツは太陽の熱を吸収することなく、暑さからも日焼けからも僕らを守ってくれる。日差しの下では、半袖よりも暑さ対策として優れているのではないか。

    その2 虫を防げる

    これは声を大にしてお伝えしたい最大の利点。スーツは蚊やアブはもちろん、危険なマダニからもわが身を守ってくれるの最強の装備。

    まず長袖シャツの手首のボタンを締め、襟をドラキュラのように立てて、長い靴下の中にズボンの裾を入れ込む。これでスタイリッシュなまま、顔と手以外は完全に虫をブロックできる。

    その3 頑丈

    地べたに座ったり、川に入ったりとかなり酷使しているにも関わらず、なかなかダメにならない。ズボンは1年半もち、シャツとジャケットは3年経った今も同じものを着ている。ちなみに最初に破れたのはズボンのお尻の部分。鹿角で作った針と、カラムシという植物の繊維で作った糸を使い、縫って直した。

    その4 エイジングが渋い

    一度も洗濯していないが、汚いというより、味わい深いブラウンという感じの仕上がりになっている。

    その5 水陸両用

    革靴は水に入ると締まってウェットシューズになる。

    まさに、パーフェクトアーマー。

    とまあ、ざっとこんな感じです。僕にはもはやスーツをオフィスで着る意味がわかりません。それくらい、アウトドアにこそ適した服装なのです。

    ちなみにあとで知ったのですが、農家さんにもワイシャツを着て作業する方が多いそうです。大地で働く人々は、もうずいぶん前からこの秘密を知っていたのですね。

    週末縄文人の気づき②「洗わなくても問題はない」

    さあ、スーツのすごさをわかってもらえたところで、みなさんの次の疑問にお答えします。

    「とはいえ、めっちゃ臭いんじゃない?」

    これですよね。なんせ一度も洗濯していないのですから。洗濯っぽいことをしたのは一度だけで、ザリガニを捕るために川に入ったときに、スーツを着たまま体ごとゴシゴシこすったくらいです。それなのに、これが不思議とぜんぜん臭くない。なぜなのか。僕の鼻がおかしくなったのかもしれないと思い、以前、山に来た知り合いに嗅いでもらったことがあります。その方はすごく嫌そうにクンクンすると、目を丸くして、「ほぼ無臭!ほのかに燻した匂いがする」と驚いていました。

    YouTube「【初★狩猟採集】川の巨大ザリガニを焚火に放り込む!#12」回より。あの時食べたザリガニは、このうえなく美味だった。

    この燻した匂いというのがポイントのようです。キャンプで焚き火をすると、燻した匂いが何日も服につきますよね。それと同じで、僕らは頻繁に焚き火をしているので、煙の臭いがスーツに染み付き、それ以外の臭いをシャットアウトしているのではないかと思います。

    気になって調べてみると、煙に含まれるフェノール類という化合物に殺菌効果があり、さらに煙のコーティングには細菌の侵入を防ぐ効果があるそうです。臭いだけでなく、菌まで防げていたなんてすごすぎる!

    ふと、高校生のときに古文の授業に出てきた「伏籠(ふせご)」という言葉を思い出しました。たしか源氏物語だったと思います。

    先生に言葉の意味を聞くと、平安時代は今のように衣類を洗濯できなかったので、伏籠と呼ばれる木製の枠の中でお香を焚き、その上に着物をかぶせて燻煙をしみこませていたのだと言います。

    僕はそんなもので匂いが取れるわけないだろうと、教科書に描かれていた黄色やうぐいす色の美しい着物を「本当は臭いんだろ?」と疑いの目で見ていました。でも今になって、あれはきっと本当に清潔で、お香のいい匂いがしたのではないかと思います。疑ってすみませんでした。

    最後に、そんな素晴らしいスーツの現状をお伝えしておきましょう。

    ご覧の通り、ただの茶布(ちゃぬの)と化しています。もう通す袖もありません。頑張ってくれましたが、さすがに3年も着ると限界のようです。

    今、相方の縄がカラムシの繊維から服を作ってくれています。どれくらい時間がかかるのかも、そもそも布が足りるのかもわかりませんが、うまくいくことを祈るばかりです。服が完成するまでの間、もしスーツの耐久性を試したいスーツ会社の方がいればご一報ください。それではまた!

    糸をつむぐ、週末縄文人。

    先は長い。

    週末縄文人・文(もん)さん

    東京都出身。幼少期はアラスカやニュージャージー州で育つ。2020年よりサラリーマンをしながら週末に文明をゼロから辿る「週末縄文人」を開始。著書に『週末の縄文人』。YouTube「週末縄文人」。

     

    浅間縄文ミュージアムにて、企画展「週末縄文人、ミュージアムに現れる」開催中! 2025年2月16日(日)まで

    長野県北佐久郡御代田町にある町立の総合博物館「浅間縄文ミュージアム」にて、企画展「週末縄文人、ミュージアムに現れる」が開催中です。期間は 2025年1月11日(土)~2月16日(日)。週末縄文人が作った道具などを見ることができます。

    また、2025年2月8日には、学芸員の方々と週末縄文人のトークイベント「毎日学芸員と週末縄文人」も行なわれます。詳しくは浅間縄文ミュージアムのホームページをご覧ください。

    浅間縄文ミュージアム:http://w2.avis.ne.jp/~jomon/
    〒389-0207 御代田町馬瀬口1901-1 TEL:0267(32)8922

    ※構成、文/週末縄文人・文(もん) 撮影/編集部、週末縄文人

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