
今回は年を追うごとに新たなファンを獲得している人気ブランド、ゼインアーツを紹介しよう。
ジャパンテントの進化は伝統&発想力がカギ
設立:2018年
拠点:長野県松本市
問い合わせ先:ゼインアーツ info@zanearts.com
代表取締役社長 小杉 敬さん

設計や開発部署のある棟の1階は、テントを実際に設営できるスペースになっている。ここで、サンプルの不具合などをチェックしている。
30年以上ものプロダクトデザイン歴を持つベテラン。機能的でありながら、周囲の自然に調和する芸術品のようなテントデザインが高く評価されている。
フィールドで快適に過ごせるテントを、適正な価格で提供する
「座して半畳、寝て一畳」──。これは、ブランド名の由来となる言葉で、小杉さんの座右の銘でもある。「座」が「ZA」、「寝」が「NE」で、「ZANE」というわけだ。
どんなに金持ちだろうが、人ひとりが暮らすのに必要なスペースは同じ。物事には限度があり、必要以上の富を求めるのはつまらない──という意味だ。
言い得て妙とはこのこと。この言葉が、小杉さんのモノ作りの根底にある思いを如実に、そして完璧に示しているからだ。
「多くの人に自然を楽しんでほしい。そのために、フィールドで快適に過ごせるテントを、適正な価格で提供することを心がけています。金儲けしたくてやっているんじゃないので」
という。ところが、ゼインアーツのテントは、ただのリーズナブルとはワケが違う!
「まずはきれいで、美しいこと。もちろん機能的であることも大事。使っていて楽しい気持ちになれなきゃいけないですから。それをどこまで安く抑えるかが、僕らの戦いなんです」
小杉さんの戦いは、それだけではない。日本のアウトドア業界全体や、会社のある松本市の将来をも考えている。
そもそも、JR松本駅から徒歩10分という駅の近くに引っ越したのも、〝戦い〟の準備。
「乗鞍みたいな山の麓で仕事するって、ものすごく憧れましたけどね。でも、どこへ行くにも車が必要になるじゃないですか。アウトドア企業としては、それじゃダメだと思うんですよ」
ゼインアーツでは、小杉さんを含めて13人の社員全員が、徒歩か自転車通勤をしているというから徹底している。過度なエコにならないよう、できることからやるというスタンスだ。
企業として、会社の利益だけではなく、地域貢献もしていかなくちゃいけない。そんな使命感とも戦い続けているのだ。
「いまは無理ですけど、先々は、近隣に住む高齢者や身体障害者も雇い入れることで、この松本の雇用創出にも貢献していきたいと考えています」
自然のなかで楽しく過ごすための道具を作り続けることで、キャンプをする人にも、そうでない人にも、あらゆる人に寄り添っていきたいという。
「キャンプ道具って、便利すぎちゃいけないと思うんです。とはいえ、こうでなきゃいけない──という押しつけも良くない。過剰に便利すぎず、過剰に厳しくないマーケティングをしていくことで、なるべく多くの人を外へ、自然の中へ引っ張り出したい。それが社会や地域貢献にもつながると思ってます」
これが、創業以来ブレることのない、ゼインアーツというブランドのミッションなのだ。
「テントみたいな建物にしてほしい」と、設計士にリクエストして完成した、個性的で美しい佇まいの新社屋。内部もきれいに整理整頓されていて、気持ち良く仕事できる環境が整っている。
アイデアを形にするステップ
①新作開発の最初のステップは、フリーハンドで描くスケッチ。外観から使用素材やパーツ、寸法などが、細かく指定されている。
②つぎに、ペーパークラフトを作って、スケッチしたアイデアを立体的に再現し、デザインを確認する。

手間だけど、これが大事!
③第3段階は、塩ビパイプをポール代わりに使って実物大のモデルを作ってみる。スケッチと模型ではわからない不具合をチェックしたうえで、工場にオーダーする。
価格と美しさにこだわったシルエット
ウータ-S TC
¥39,800
2〜3年前から構想はあって、昨年やっと発売にこぎつけたモデル。「開口部が広くて、出入りしやすいデザイン」にしたかったという。
ゼクーM
¥69,800
4人でゆったり過ごせる、ミドルサイズのワンポールシェルター。3か所に設置する逆V字型のポールにより圧迫感のないスペースを実現した。
ロガ
¥59,800
魚座型クロスのフレーム2セットをしっかり固定するリッジポールが剛性を高め、風の強い日も安心。4人用インナー付きのツールーム仕様だ。
ブランド力を維持する修理体制
修理に使う生地や部材類は、必要なときに迷わず取り出して効率良く仕事ができるように整理されている。テントだけでなく部材収納も美しい!
3棟あるうちの1棟が、修理専門部署。ゆったりとした機材配置で、とても静か。ここにも、社員が気持ち良く仕事できる環境が整っている。
※構成/坂本りえ
(BE-PAL 2025年3月号より)