
今回はそんな国境が交わる地点、しかも川の中にある三国地点に行ってみました。
地図を眺めて「三国地点」を発見
オランダ在住の私は、冬休みに小旅行でベルギーのリエージュに滞在していました(ちなみにユースホステルに泊まっていたんですが、修道院を改築した素敵なところでした!)。リエージュは北へ車で30分ほど行けばオランダ、東に30分ほど行けばドイツという場所ですが、南に1時間ほど向かうとルクセンブルグにも行けることがわかり、ちょっと行ってみようということに。
しかしよくよく地図を見ていると、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルグの3つの国境が接する「三国地点」を発見したんです。しかもそれは、川の中にありました。実は以前、山の中にあるオランダ、ドイツ、ベルギーの三国地点を訪れていた私たち。今度は川の中の三国地点、いったい現地はどんな感じなんだろう?これは行ってみるしかない!と、さっそく出発しました。
川が国をふちどる
リエージュより南は、かつての鉱山も多い山間の地域です。オランダに住んでいる私は、山がない平地の暮らしに慣れてすっかり忘れていたのですが、標高が高くなるとあっというまに雪が降り積もる光景になりました。
雪の中南下していくと、途中から左手に川が見えました。これが、ベルギーとドイツの国境線でもあるウル川です。ベルギーを走りながら、川の向こう岸はドイツ。国の境目をふちどるように南下していきます。
しばらくすると山を下りて、小さな集落に出ました。集落を抜けたところに、ナビが終着点を示している小さな広場が。どうやらこの周辺が三国地点のようです。
EUの前身、欧州共同体の記念碑が
道路にルクセンブルグの国境を示す看板があります。でも特に門やゲートのようなものもなく、看板も小さいので、うっかりすると国境を越えたことにも気づかないかもしれません。

「この先ルクセンブルグ」を示す看板。
看板の側には小さな広場がありました。ほんの数台分の駐車場に車を停めて広場に入ってみると、何やら大きな石でできた記念碑がいくつも立ち並んでいます。

ローマ条約に署名した国と人名が刻まれた石碑。
実はここ、1957年に欧州経済共同体(EEC)が設立されたことを記念して作られた場所でした。中央にある石碑には、欧州経済共同体の設立を宣言したローマ条約について、署名した国と人名が刻まれています。いわば、ヨーロッパの生みの親たち、といったところ。しかし周辺はぽつぽつと数軒の家がある程度の場所で、なぜこんなところにそんな歴史的な記念碑が…?
調べたところ、ベルギー、ドイツ、フランス、ルクセンブルクの 4 か国間の交流を行う「アイフェル・アルデンヌ欧州協会」という組織が、1977年に設立したそう。どうもこういったヨーロッパの連携を記念するモニュメントというのは、他にも各地にあるみたいです。

現在のEU加盟国などを説明する看板。
小さな小川が国境線
広場の先には、東西に流れる小川、リバッハ川がありました。このあたりがベルギーとルクセンブルグの国境です。もちろんはっきりとわかる線が書いてあったり、塀があったりするわけでもありません。地図を見ると、小川に沿いながらところどころ蛇行する国境線が引かれています。本当に国境線って、人が地図に引いた線なんだなぁ。
私は以前、東京にある日本科学未来館で科学コミュニケーターとして働いていましたが、当時の館長は宇宙飛行士でもある毛利衛さんでした。毛利さんが1992年の1回目の宇宙飛行の後に「宇宙から国境線は見えなかった」とコメントをしていたことを、ふと思い出しました。ここはもう宇宙から見たら、そりゃあ「なんか森と丘と川があるところ」でしかないよなぁ。

軽く飛び越えられそうなこの川が、ベルギーとルクセンブルグの国境線の一部。

ここはもうルクセンブルグ!
川の丁字路が三国地点だった
さて、今度はこのリバッハ川が、南下中に見えていたウル川と合流する地点に向かいます。牧草地をぐるっと回りながら、右奥の橋がかかっている方へ歩いていきます。

三国地点を示す看板がありました。牧草地と厩舎の間の細い道を歩きます。
橋のたもとまでやってきました。手前に、3つの国境が川の中で接していることを示す解説版が立っていました。おぉ、まさにここだ!着いた!

点線で示されているのが国境線。
橋のこちら側はベルギー、渡った先はドイツです。もちろんここもゲートがあったり、パスポートをチェックする人がいたりというわけではなく、むしろ私たち家族以外誰もいません。

ちょうど川の真ん中あたり、ベルギーとドイツの国境線に立ってみる。
対岸のドイツに到着!橋の下の方に降りることができたので行ってみると、リバッハ川が流れ込んできているのが見えました。この2つの川が合流する地点が三国地点です。まさに川のど真ん中!

ドイツであることを示す「D」が書かれた石柱があります。
橋の上から見てみると、2つの川の流れがぶつかって、少し渦を巻いているようなところがよくわかりました。あぁ、ここが3つの国が接する点なのか。ゆらぐ渦巻きを眺めながら、国の境目って、重要だけどけっこう曖昧なものなのかもしれない…などと考えていました。

橋の上から見た三国地点。
自然と深い関わりがある世界中の三国地点
国境といえば「国境線をめぐる戦い」とか、「必死の思いで国境を超える」といった状況を思い浮かべてしまいます。でも所詮人が引いたライン。自然の中ではなんてことない川の合流地点なんだなぁとしみじみ感じました。
後で調べてみると、世界には約176の三国地点がありました。もともと国境は川や山頂など地形とも深い関わりがあり、三国地点もそういった自然の中にあるものも多いようです。例えばライン川にも、スイス・ドイツ・フランスの三国地点があります。イタリア・オーストリア・スイスの三国地点はピッズ・ラッド山の山頂から800mほど離れた登山道にあり、記念碑も置かれています。
日本では体験できない、国境を行き来する外遊びができるのも、海外でのアクティビティならではの楽しみ方かもしれません。

ライター&科学コミュニケーター。福井県立大学海洋生物資源学研究科修了。スノーケリング教室のインストラクターバイトをきっかけに環境教育の道へ。その後「自然環境を伝えるのには科学が重要!」と気づき、科学コミュニケーターとして科学館に勤務。現在はオランダの教育、自然、ミュージアム関連の執筆を行うほか、現地にて日本語で学べるサイエンスワークショップ・プログラミング教室を開催しています。毎日おいしいチーズが食べられて幸せ。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員