
週末になると山へ行き、現代の道具は使わず、自然のものだけでゼロから文明を築く。そんな遊びを相方の縄(じょう)と一緒にしながら、YouTubeで配信しています。
この冬、列島を覆った大寒波。私たち週末縄文人も寒さに悩まされました。石を叩いても寒い。樹皮を剥いでも寒い。ひもを撚っても寒い。凍った土に座れば、背骨に寒さがしみ込んでゆきます。
僕らが活動している長野の山は、真冬だとマイナス10℃近くまで下がります。日中の最高気温が氷点下なんてこともざらで、そんななかスーツを着て活動しているわけですから、正気の沙汰ではありません。
小学生のころ、卒業まで毎日半袖半ズボンで登校するという謎のルールを自らに課していたのですが、それで鍛えられた皮膚をもってしても、この寒さは堪えます。

寒くてやる気が起きない週末縄文人。
これだけ寒いと、物理的にできない活動もあります。たとえば竪穴住居づくり。地面が凍っているので、そのアイデンティティたる穴が掘れません。
土器づくりも粘土が凍ってカチカチになるのでダメです。僕らがはじめて土器を作ろうとしたのは冬でしたが、丸一日こねてグニャグニャにした粘土が、翌朝起きたら石のように固くなっていて悲しい思いをしました。
そんな厳しい冬ですが、本物の縄文人だって知恵を絞って生き延びていたわけです。やってやれないことはない。そこで、自然のものだけを活かして、僕なりの寒さ対策を試してみます。
冬の火おこしはいつも以上に大変
この日の昼間の気温はマイナス5℃。まずは寒風をしのぐため、竪穴住居に入ることにしましょう。室内の気温は外とあまり変わりませんが、風がない分いくらか暖かく感じます。
室内を見渡すと、平らに整っていたはずの土壁や床は霜柱でボコボコに隆起して凍りついています。人だけじゃなく、家だって暖めてあげないと壊れてしまうのです。

竪穴住居も雪の帽子でかくれんぼ。
早速、火おこしに取りかかります。いつものように火きり棒(手で回す木)と火きりうす(地面に置く木)をセットし、回転スタート。しかし、体は寒さでこわばり、手は乾燥してすべるため、棒をうまく回せません。煙は立つものの火種はできず、1回目はあえなく失敗。
こんなときは木の枝にぶら下がって懸垂するか、その辺を走り回って体を温めるのが定石です(腕立て伏せは手のひらが凍るためNG)。
そしてそのままマツの木めがけてダッシュ。「松やに」を採取し、手のひらにこすり付けます。これは野球のピッチャーが使うすべり止めの白い粉(ロジン)と同じ成分で、効果は絶大。火きり棒を両手で挟むと、キュッと手にくっつきました。

これが、

こうなる。松やにGETだぜ。
さらに、もうひと工夫。凍てついた地面に枯草を敷きつめ、その上に鹿革をかぶせます。この上に火きりうすを置いて火おこしをすることで、回転の摩擦で生じる熱が、冷たい地面に奪われずにすむと考えました。実際、僕は冬の地面に座るときに必ず枯草を束にして敷くのですが、こうするとお尻がかなり暖かいのです。

枯草の座布団。みんな、原っぱとかで遊ぶときに真似するといいよ。
さあ、これで準備は万全。体力的にも寒さ的にも、
残りのライフも限られているので、少し緊張しながら2回目の火おこしスタート。すると、みるみるうちに煙が上がり、1分も経たずに火種ができました。やったぜ!
それにしても、寒い中での火ほどありがたいものはありません。命そのものが温まるようです。薪をくべ続けると、火はどんどん大きくなって安定し、室内全体が暖かくなってきました。しばらくして温度計で室温を測ってみると、なんと18℃もありました。外と比べて23℃も暖かいです。火を絶やさなければ、竪穴住居では快適に過ごすことができることがわかりました。

火って、とても大事!
しかし、だからといってずっと心地よい室内にいるわけにはいきません。燃料となる木の枝や食べ物をとってきたり、用を足したりするのにも、厳しい外界へ漕ぎ出してゆかなければならないのです。そこで、我がスーツの防寒性を強化する方法を考えました。
週末縄文人は考えた「衣をもっと暖かくできないものか」
それが「草暖」です。読み方は極暖みたいな感じで、「くさだん」でお願いします。やり方はいたってシンプルで、スーツに草を入れまくるだけ。すると、ダウンの羽毛と同じようにスーツと体の間に空気の層ができ、体温が逃げなくなるため、暖かいのではないかという仮説です。
幸い、先ほど火おこしのときに地面に敷いた枯草(カヤ)は、竪穴住居の周りに一生分くらい生えています。早速これを収穫。カヤの茎をぐしゃぐしゃっと折り曲げて、ジャケットとワイシャツの隙間にIN。茎が固くて少々動きにくいですが、ちょっぴり暖かい気がします。よし、これで天然の草暖ダウンを手に入れたぞ!

草暖ダウンの原材料、ナチュラルフィルパワー。

スーツの胸元からあふれ出る男らしさよ。
……正直、このとき僕は心の中で「(あれ、そんなに暖かくないぞ…)」と思っていました。でも、自分の仮説を証明したい一心で、肌感覚を騙そうとしていたのです。根性で。
そんなやせ我慢をしていたら、余計に寒々しい気持ちになっていきました。
これではいかん。やはり心から納得のいく草暖を作らなければ。そして翌週、再びカヤと向き合うことにしたのです。
研究すること数日、くさだんは”ほぼ完成形”となる
前回の反省として、カヤの茎が固いため、スーツと体の間に隙間ができすぎてしまったのではないかと考えました。例えば、ぐしゃっと折って丸めたストローを想像してみてください。手を離すと、元に戻ろうとして間に隙間ができますよね。このように大きな隙間ができると、暖かい空気がそこに保たれるどころか、むしろ冷気が入り込み、余計に寒くなってしまうのです。
そこで、今回は繊維が細かくて柔らかい、カヤの穂先に注目しました。これなら丸めても元に戻りませんし、少しワタも付いていてダウンのようです。これはいけるかもしれない…期待で鼓動が早くなります。

一度に少量しか採れないため、上半身分の穂を集めるのに30分くらいかかりました。

それにしても、まるで鳥の巣のようで、なんともかわいらしいです。
試行錯誤の末にたどり着いた、カヤ(茅)インサレーション
まず、スーツのジャケットをズボンにINして穂を詰め込んでいきます。カヤを丸ごと入れたときよりも遥かに柔らかくて入れやすく、先端がお肌に刺さることもないので着心地が大変よろしいです。首元まで穂を詰め込むと、一気に上半身がポカポカしてくるのを感じました。「あふぅ…」思わず声が出てしまうほどの感動の保温性。草暖、ここに完成す。

これだよ、これこれ。じゅわーと温い、胸元も厚い!
穂は柔らかいので、どんな動きも自由自在。ラジオ体操もなんのその。さらに透湿性も高く、かいた汗を穂がどんどん吸って放出してくれるというハイテク機能付きです。はやりのアクティブ・インサレーションなんてどこ吹く風。それになんといってもタダですからね!
これは大発明だと思い、特許を取るべく急いで調べてみると、意外な先駆者がいることが判明しました。それが、ヨーロッパの氷河の中から見つかった5300年前の男性ミイラ、「アイスマン」です。なんと彼が履いていた革靴の中に、干し草が詰め込まれていたというのです。5300年前といえば、日本は縄文時代。縄文人だって、同じように草暖を活用していた可能性は十分あります。だってアイスマン君さ、めっちゃ暖かいもんね、草暖!
大金持ちにはなり損ねましたが、時空を超えて草暖の暖かさを共有できる存在がいたことに、僕の心は少し温かくなりました。

おまけ。樹皮で作った縄文マフラー。
※構成、文、撮影/週末縄文人・文(もん)