創業200年超!「常陸野ネストビール」を作り初めて30年の木内酒造が次に目指すのは茨城グルメのアンバサダー
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    2025.03.16

    創業200年超!「常陸野ネストビール」を作り初めて30年の木内酒造が次に目指すのは茨城グルメのアンバサダー

    左から常陸野ネストビールの「だいだいエール」「ニッポニア」「ゆずラガー」「ホワイトエール」「セッションIPA」。

    日本の地ビール黎明期に創業した常陸野ネストビール。醸造元の木内酒造は、1823年創業の200年続く蔵元だ。現在、自前の製麦所をもつ国内屈指のブルワリーでもある。蒸溜所、ビールバー、レストランと飲食業界への幅も広がっている。

    日本を代表するブルワリーが目指しているものは何だろうか。ビール醸造課マネージャーの宮田輝彦さんと、店舗事業部ゼネラルマネージャーの國井元耶さんにインタビューした。

    日本らしいビールを造ってくれ

    ふくろうがトレードマークの常陸野ネストビールが海外進出したのは早かった。日本では地ビール人気が低迷していた2000年代、常陸野ネストビールはアメリカ・ニューヨークのバーにデビューしていた。

    足がかりになったのは、アメリカで開かれるビアコンペティション「ワールド・ビア・カップ」のハーブ・スパイス部門で、「ホワイトエール」が1位に選ばれたことだった。注目された常陸野ネストビールにアメリカから注文が入った。

    日本らしいビールを送ってほしい。

    「ホワイトエール」は小麦のビール。コリアンダー、オレンジピール、ナツメグなど果実とスパイスの香りが華やかな白濁のビールだ。こうした小麦のビールは、ドイツではヴァイツェン、ベルギーではブロンシュ、ヴィットなどと呼ばれ、古くから親しまれてきた。

    木内酒造も当初はドイツやベルギーなど先達のビールを参考にして造ってきたが、アメリカの市場が木内酒造に求めていたのは、日本製のヴァイツェンや日本製のブロンシュではない。

    「“日本らしいビールを造ってくれ”というリクエストでした」と、ビール醸造課マネージャー 宮田輝彦んは話す。国内の市場が伸び悩む中、木内酒造は日本らしいビールとは何か? について答えを見つける必要に迫られた。

    「キーワードはやはり、“ローカル”でした」

    足元に目を向けたオリジナリティ探しが始まった。

    ビール醸造課マネージャーの宮田輝彦さん。

    木内酒造の地元は茨城県那珂市。本店は水戸から北へ10キロほどの所にある。JR水郡線で水戸から30分ほどだが、このあたり、昭和40年代あたりまで、大麦の一大生産地だった。明治時代に育種された「金子ゴールデン」という日本独自の二条大麦で、日本のビール産業の初期に使用されたビール麦だ。

    日本のビールに使われる大麦はほとんどが海外産であるが、木内酒造はこの日本育ちの大麦に着目。地元の農家を巻き込んで金子ゴールデンを復活させた。

    次にホップ選びだ。これにはニューヨークを代表するクラフトビールブルワリー「ブルックリンブルワリー」の存在が大きい。

    ブルックリンブルワリーの醸造長、ギャレット・オリバー氏と木内酒造の木内社長の間に親交があった。あるとき、オリバー氏が珍しいホップを持って来日した。「ソラチエース」という。聞けば、日本のサッポロビールが北海道の空知で育種したホップなのだが、その独特な香りが日本ではウケず、注目されていないという。

    日の目を見ないうちにアメリカのホップ農家が目をつけてアメリカで生産され始めた。とても個性的な素晴らしいホップだ、とオリバー氏は絶賛した。実際、ブルックリンブルワリーはソラチエースを使ったビール、その名もズバリ「SORACHI ACE」を製品化していた。

    これはおもしろい!木内敏之社長はピンと来た。麦に日本産の金子ゴールデン、ホップに日本原産のソラチエースと来れば、全面的に日本のオリジナリティが際立つ。そうしてできたのが、2010年発売の「NIPPONIA」(ニッポニア)だ。ニッポンを冠したネーミングに常陸野ネストビールの、ひいては日本を代表する自負と自信がうかがえる。

    赤米を使ったビールは日本の酒蔵にしかできない

    原材料以外にも、常陸野ネストビールにはオリジナリティがある。それはとりもなおさず日本酒の技術である。200年の酒造りの伝統と技は、ビール醸造にどう応用されるのだろうか。ひとつ例に出してもらったのが温度管理だ。

    「日本酒の温度管理はかなりシビアで厳密です。0.5度単位のコントロールが求められ、ひとつ間違えば酒がだめになります。そうした繊細さをビールに生かすことで、たとえばクリーンな味であったり、なめらかさであったり、ビールの表現に置き換えていくことができるのです」と、宮田さんは説明する。

    1994年に誕生した日本の地ビールは、木内酒造のように酒蔵が始めたところが多い。冬場に日本酒を造る蔵人が夏場はビール醸造に携わる。もともと蔵人の通年雇用のためにビール事業が始まっている。何百年も続いてきた日本酒づくりの技がビールに生かされるとしたら、それ自体が日本特有の技術といえるのではないか。

    木内酒造は大麦とホップのほか、米にも注目してきた。米は日本酒の原料であるから知悉している。

    ビールの副原料として注目したのが「赤米」だった。特に茨城の名産というわけではない。日本各地で古くから作られてきた米で、赤米、黒米、朝紫などと呼ばれる、いわゆる古代米である。その色の濃さから白米の生産量と反比例して赤米は減っていった。

    「酒蔵には米を糖化する技術があります。それをビールに応用して、米の香りを強調するビールが造れるようになりました。また、米の色がphの変化でちょっとビールに赤みが出ます。赤米を使うことで色合いの表現も広げられるのです」

    現在、米を原材料に取り入れたり、米麹を麦汁の糖化に使ったりするブルワリーはいくつも見られるが、木内酒造はそれを20年以上前に試行していた。

    「赤米を使って造ったビールは海外にはありません。まず、原料が入手できないし、製法も日本酒の技術がないと難しい。ドイツでもイギリスでもアメリカでも造れない、日本でしかできない、もっというと酒蔵にしかできないビールです」と宮田さん。

    赤米を使った「レッドライスエール」はアメリカからも引きの強いビールになった。現在、木内酒造は秋田県と滋賀県の農家に朝紫を栽培してもらっている。

    常陸野ネストビールの額田醸造所。木内酒造本店から車で15分ほどの場所にある。

    クラフトビールはオリジナリティを表現しやすい酒

    木内酒造は、日本酒、ビール、ウイスキー、ジンなどの蒸溜酒、梅酒など、さまざまな酒を製造している。木内酒造にとってクラフトビールはどのような位置づけになるのか、宮田さんに尋ねた。

    「クラフトビールはオリジナリティが表現しやすい酒だと思います。ウチで茨城のものを使って、茨城らしさ、ひいては日本らしさ、もっというとアジアらしさというものが表現できるんじゃないか。そのために他では真似できないものをキャッチするアンテナを常に張っています」

    茨城県の特産の「福来(ふくれ)みかん」をご存知だろうか。みかんの生育北限は筑波山麓とされる。福来みかんは『日本書紀』にも登場する、古来、自生するみかんである。直径3〜4センチと小ぶり。可食部があまりに小さいため、食用としては「温州みかん」に負けてしまうのだが、香りが抜群にいいので、地元では皮を陳皮にしてユズの皮のように利用している。

    一方で、実が成っても収穫されず廃棄されるみかんも多いという。これを木内酒造は活用している。2020年に「だいだいエール」として発売された。

    宮田さんはこう語る。

    「もったいないのでね。私たちが収穫しに行って加工してビールに使っています。地元では古くから親しまれてきた作物ですし、福来という名も縁起がいいですよね。フードロスにもつながりますし、木内酒造が目指している循環型事業にもつながってきます。とにかく食品を無駄にしない、捨てないことが大事です」

    廃棄物を出さない。資源をリサイクルする。循環型経済が世界で模索されている。木内酒造のフードロス型の酒は、福来みかんのほかにも、規格外の梅を使った梅酒、りんごを使ったシードルなどがある。

    オリジナルのビアグラス、ビアマグ、ウイスキーグラス、升が並ぶ木内酒造本店内の売店。

    資源を“捨てない”循環型に蒸溜所が大活躍

    食品を無駄にしないために、木内酒造は蒸溜所も建てた。ウイスキーとビールは原材料が同じ、大麦である。地元の金子ゴールデンは本来、ビール用に生産されているが、規格外になる麦も一定量ある。

    ビールに使えなくてもウイスキーの原料になる。木内酒造は、規格外の大麦を活用できるウイスキーづくりに挑戦した。2016年、ブルワリーの2階でウイスキー造りを始め、2020年、八郷蒸溜所(石岡市)の開設に至った。日本酒、ビール、ウイスキー。酒の柱がまた1本増えた。

    2016年にウイスキー蒸溜を開始。2020年に八郷蒸溜所が開設し、「日の丸ウイスキー」「日の丸ジン蔵風土」など、ブランド展開されている。テイスティングルームあり。

    八郷蒸溜所は、2020年に襲ったコロナ禍中も大活躍した。営業できないビアバーやレストランで大量のクラフトビールが行き場を失う中、賞味期限の迫ったビールを木内酒造が引き取って蒸溜し、ジンに仕立て直したのである。捨てない、を徹底している。 

    蒸溜所の開設から3年、石岡市内に製麦工場も開設した。製麦とは麦を麦芽(モルト)に加工すること。ビールは麦酒と書くが、まさにビールの味の根幹を成すのが麦芽である。

    麦に水を加えて発芽させ、熱を加えて発芽を止めて乾燥し、焙煎する。製麦には設備はもちろん高度な技術も経験も要し、極めて難度が高いと聞く。それができるのは日本では大手ビールメーカーだけだ。

    木内酒造も以前は、海外や栃木県にある大手メーカー系の製麦所に一定量に揃えて依頼していた。自前の製麦所があれば、もっと自由に、もっとこだわったモルトづくりができるようになる。麦のロスを減らすのにも役立つ。何年も試行錯誤を重ねて、ようやく2023年、念願の製麦所を開設した。

    もうひとつ、ブルワリーでは大量に出る廃棄物がある。麦汁を絞った後の麦芽カスだ。近年、麦芽カスを飼料や肥料として活用するブルワリーが増えているが、木内酒造も近隣の畜産農家に提供している。

    木内酒造の場合、その先がある。麦芽カス入り飼料で育った豚や牛を買い取って、自社が経営するビアバーやレストランで料理として提供している。自社の工房で加工したソーセージやハム類は販売もされている。

    東京駅八重洲口にある常陸野ブルーイングTokyo Yaesu。常陸野ブルーイングは、水戸、神田万世橋、秋葉原、東京八重洲、丸の内、品川、新宿に出店。神田万世橋には醸造設備、秋葉原には蒸溜設備を併設。ビールバーのほか、常陸秋そばの店「蔵+蕎麦な嘉屋」、麦芽カスを食べて育った銘柄豚を仕入れて熟成させて提供するとんかつ屋「蔵+かつ」も展開している。

    地元に根づいた酒蔵だから特産品広報係になる

    木内酒造は現在、飲食と物販合わせて16の店舗を経営している。今年2月には、本店敷地内に立つ“創業家の実家”をリフォームしてフレンチレストラン「母屋」をオープンした。ここでは茨城県産の野菜、魚介、香辛料からソースまで地元の山の幸、海の幸を生かした素材を使い、調理には発酵の技を駆使した料理を提供している。

    木内酒造本店に2月にオープンしたフレンチレストラン「母屋」は、地元の旬の素材に発酵の技を加えた料理と日本酒のマリアージュが楽しめる。

    各料理と日本酒と、さらにはビールやウイスキーなどとも合わせられるのは、酒蔵もブルワリーも蒸溜所ももつ木内酒造でしか味わえない楽しみ方だろう。

    あまり知られていないように思うが、茨城県は米や大麦の穀物だけでなく、その二毛作にそば栽培が盛んだったことから、「常陸秋そば」というブランドそばがある。また、木内酒造から東には那珂湊、大洗といった漁港があり、年中、旬の魚が仕入れられる。

    店舗事業部ゼネラルマネージャーの國井元耶さんは、次のように話す。

    「茨城にあるおいしいものを私たちのレストランやビアバーを通して知っていただきたいし、地元の方には、こんな食べ方もあるのかと楽しんでいただけるメニュー提案をしていきたいと思っています。お酒の組み合わせ方も1つの酒に固定しない、いろいろな楽しみ方をご提案していきたいと思います」

    店舗事業部ゼネラルマネージャーの國井元耶さん。母屋の玄関にて。

    ブルワリーの裏に小さなホップ畑がある。7年ほど前に苗を植えて育ててきた。毎年、年に一度、ほんの少しだが収穫したホップをフレッシュな状態で使ったビールを醸造している。

    「これからもできるだけ地元の麦を使い、オール茨城産、オール国産でできたビールラインナップを増やしていきたいと思っています。ホップ生産はなかなか難しいのですが、地元産の比率を少しでも上げていけるように考えています。私たちが地元産をたくさん使うことで農家の生産量アップにつなげていきたい」と宮田さんは語る。

    國井さんも「農家の後継者不足の問題もあります。私たちが酒造りや飲食店を通して、茨城の食材をもっと広めていきたい。そういう役割があると思います。まずは首都圏からですね」と話す。

    200年続く酒蔵、30年続くクラフトビールブルワリーは地元の食材を使うだけでなく、認知度を上げる広報係のような役回りを負っているようだ。実績と知名度を兼ね備えた木内酒造が今後どのように循環型事業を展開し、どのように地域経済に影響を与えていくのか。そこにひとつの日本のクラフトビールの将来像が見える気がする。

    ●木内酒造 茨城県那珂市南酒出808  https://kodawari.cc

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜

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