ひとつのトレイルを終え、ひと息つく間もなくさらに前へ【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.19】 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.04.23

    ひとつのトレイルを終え、ひと息つく間もなくさらに前へ【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.19】

    ひとつのトレイルを終え、ひと息つく間もなくさらに前へ【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.19】
    トレイルの本場であるアメリカには、連邦政府によって認定されたトレイル(ルート)がいくつかあります。そのうち「シーニックトレイル」と呼ばれるものが全11ルートあり、総距離は約17,800マイル(約28,646km)におよびます。

    日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。

    斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第19回をお届けします。

    ポトマックヘリテージトレイル編 その19]

    C&O運河トレイルの終わり、GAPトレイルの始まり

    The Potomac Heritage Trail : MILE184

    いよいよ、C&O運河トレイルもラスト1日。この日は、C&O運河トレイルの終点の街、カンバーランドのYMCAキャンプサイトに泊る予定でした。前日のキャンプ地、ピグマンズ・フェリー・ハイカーバイカーキャンプサイトからは、約14マイル(約22.4km)ほどです。ゆっくり歩いても午後3時ぐらいには着くかなと思っていました。

    C&O運河トレイルの180マイルポストを越えたころから、181、182とマイルポストをカウントダウン(カウントアップ?)するかのように歩いて行きます。感覚的には、ゴール目前の183マイルポストから先が妙に長く感じました。

    ようやくマイルポスト184まで来ると、遠くに街が見え始め、子どたちの野球の試合の声援でしょうか、川の向かい側のグラウンドから賑やかな声が聞こえてきます。C&O運河トレイルのゴール目前の僕には、この瞬間はそれなりに特別な時間です。でも、ここで暮らし、日常生活を送っている人たちもいるんだなと、当たり前のことに思い至りました。

    あれ、街はけっこう遠くに見えるけど、C&O運河トレイルって184マイルで終わりじゃなかったっけ?と再確認すると、厳密には184.5マイルでした。つまり、まだ0.5マイル(800m)あるのでした。

    C&O運河トレイルのマイルポスト184。ゴールじゃありません!

    川沿いの土手を歩くと、駅が見えてきました。特に案内板などはありません。どこの道をどう進むといいんだろう。やや戸惑いながら、駅へと続く道ではなく、公園に伸びる歩道を歩いていきました。何となく、こっちが街の中心部に近そうです。

    建物の脇を抜け、繁華街に入ると、目の前で写真を撮っているバイカーが3人いました。ふと見上げると、C&O運河トレイルの184.5MILE、Great Allegheny Passage(GAPトレイル)の0MILEの看板があったのでした。記念撮影をしているバイカーにつられ、自分もパシャ(と撮影したのがトップの画像です)。

    シックなデザインなので見逃しかけた案内板。トレイルはそっちか!

    Great Allegheny Passage(GAPトレイル)の0MILEの看板。続々とバイカーがゴールしています。

    出発前の見通しよりも早く、お昼過ぎに到着。こうして僕のC&O運河トレイルはゴールを迎えたのでした。とはいえ、ポトマックヘリテージトレイルとしては、まだGAPトレイル、LAUREL HIGHLAND HIKING TRAIL(LHHトレイル)の2つのルートが残っています。

    他のバイカーたちはゴールしたことを喜んでいましたが、僕はまだ達成感などを得るにはほど遠い状況なのでした。

    もちろん、大きなトラブルもなくここに到着でき、ほっとする感覚はありました。でも、あくまでもチェックポイント通過という感じです。では、次へ——。

    しかし、続くGAPトレイルの情報が全くありませんでした。近くにレンジャーセンターがあったので、GAPトレイルの情報が入手できないかと訪ねてみたのですが、パンフレットの類はありませんでした。ただ、レンジャーに聞くと近くの自転車屋さんでガイドブックを売っているらしく、早速バイクショップに向かいました。

    バイクショップの店員さんに確認すると、地図とガイドブックの2種類がありました。簡単な地図は20ドル。分厚く、ハイカーが持って歩くには重いガイドブックが15ドルでした。荷物になるけれど、ここは迷わずガイドブックを購入。このガイドブックには、20ドルで売っていた簡単な地図と同等レベルの地図も掲載されていたのです。

    ところで、今夜の宿泊予定地であるYMCAキャンプ場は、カンバーランドの中心部から1.1マイル(1.7km)ほど離れています。

    ここにくるまでずっと、もっと街に近いキャンプ場があれば、そっちに泊まりたいと考えていたのです。そこで、バイクショップの店員さんに聞いてみたのですが、やはりカンバーランド周辺にはYMCAのキャンプ場しかないということでした。

    The Potomac Heritage Trail : MILE184.5 | Cumberland

    カンバーランドという街の名前は、イギリス王ジョージ2世の息子カンバーランド公プリンス・ウィリアムから付けられたそうです。

    フランスとイギリスの間の七年戦争の北米戦線であるフレンチ・インディアン戦争中、カンバーランドにはジョージ・ワシントン大佐(後のアメリカ合衆国初代大統領)の前哨基地の機能を持った砦があり、後に作戦本部が築かれました。

    また、ここはかつてメリーランド州で2番目に大きな都市で、「女王の都市」と呼ばれてきたそうです。「南部が始まる場所」とも呼ばれることもあるそうで、多くの移民が土地を求めて西へ開拓に向かう、その準備をして出発するのに適した場所だったとか。

    とりあえず、食料を買い出しするためのスーパーマーケットの位置を確認し、いったん街やトレイルから離れて、YMCAキャンプ場を目指します。すると、すぐに史跡が見えてきました。

    George Washington’s Headquarters

    この小屋はもともと、ジョージ・ワシントン大佐がフレンチ・インディアン戦争に従軍中に使用するために、エドワード・ブラドック将軍の部下によって 1755 年から 1758 年の間に建設。その後、1794 年に起きたウィスキー税の反乱を鎮圧するため、当時総司令官であったジョージ・ワシントンが再びこの地を訪れ、この小屋を短期間使用したそうです。

    あのジョージ・ワシントンの足跡を、まさかキャンプ場に行く道すがら発見するとは。僕はトレイルのためにさくっと通過するだけでしたが、カンバーランドには他にも多くの史跡が残されているそうです。

    ジョージワシントンが住んだ小屋。

    公園入口にある看板。

    今夜お世話になるキャンプ場の母体(?)であるYMCAとは、キリスト教青年会=Young Men’s Christian Associationのこと。教育・スポーツ・福祉・文化などの分野で幅広い事業を展開する、150年以上の歴史を持つ世界的な組織です。

    日本にも拠点があり、いろいろな活動を行っています。アメリカでは、トレイル沿線の街でもYMCAの関連施設を目にすることが多く、キャンプ場を運営しているところもあります。

    今回、窓口でスタッフに「初めて?」と聞かれ、僕は19年前にアパラチアン・トレイルを歩いていてYMCAのキャンプ場にお世話になったことを話すと、つい長話になってしまいました。

    屋根のある場所でテント張らせてもらったり、コーヒーが無料で飲める時間を教えてくれたりと、前回と同じく、やはりYMCAのスタッフはとてもフレンドリーでした。

    YMCAの立派な施設。

    YMCAの道路を挟んだ向いにあるキャンプ場。

    夕方、キャンプ場にワシントンDC在住のスティーブンというバイカーがやってきました。彼は、GAPトレイルの北の起点であるピッツバーグからワシントンDCまで、つまりGAPトレイルからC&O運河トレイルの終点までを自転車でスルーハイクしている、とのこと。

    ワシントンDCに住んでいるそうです。スティーブンはオーストラリア人ですが、奥さんがアメリカ人で、結婚してアメリカに移住してきたそうです。

    僕もトレイルの出発前に少しだけ滞在して実感しましたが、スティーブンとはワシントンDCの物価がクレージーだという話になりました。また、お互いの道具を見せあったり、トレイルの情報交換などもしました。

    彼は自転車で1日100kmほども走るそうで、ピッツバーグを出発してたった2日でカンバーランドに着いたそうです。僕は、ここまでの道のりから推察して、GAPトレイルとLHHトレイルの分岐の街であるオハイオパイルまでずっと登りが続くと思い込んでいました。

    でも、スティーブンによると、ピッツバーグからメイヤーズデイルまでは登りで、そこからワシントンDCまでが下りになるという話でした。つまり、逆を行く僕はマイヤーズデルまで登りで、あとは下るということになります。とはいえ、まだしばらくは登りが続くようでした。

    僕は今回、C&OCANAL TOWPATH(C&O運河トレイル)、GREAT ALLGHENY PASSAGE(GAPトレイル)③LAUREL HIGHLAND HIKING TRAIL(LHHトレイル)の3つをつないだポトマックヘリテージトレイル約500kmの道のりを歩いています。どのトレイルも情報が少ないので、行き当たりばったりのように歩を進めているところがあります。

    それはそれで、個人的に嫌いではありません。ポジティブな意味で試行錯誤、暗中模索しているというか、「この道って、こうつながるんだ!」とか「この街って、こんな雰囲気なんだ!」などと楽しんでいます。

    しかも、スティーブンとの会話のように、たまたま行き合ったバイカーやハイカーから情報を得て、少しずつ先の見通しが明るくなっていくと、「ああ、これぞトレイルだよな」としみじみ実感できるのです。

    Great Allegheny Passage Trail : MILE0

    GAPトレイルは、ペンシルベニア州ピッツバーグとメリーランド州カンバーランドを結ぶ全長150マイル(240 km)のトレイルです。ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道、ピッツバーグ・アンド・レイク・エリー鉄道、ユニオン鉄道、ウェスタン・メリーランド鉄道の旧線路跡地に沿って整備されています。

    GAPトレイルはC &O運河トレイルとともに、ピッツバーグとワシントンD.C.を結ぶ全長335マイル(539 km)のルートの一部で、ハイキングやサイクリングを楽しむ人々にとても人気があります。

    1978年、西ペンシルベニア自然保護協会が、西メリーランド鉄道の廃線跡26.75マイルの所有権をペンシルベニア州立公園局に譲渡。オハイオパイルとコンフルエンスの間に最初の区間のトレイル工事をスタートさせたのが、GAPトレイルの始まりだそうです。その後35年間にわたって近隣の小さな街へと延長し、2013年に全線が完成しました。

    GAPトレイル自体は、カンバーランドからピッツバーグまでです。ただ、僕が歩くポトマックヘリテージトレイルのルートとしては、GAPトレイルのMILE71.9地点のオハイオパイルで分岐し、オハイオパイル州立公園を通っているLHHトレイルに合流します。

    なお、GAPトレイル沿線は私有地が多く、勝手にキャンプができないエリアが多くなります。街の宿泊所や有料キャンプ場に泊らなければならない日々が続くので、あまり思うように歩を進められません。今日中に行けるところまで進み、疲れたらそのへんで就寝、といったことが許されないので。

    さて、どうなりますやら。

    GAPトレイルのスタート地点にある道標。

    ポトマックヘリテージトレイル公式サイト

    ナショナルシーニックトレイル踏破レポのバックナンバーはこちら

    斉藤正史さん

    プロハイカー

    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。また、BE-PAL.netにて「TOKYO山頂ガイド」を連載。

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