キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みはハマる野生菌ワールドへようこそ!
紅葉が進んで色付いた落ち葉が森の地面を染める。この間まで賑やかだった林内にキノコの姿は無い。もうそろそろ今年のキノコ狩りも終わりかなと思うと少々寂しい。そんな秋の終わりに、発生のピークを迎えるのがムラサキシメジだ。
ムラサキシメジの魅力は何と言っても見た目の美しさだ。鮮やかな紫色が赤や黄色の落ち葉に映えて、見つけた時には気持ちがぱっと明るくなる、しかも群生し収穫量も多い。晩秋の代表的な器量良しのキノコだ。
若いムラサキシメジを手に取ってみる。カサはヌメリなどが無く、すべすべした心地よい手触り。紫色でコロコロした形が、いかにもキノコらしくて可愛らしい。
特徴的なのは柄の基部が、球根状に丸く膨らんでいる事。これが他のキノコとの見分けの大きなポイントだ。
残念なのは、若いムラサキシメジの美しさが長く持たないこと。カサが成長するにしたがって、次第に汚褐色に変色し、さらに古くなるとキノコ全体が汚褐色になり、正直あまり食欲をそそらない姿になってしまう。
さて、『ムラサキシメジ』(食べられるキノコ)を見つけるコツは?
ムラサキシメジは、落ち葉を分解し土に返す腐生菌の仲間だ。コナラなど広葉樹を主体とした雑木林の、落ち葉が厚く堆積した場所を探すと見つけやすい。
実は都市部で身近にみられるキノコの一つでもある。郊外の里山や庭園の竹林に発生することも多い。公園や神社などで、落葉を集めて捨てた場所や、植込みの根際の落ち葉の吹き溜まりなどで見かけることもある。
前述したように、ムラサキシメジには群生する性質がある。一本見つけたら周りを探せば他にも何本か見つかるはずだ。時には何十本も連なって『キノコの列』になって生えている事もある。手入れの行き届いた開けた森や竹林なら、キノコが輪になって群生している様子が見られるかもしれない。それは『菌輪(フェアリーリング)』と言われる現象だ。
このムラサキシメジ、美味しく食べるのにはコツがある。
まず、必ず茹でてから食べること。生食では有毒で消化器系の中毒を起こすという。紫色の若い個体を選ぶこと。次に、調理前に不快な腐土臭のある丸い球根状の柄の基部を必ず取り除くこと。縦に切ってみて汚褐色に変色している部分も切捨てる必要がある。古く老成したものにも同様の匂いがあり美味くは無い。
実は『ムラサキシメジ』は、飛び抜けて美味なキノコではない。味ランクで言ったらせいぜいBランク程度か。もちろん不味いわけでは無いのだが。なんと言おうか味にまったくインパクトが無いのだ。肉はほとんど無味無臭でクセが無いのは良いのだが、うま味もない。当然、出汁も期待できない。
とはいえ、ほかにキノコの無いこの季節、やはり貴重な山の幸ではある。
クサしてばかりのようだが、最大の取り柄は独特の歯触り。我が家では茹でて薄めに切ったものを、コンニャクの刺身のように食べたり、サイコロ状に切ったものを大根おろしであえて食べるのが定番だ。
キョロキョロした独特の歯触りは心地よく、どこかで他でも食べたことがあるように思ったが、なんだろう。そうか、なんとなく、ナタデココに似ている。
ムラサキシメジ(食べられるキノコ)
※ 注意 ※ 生食は厳禁!中毒の可能性がある、しっかり火を通して食べること。
学名:Lepista nuda (Bull.) Cooke
カサの径は6㎝ほどのやや若い個体。カサが開き切ると12㎝ほどになる。
【カサ】
幼時、縁が内側に巻き、饅頭形。成熟すると平らに開く。表面は平滑。粘性等は無い。初め鮮やかな紫色だが、やがて中央から変色し老成すると汚黄褐色になる。
【柄】
基部は丸く膨らみ球根状。カサと同色かやや淡色。表面は繊維状か、細かいささくれに覆われる。切断面は中実でカサ表面よりやや淡色だが、基部の球根状部分は汚黄褐色。老成すると全体が汚黄褐色化。
【ヒダ】
湾生し密。カサと同色かやや淡色。
【肉】
弱い灰汁のような香りがある。無味。
【環境】
落葉が厚く堆積した腐植上に発生。
『ムラサキシメジ』に間違いやすい毒キノコ
ウスムラサキシメジ(※有毒※)
ムラサキシメジに似るが、鼻を突く不快で強い薬品臭がある。
学名:Lepista graveolens (Pk.) Dermek
【カサ】
幼時淡く紫色を帯び、周辺部内側に巻く。饅頭形から平らに開き成長するとほぼ白色。老成につれ中央部から褐色を帯びる。表面は幼時、微粉状。成熟すると平滑。湿時やや粘性がある。
【柄】
基部が丸く膨らみ、ほぼ白色。表面は繊維状または細かいささくれに覆われる。切断面は中実だが、中央部は綿状または髄状。
【ヒダ】
湾生し密。カサと同色。
【肉】
白色で強い不快臭がある。
【環境】
腐植上、地上生。
【注意】
消化器系の中毒を引き起こすと云う。
文・写真/柳澤まきよし
参考文献/「日本のキノコ262」(自著・文一総合出版)