第3回「火を操る道具(ロシア編)」
我が家の火を操る道具は、友人達と製作した手作りの道具。ロシアの暖炉「ペチカ」で活躍している(ペチカについては、第1回「火のある暮らし」をお読みください)。
すべてゼロから始めた四苦八苦の火暮らし生活。すべてはロシアの旅から始まった
料理の器もペチカ専用。陶芸家のカオリが製作。器を取り出す道具は鉄工職人ジュンコ作。かなり苦労して完成させた逸品。
ミナサマ、シートベルトはハラの上でおしめください
世の中のデジタル化が凄まじい勢いで加速する中、ロシアの人々には未だヘビーなアナログ精神が流れていた。その威力は強大で、ときに旅人を困惑させる。
例えばロシア行きの国際線。最新鋭の飛行機でも工具箱を抱えた整備士が3人同乗。彼ら曰く、「飛行中、故障してもすぐに直せるから大丈夫」とのこと。
離陸アナウンスもじつにアナログ臭い。日本語を翻訳したマニュアルが手書きのせいで、漢字を間違えてアナウンス。
「ミナサマ、シートベルトはハラの上でおしめください」
腹(はら)でなくて腰(こし)だろう。
「小さなクツは棚の上にお乗せください」
靴(くつ)じゃなくて、鞄(かばん)!
「奥様をおつれのお客様は、奥様をひざの上にお乗せください」
お子様だ〜ッ!
ペチカや火を操る道具について書かれている一冊の本
そんなロシアの旅で出会った一冊の本『ルースカヤ・ペチ』。ペチカ職人からいただいた本で、ペチカや火を操る道具について書かれている。これが超アナログすぎてぶっ飛んだ(テキスト・イラスト/ペトロフ・ジェナディ。現在は絶版本)。
その内容は…
1)ペチカを作りましょう(ふむふむ)。
2)でもその前に、ペチカに使うレンガを作りましょう(えっ?)。
3)さらにその前に、レンガを作るための工具を作りましょう(マジか?)。
4)もっとその前に、その工具を作るための大工道具を作りましょう!(なんだとぉ〜っ?!)
じつはこの本が私の自然暮らしのバイブル。本に習い、なるべくゼロから作ろうと、友人達と画策した。
とくにペチカで料理をするための道具は四苦八苦だ
ペチカは火床が広く、壁際、前室など温度がそれぞれ違うので、料理の種類によって器を置く場所を変える。そのため、ペチカ温度に耐えられる素焼きの器と、それを取り出す「コロ」と呼ばれる道具が必要になる。
何度も失敗を繰り返しながら製作した道具
「ダメだ、器とコロの大きさが合わない」「多分、器の高台が低すぎるんだ」「コロが重過ぎて持てない!」
何度も失敗を繰り返しながら製作した道具。完成すると、ロシア料理のペリメニ(ロシア風水餃子)やスープが効率よく作れるようになり、ペチカ料理の幅も広がった。
私にとって、火を操る道具は、単なる焚火の道具ではない。生活を支え、暮らしを豊かにする一生もののデザイン。我が家のほんの小さな文明開化。
次回は「火を操る道具(マタギの里編)」です。
お楽しみに!
ババリーナ裕子
かつてサハラ砂漠をラクダで旅し、ネパールでは裸ゾウの操縦をマスター。キューバの革命家の山でキャンプをし、その野性味あふれる旅を本誌で連載。世界中で迫力ある下ネタと、前代未聞のトラブルを巻き起こしながら、どんな窮地に陥ろうとも「あっかんべー」と「お尻ペンペン」だけで乗り越えてきたお気楽な旅人。現在は房総半島の海沿いで、自然暮らしを満喫している。執筆構成に『子どもをアウトドアでゲンキに育てる本』『忌野清志郎・サイクリングブルース』『旅する清志郎』など多数。本誌BE-PAL「災害列島を生き抜く力」短期連載中(読んでね)。