文化系アウトドアのススメ Vol.2 大和葛城山の頂きで「国見」気分
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    2018.12.20

    文化系アウトドアのススメ Vol.2 大和葛城山の頂きで「国見」気分

    思い切って「はしょる」勇気

    実は私が、大和葛城山(以下葛城山と略)と山麓を歩くために用意できた時間は、たったの1日半でした。

    地図をじっと見つめて、思わずため息をつきます。神社や史跡はもちろんのこと、いかにも意味ありげな地名がたくさん……。とにかく、この地域は、歴史が濃すぎるんです! 少なくとも2000年くらいの蓄積があるもんですから、もう、手も足も出ない――そんな気持ちになってしまうほど。

     ここで大切なのは、思い切って「はしょる」勇気かもしれません。どんな土地にも見どころは無限にあります。だからこそ「文化系アウトドア」では、テーマを決めて「深読み」をするためにも、勇気をもって「はしょる」。

     今回の私のテーマは、修験道の祖・「役小角(えんのおづぬ)」です。そして葛城山と山麓を歩くのは、「役小角」という超人が誕生することになった「土地」の空気を体感したいということが最大の目的……。というわけで、役小角誕生よりも前の時代、45世紀の空気感を探し求めることにフォーカスして、古代から今に続く街道「葛城古道」を歩いてみることにしました。

    役小角生誕の地・吉祥草寺(きっしょうそうじ)にお参りした後、鴨氏の重要な氏社の一つで、名神大社である「鴨都波(かもつば)神社」にお参りをし、一度御所(ごせ)駅に戻ります。

    葛城古道を一言主神社から御所駅へ歩く。周辺には葛城氏や鴨氏、大王家ゆかりの神社や遺跡が点在。このカーブを進むとしばらくして綏靖天皇(第二代)の宮・高丘宮跡の碑が現れる。

    そして、御所駅からは、思い切ってタクシーで葛城氏の氏社である葛城坐一言主(かつらぎにいますひとことぬし)神社へ。バスもあるにはあるのですが、日に数本しかないので、タイミングが合わないと乗れません。そこで、「葛城古道」の中間地点にある一言主神社まで一気にタクシーで行き、鴨山口(かもやまぐち)神社(鴨氏の重要な氏社の一つ。式内大社)などに立ち寄りながら、「葛城古道」を御所駅のほうに歩いて戻ってきました。

    山頂から望む「二つの国」

    駅前へ戻ると、バスに乗って、葛城山登山口へ。そして、すかさず葛城山ロープウェイに乗り込みます。葛城山と言えば、葛城山系を縦走するルート「ダイヤモンドトレイル」でも有名ですよね。テーマ的にもぜひ歩いてみたいルートですが、今回は断念。せめて葛城山だけでも自力で登りたいところですが、それも断腸の思いで「はしょり」ます。

    葛城山ロープウェイ。山頂への最終は17時発です!

    実は、葛城山山頂には、国民宿舎「葛城高原ロッジ」という宿泊施設があるんです。そちらにお世話になると決めていたので、最終ロープウェイに乗るなんてことができたわけなんですね。こんなふうに現地に泊まれるというのも、密かな喜びです。体がその場所の空気に馴染んでいくような感じがします。

     そして、翌朝。張り切って山頂へと向かいました。

    遮るものが何もない、360度の見晴らし! おおお。なんという光景でしょう!

    頂上標を中心とすると右手には、大和の国!

    左手には、河内の国!

     これは……。まるで「国見」ではありませんか!

    気分は古代の大王

    「国見」とは、その字の通り「国を見る」という意味です。

     「見る」ということは所有することを示し、古来、為政者の儀式として行われてきました。そもそもは、その土地の首長が、春の始まりに産土神を目覚めさせ、豊かな収穫を約束させるといった意味合いの呪的な儀式だったようです。

     例えば『万葉集』にも、舒明(じょめい)天皇(天智天皇のお父さん)の国見の歌が掲載されています。

     「大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ うまし国ぞ あきつ島 大和の国は」――大和にはたくさんの山があるけれども、中でも素晴らしいこの天香久山(あまのかぐやま)に登り立って国見をしてみたら、煮炊きをする煙が立ち、水辺には水鳥が盛んに飛び立っている。この大和の国は実に豊かで美しい国だ。(意訳)

     この歌は、舒明天皇が国をほめちぎっている内容ですが、これは、「国ほめ」という呪術的な儀式(方法)なんですね。ほめることで、良い言葉の言霊でもって神々へ語り掛ける。そして、神々に実際にそのようにしていただくという、そんな儀式です。古代においての国見には、この「国ほめ」もセットだったようです。

     この葛城山山頂(標高959.2メートル)は、まさに「国見」にふさわしい場所だ!!とこの絶景を見て思いました。前述の天香久山は、大和三山の一つですが、標高は152.4メートルしかない小さな山です。丘と言ったほうがいいかもしれません。本来「国見」はそんな高さの山で行ったらしいので、葛城山はちょっと高すぎるのかもしれませんが……。いや、しかししかし……。

    矢印が大和三山。手前が畝傍山(うねびやま)、左が耳成山(みみなしやま)、右奥が天香久山

     その大和三山もばっちり見下ろせてしまいますし、吉野も、国中(くんなか)と呼ばれるエリア(奈良盆地の中央あたり)もほぼ全部見えます。

     そして、河内の国もばっちりです。大仙陵古墳(仁徳天皇陵)などの大規模古墳が点在する地域(現・堺市)や、和泉国――関西国際空港から、茅渟(ちぬ)の海(現・大阪湾)までぐるりと見渡せちゃいます。

     「……この場所、もし自分が大王だったら、絶対押さえておきたい場所だよね」

     同行してくれている友人Tちゃんが呟きました。なにしろ、国の状況が一目瞭然です。煮炊きをしている煙がたくさん上がっていれば、それは民が飢えていない証拠ですし、豪族たちの屋敷の規模もわかるでしょう。あるいは水源の在りかなんかも見当がつきます。「情報」をたくさん持つものが有利なのは、いつの時代でも同じことです。

     河内も大和も、有史以来の大国です。古代には巨大な王権がありましたし、その後、いつの時代も重要な地域だったわけですが、その分水嶺がこの大和葛城山を含む「葛城山系」だった。そのことを、この景色をみることで体感してしまったような気がしました。

     「本当にきれいです!素晴らしいです~~!」

     狙ったわけではありませんが、やたらと褒めちぎってしまう私たち。高揚しておかしなテンションになりながら、「国ほめ」をしまくって、私たちは、山頂を後にしたのでした。

     vol.3に続く)

     プロフィール

    武藤郁子 むとういくこ

    フリーライター兼編集者。出版社を経て独立。文化系アウトドアサイト「ありをりある.com」を開設、ありをる企画制作所を設立する。現在は歴史系小説などの編集者、ライターとして活動しつつ、歴史や神仏、自然を通して、本質的な美、古い記憶に少しでも触れたいと旅を続けている。

    ★共著で書き下ろした『今を生きるための密教』(天夢人刊)が12月17日に刊行されました!ぜひお手に取ってみてください。よろしくお願いいたします~!

     

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