生きものの中には、その姿や動きを周囲に似せる「擬態」の技を身につけたものたちがいます。あるときは、敵から身を隠すために、あるときは相手を捉えるため。その技は、生きものたちの「生きる術」でもあるのです。
『世界で一番美しいかくれんぼ』には、世界中のさまざまな場所でとらえた擬態の瞬間が集められています。それをこの本では「壮大なかくれんぼ」と称しています。
生きものたちの知恵とユーモアが散りばめられた本の中から、今回は「森に包まれて」編を少しだけご紹介しましょう。
北国の幽霊 Phantom Of The North
撮影:インゴ・アルント/Ingo Arndt
インゴ・アルントは世界でいちばん大きなフクロウ、カラフトフクロウを撮影するために、10日間フィンランドの寒さに耐えていた。
見通しのきく場所で電柱や木にとまっていれば簡単に見つけられるのだが、このフクロウは雪におおわれたカバノキにすっかり溶け込んでいて、あやうく見逃すところだった。やわらかい色合いと縦じまが、木の幹と枝、光の陰影が作る模様にそっくりだ。
雪国に適応したカラフトフクロウは、この擬態のほかにもすぐれた特性をもっている。聴力が鋭く、雪の中や地中でモグラなどの獲物が動くかすかな音を聞きとれるのだ。そして、やわらかな羽で音もなく飛び、相手に気づかれずに接近する。“北国の幽霊”と呼ばれるのもうなずける。
カラフトフクロウ(Strix nebulosa)
フィンランド
神秘のジグソーパズル Cryptic Jigsaw
撮影:アレックス・ハイド/Alex Hyde
フランス語式の“メルヴェイユ・ドゥ・ジュール”という名をもつこのガは、オーク(カシ、ナラなどブナ科コナラ属の木の総称)の森と関係が深い。幼虫はオークの葉や若い花を食べて育つ。夜行性なので、昼間の光の中では地衣類によく似た姿で木の幹に溶けこんですごす。
この写真は、一見すると、淡い緑色と黒い影の部分と不規則なデコボコでできたジグソーパズルのように見える。この中に周囲の緑と黒のパターンをまねた翅をもつガがひそんでいると言われても、よく見ないとわからないだろう。
アレックス・ハイドは、この写真をあえてガが小さくなる構図にしている。「木の幹をじっくり見て、このすばらしい虫を発見する瞬間を体験してほしいんだ。ぼくは、このガは秋にイギリスで見られるガの中でもっとも繊細だと思う。地衣類のはこびる幹にとまっている姿は、ほとんど発見不可能だね」
メルヴェイユ・ドゥ・ジュール(Dichonia aprilina/ヤガ科の仲間)
イギリス、レスターシャーの国有林
『世界で一番美しいかくれんぼ Hidden in Nature』(小学館刊・本体価格2700円+税)
イギリスのネイチャー雑誌『BBCワイルドライフ』の元編集者が集めた自然と生きものの姿。名だたる写真家が撮影した「擬態の時間」を集めた一冊は、生きものに興味を持つ子供から、アートを好む大人まで幅広く楽しめる。