里山を活性化させる農地の活用法。そのひとつとして注目を集めるのが神奈川県藤沢市「農家レストランいぶき」。さっそく、新鮮な野菜ごはんを味わってみた。
地元の役に立てられたら…と、奔走し「いぶき」をオープン
「この土地に育てられたという思いがあるので、故郷をなんとか活性化したいと考えたんです」
2018年5月、藤沢市の郊外で「農家レストランいぶき」をオープンさせた冨田改(かい)さんは、創業にこめた思いについて、こう話してくれた。「いぶき」が話題を集めている理由は、通常は耕作以外の利用が認められない農地において、特例措置を受けて開業した全国6番目、関東では初となる農家レストランであるということ。安価な食料が輸入されることなどにより、衰退が叫ばれて久しい国内の農業。容易に売買することも叶わず、放棄された耕作地は全国で42万3千ha(平成27年 農林水産省)、その面積は富山県の大きさに匹敵する。
「このあたりも遊休農地が増え、手を入れられないまま放ってある。緑はただ残せばいい、ってもんじゃないんです」
15代続く農家の次男である冨田さん。大学では農学と造園を学び、卒業後は都内から地元へ戻り、一代で造園業を興した。造園とは、環境をいかにつくるか、という営みであるという。
「環境は天から与えられたものでもあるけれど、土地の人間で維持管理するという側面もあるんです。東京に暮らしたこともあって、ここの自然の魅力に気づくことができたし、造園業を通して樹木医の資格を取るなどし、それぞれの環境に合う植生を学ぶことができた。そんな私の経歴を、地元に役立てられたら、と思ったんですね」
折良く、農地利用を緩和する特例措置が内閣府によって発表されるものの、県や市に政策を履行するための条令が用意されていなかった。そのため、足を棒にして西から東へ、そうして書類を何度も書きかえる。
「みなが、会社だけやっていれば手間もかからないのに……というのですが、そういう問題じゃないんです!」
故郷を変えるのは、助成金や外部の学者のプランではなく「地の人間のやる気なんです」とにっこり。そうして3年がたち、ようやく開業にこぎつけた。
酵素が活きた新鮮野菜の料理
そうした経緯から生まれた「いぶき」では、米や野菜、豚肉など食材のほとんど地元産でまかなっている。そうした新鮮な食材がウリかと思いきや、いぶきの料理にはさらなる奥行きが……。
「うちでは、発酵調味料を使っているんです」
味噌と醤油の原型である醤や甘酒など、基本の味付けには酵素を活かした発酵調味料を使っている。生麹に漬けた肉は、酵素によってタンパク質が分解され、アミノ酸へ。そうすることで「旨みが立つ」という。
「体内の酵素には、消化を助けることのほかに、心臓を動かし、血液を流すという大きな役割があります。体内の酵素自体は増えないので、限りある酵素を消化に使わせない、体に優しい料理を目指しています」
発酵調味料を担当する鈴野智子さんが胸を張る。新鮮な素材と、生き物である発酵調味料の特徴を見極めて使いこなし、ひと皿の料理へ昇華させるのは、料理担当の中村亜湖さんだ。
「毎朝、届く野菜を見てから献立を決めるので、毎日来ていただいても飽きさせることはありません。酵素の働きで消化がよく、美容や疲労回復にも効果がありますよ!」
あなたの家の近くにもあるかもしれない畑の中のレストラン
ぞくぞく登場、農家レストランに行ってみよう!
サバーヴィアン(愛知県日進市) 「⼤切な家族に毎日食べさせたい料理」がテーマの農園レストラン。
サンセットウォーカーヒル(愛知県常滑市) 厳選された知多半島の食材を使った農家レストラン。
ラ・トラットリア エストルト(新潟県新潟市) タカギ農場の新鮮野菜や自家製ベーコン、ソーセージを味わえる。
農園のカフェ厨房 トネリコ(新潟県新潟市) 野菜ソムリエによる野菜料理と手作りのスイーツ、和菓子が大人気。
ラ・ビステッカ(新潟県新潟市) 新潟県産牛のステーキランチが人気の農家レストラン。
農家レストランいぶき
店内は、明るく心地よいオアシスのような空間。最新情報はいぶきのFaceBookをチェックしよう。ワークショップも開催中。
農家レストランいぶき
神奈川県藤沢市遠藤38
0466(86)7602
※構成/麻生弘毅 撮影/三枝直路
※この記事は、ビーパル9月号(2018年)に掲載された記事を再編したものです。