繊維の町として発展した桐生市は、いにしえからの職人気質なのか、 強いこだわりを持った人や個性的な店が多いという。さて、その遊び方とは?
自転車に魅せられて起業
古くから絹織物などの繊維業で名高い群馬県桐生市。いまもノコギリ屋根の工場群が姿を留めノスタルジックな町並みが人気だ。最近は、スペシャルティコーヒーを取り扱うカフェやアウトドアショップなど個性派の店が続々とオープンし、I・Uターンした若者が街を活気づけている。また、市街地から山や川が近く、目と鼻の先に遊び場が広がっているという自然派は大刮目したい場所でもあるのだ。
アウトドアにぴったりの素敵な街・桐生。うらやましい環境に住まう人びとは、一体どんなライフスタイルを送っているのだろうか。桐生人の遊びスタイルを探るべく、市内でバイシクルストア3PEAK(スリーピーク)を10年近く営む峯岸健一さんを訪ねた。店に入ると、所狭しと並ぶ自転車やアウトドアグッズ。「いらっしゃいませ〜」と笑顔の峯岸さんが出迎えてくれた。店内には「ガタガタガタガタ」というミシンを踏む音が響いている。「じつは奥に作業場があって母が洋裁をしているんです」
店舗が入る建物は、もともとは実家であり家業の洋裁のための工場となっている。リズムよく刻まれるミシン音が耳に心地よい。さすが〈日本の機どころ・桐生〉(※群馬の郷土を詠んだ上毛かるたの一枚)を、早速実感! 仲間と手作りでリフォームした内装も木材がふんだんに使われミシン音と相まって柔らかな雰囲気が漂っている。
峯岸さんが自転車に目覚めたキッカケは友人に勧められて乗り始めたピストバイクだった。
「まるで体の一部になったような一体感。シンプルなのに奥が深い。ノーブレーキ、固定ギアだけに集中を要するので、乗っているときは無になれました」
そんな新感覚に引き込まれてイベントなどに片っ端から参加し一気にのめり込んでいったそうだ。いつしか自分の店を持ちたいという夢を描き、職人に弟子入りするかのようにフレームビルダーのもとに通い詰めて、メカニックの技術を習得した。自転車の構造を基礎から学び、数年でショップを開くまでになる。
「ショップの個人経営は苦しいことも多いです。でも、利益だけを追いかけることはしたくないんです。せっかく店を始めたのだから、自分がいいと思うモノや、好きなモノを売っていきたいと思っています」
店内は愛がこもったこだわりのセレクトで溢れている。
移住先としても人気の群馬県桐生市
群馬県東部に位置。全国でも珍しい飛び地の桐生市は、蝶が羽を広げたような形。首都圏とのアクセスは120分以内と、ギリギリの通勤圏内か? 昨今は移住先として人気。
気負わないのが桐生流!
当初は市街地に店を構えていたが、手狭になったこともあり、現在の場所に移転した。自然との距離がより近くなったことで「自転車のある生活」を自らも楽しみつつ、提案したいと思うようになった。週末ともなればお客さんや仲間と吾妻山へ登るのがお決まりのコース。
「なぜだか何度登っても飽きない山なんですよね。初日の出も毎年必ず、吾妻山から眺めます。寒いですが、そんなシチュエーションで飲む温かいコーヒーが格別なんです。その奥にある鳴神山に向かうこともあります。車では通り過ぎしてしまうような季節の空気を感じられるのが、自転車の醍醐味だと思います」
吾妻山は五百メートルに満たない小さな山だ。近所の人びとが散歩がてら毎日のように訪れる山であり、昔から象徴的な存在としてローカルに親しまれて
いる。吾妻山から続く鳴神山も、固有種植物があるほど自然が豊か。山麓を流れる桐生川の上流部を目指すサイクリングも峯岸さんお気に入りのコース。一時間も走ればカワゲラが棲む清流に達する。玄関を出て一時間でどっぷり浸かれる大自然。きっとそれゆえに、桐生の人びとにとって山や川といったところは気負って出かけるところではないのだろう。生活の一部でありごく身近な存在なのだ。
峯岸さんのいう「自転車のだからこそ感じる季節、その速度で見える桐生の景色」。次に“訪桐”する際は、ぜひとも桐生スタイルを体験してみたい。
透明度抜群の清流へ!
峯岸さんイチオシは、県道66号を走る桐生川ダムコース。終始舗装路ではあるものの、山沿いでサルやシカとの遭遇率高し! 市街から片道1時間ほどでダムに到着。雄大なダム湖の景色を眺めてゆっくり過ごすのもよし、暑い日は途中の川に下りて火照った体を冷たい水でクールダウン。上流部は水生昆虫が暮らす自然の宝庫でもある。体力や気力に自信のある人は、さらに奥の草木ダムや松田川ダムにも足を延ばしてみては?
自転車と一緒に電車に乗れる!
上毛電気鉄道・中央前橋駅と西桐生駅を結ぶ25.4㎞の区間では平成17年よりサイクルトレインを実施中。電車運賃のみで自転車を持ち込むことができるのだ! 生活の足ということもあり、年間4万台以上の利用があるという。これを利用して「ダムから赤城山(前橋)方面へ下って、前橋エリアの駅から乗り込み桐生に戻って来るコースも面白い」と、峯岸さん。開通90周年を迎えるローカル線のレトロな雰囲気を味わってみては!
3PEAK 店舗情報
自転車の販売からメンテナンスも手がける。店内はアウトドアグッズが並び賑やか。店名は、峯岸さんの愛称「峯さん」の「さん=3」と「峯=PEAK」から。渡良瀬川にほど近い場所に店舗はあり、すぐにサイクリングに出かけられる絶好の環境だ。
〒376-0013 群馬県桐生市広沢町3-4160-4
TEL&FAX 0277-53-8512
OPEN 12:00〜20:00
CLOSE 水曜日
※構成/ONOBORI3竹内躍人 撮影/sumi☆photo
※この記事はビーパル5月号(2018年)に掲載された記事を再編したものです。