第5回「シベリアの薪積みの奥義」
私の自然暮らしの基盤はシベリアにある。若い頃、幾度となく足を運んだシベリア。その旅の中で、過酷な自然を生き抜く智恵をたくさん学んだ。
そのひとつに「薪」がある。
ロシア南東部に位置するバイカル湖畔のキャンプ場を数名の友人と訪れたときのことだ。キャンプ場といっても施設はなく、焚火を行なう”かまど”が掘られているだけの場所。かまどの周りには多くの薪が積まれていた。
シベリアの人々の大切なアウトドアの掟
その薪を使って火を起こし料理をしていると、ひとりの若い女性がやって来た。タイトスカートにハイヒール、ピアスにネックレスといった街中で見かける服装。ワイルドなキャンプ地に似つかわしくない、か弱そうな女性だった。
ところが、そんな彼女が薪を見ながらこう言ったのだ。
「皆さん、薪を使うことはかまいません。ですがこの薪は冬に猟師が使う薪でもあります。もしここに薪がなければ、猟師は死んでしまいます。それがシベリアの冬です。ですから、必ず薪を補充しておいてくださいね」
目から鱗の言葉だった。
“自分で使った薪は、必ず自分で補充する”。”自分のためでなく他人のために”。それが過酷な自然環境の中に生きるシベリアの人々の、大切なアウトドアの掟なのだ。
シラカンバはシベリアの土壌に適した樹木
シベリアの薪で一般的なのが、シラカンバ(白樺。カバノキ科カバノキ属の落葉樹の一種)である。シラカンバはシベリアの土壌に適した樹木で、「雑草」と呼ばれるほど成長が早い。木の皮は焚き付けに使われる。
また、天然の防腐・抗菌効果があるため、食料品の保存箱にしたり、タールや樹木に付着するキノコは、民間療法の生薬として利用する。
最後に火力が上がり高い炎を出すアスペンを入れる
ただしシラカンバはタールを多く含み、ロシアの暖炉ペチカの煙突の詰まりを引き起こしやすい。(ペチカについては、第1回「火のある暮らし」第3回「火を操る道具・ロシア編」をお読みください)。
そのため、シラカンバである程度、炉を温めたら、ゆっくりと燃えるバーチ(カバノキ科シラカンバ属の広葉樹)に変更。最後に火力が上がり高い炎を出すアスペン(ドロヤナギ属の広葉樹)を入れて煙突内に付着した煤(スス)を燃焼させる。
効率よく暖炉を温め、同時に煤を排除する。この薪の入れ方もシベリアの知恵のひとつだ。
ちなみに日本の薪の横綱は、ナラ、クヌギ。大関がサクラ、ケヤキ、リンゴなど。関脇がシラカバ、ホウなど。小結がスギ、ヒノキ…と言われている。我が家のアスペン役は、乾燥させた竹。時々入れて煤を燃焼させて掃除をする。
その乾燥で重要となるのが「薪の積み方」である
シベリアでの薪づくりの基本は、薪になる樹木の性質を学び、樹木の性質に合わせて乾燥をさせること。その乾燥で重要となるのが「薪の積み方」である。
一般的な積み方は左右を井桁に組んで、その間に薪を平行に積んでいく組み方。「野積み」と呼ばれ、丸木でもケージのない場所で安定して積めて崩れない。
より薪を乾燥させたいならドーム型(スイス型とも)がいい。ドーナツ状に組んでいく方法で、初心者には難しい組み方だが、ドームの中心部が空洞のため、空気の対流(空気の煙突効果)がおきてより薪が乾燥しやすい。
旅で学ぶことは多い。楽しみの中で経験したことは、決して忘れない。
大切なのは、そこで得た知識をどうやって持ち帰り、何に役立てるかだと思う。
私はこれからも、世界中で吸収した知恵を、自然暮らしの中で大いに活用していこうと思う。
次回は「シベリア伝説のハンター、”デルスウザーラ”に学ぶ、ヘビーな自然暮らし」です。面白いよ~(多分ね)。お楽しみに!
ババリーナ裕子
かつてサハラ砂漠をラクダで旅し、ネパールでは裸ゾウの操縦をマスター。キューバの革命家の山でキャンプをし、その野性味あふれる旅を本誌で連載。世界中で迫力ある下ネタと、前代未聞のトラブルを巻き起こしながら、どんな窮地に陥ろうとも「あっかんべー」と「お尻ペンペン」だけで乗り越えてきたお気楽な旅人。現在は房総半島の海沿いで、自然暮らしを満喫している。執筆構成に『子どもをアウトドアでゲンキに育てる本』『忌野清志郎・サイクリングブルース』『旅する清志郎』など多数。本誌BE-PAL「災害列島を生き抜く力」短期連載中(読んでね)。