キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みにハマる野生菌ワールドへようこそ!
ちまたに桜前線北上の話題が上るころになると、キノコ採りの虫がウズウズと騒ぎ出す。
アミガサタケの季節が始まるからだ。
アミガサタケは奇異な形と、キノコは秋のものという固定観念のためか、日本ではほとんど食べられてこなかった。しかし海外では、特にヨーロッパでフレンチやイタリアンの美味で香り高い高級食材として珍重され、フランス語ではモレル、イタリア語でモルケッタ、英語ではモリーユと呼ばれて愛されてきた。
日本でも、近年のきのこブームのためか、徐々に知られるようになり、最近では季節はずれの春のキノコ採りを楽しむ人も増えているようだ。
早春、真っ先に登場するのは、トガリアミガサタケだ。サクラが咲く少し前から出初め、サクラが散るころまで発生する。
トガリアミガサタケのシーズンが終わると、入れ替わりにアミガサタケが出始め、5月の連休の辺りまで発生が続く。
トガリアミガサタケ(食べられるキノコ)
学名:Morchella conica Pers.
【大きさ】
高さ7cm~15cm。
【頭部】
縦長の円錐形で頂部は尖ることが多い。中空で内部の表皮は白色で粒状。網目(肋脈)は縦方向によく発達し横方向の隆起は少なく、縦長。柄に離生する。暗褐色~黒褐色。網目の内部は淡色。
【柄】
上下同じ太さの棒状か下方が太く、中空で筒状。表面は粉状から平滑。類白色~淡黄色。
【肉】
薄く弾力があり、無味無臭。
【環境】
春早く、サクラの花が咲く直前から、林内地上。特にサクラ、イチョウなどの樹下に多く発生する。
【食毒】
可食だが、生食厳禁。少量の有毒成分を含み十分加熱して利用すること。
アミガサタケを採るには、少々コツがある。それは生える場所に関してだ。
普通のキノコのように山に行っても、アミガサタケはまず採れない。アミガサタケが生えているのは、むしろ家の近くの公園や、場合によっては街中の小さな緑地など。
特にサクラの木が植えられている場所に発生することが多い。イチョウの近くにも発生するというが、残念ながら私はまだ見たことがない。
サクラの樹下に多く発生することから、以前は菌根菌かと疑われていたが、実際は腐朽菌と菌根菌、両方の性格を併せ持つという。
だから、やや手入れが悪く、サクラの樹の下に落枝などが堆積したような場所も狙い目になる。
街中に発生するのは、雨によって溶け出したコンクリートの成分ため土壌のphがアルカリ性に近づくから、という説がある。
アミガサタケはアルカリ土壌を好むからというのがだが、これにはまだ確かな証拠は無い。ただコンクリートの道路の近くや塀の近くに出ているケースは少なくない。
経験則としては、まあ、間違ってはいないのかな、と思う。
アシブトアミガサタケ(食べられるキノコ)
学名:学名:Morchella crassipes (Vent.) Pers.
【大きさ】
高さ8cm~20cm。
【頭部】
円錐形から卵型。頭頂は丸く鈍頭~やや尖る。空洞、内部の表皮は細かい粒状。網目(肋脈)は深く、縁がやや薄く多角形で網目が大きくやや粗い。淡黄色~帯褐色。柄に直生する。
【柄】
表面は粉状~平滑で白色~淡黄色。緩やかな縦じわがある。下方に太く下部は球根状に膨らみ、中空で管状。
【肉】
薄く、弾力があり淡黄色。無味無臭。
【環境】
春、林内地上。特にサクラの樹下に多く発生。
【食毒】
可食だが、生食は厳禁。必ず十分加熱してから食用にすること。
実はアミガサタケには微量だが毒成分が含まれている。
アミガサタケは、広く食用にされているのにも関わらず、食用に注意が必要なキノコとされている。
微量だが毒性の強い成分が含まれているためだ。
毒成分は、同じ子嚢(しのう)菌類に属する猛毒菌、シャグマアミガサタケ(猛毒)の毒成分と同じ、ジロミトリン(ギロミトリンともいう)とジロミトリンが水と反応してできる加水分解物、猛毒のメチルヒドラジンだ。
毒成分のメチルヒドラジンは揮発性の物質で、沸点は87.5度C。
沸騰した湯で煮沸したり、しっかり焼いたりすれば、含有量のほとんど全てを除去することができる。
生食はもちろん生煮えや生焼けは厳禁だが、十分に加熱して調理すれば安全に食べられる。
ただし、揮発性の毒なので、大量に処理する場合は換気を良くして湯気を吸わないように注意すること。
アミガサタケは痛みやすく日持ちが悪いため、乾燥保存されることが多い。フレンチのソースなどでは乾燥アミガサタケを使うのが一般的だ。
とは言っても、せっかくの採れたてのキノコ、できたら新鮮なものを食べたいと思うのが人情だ。
フレンチのキノコ料理の第一人者、山岡昌治シェフは、「生のアミガサタケを使えるというのは贅沢ですね。ただ、生からいきなり茹でるのでは水気が多過ぎて、ちょっとうまくいかないかも…、そうですね、乾燥焼きして使ったらいいと思います」と言う。
長期保存するのならカラカラに、すぐに食べるのなら食感を残した生干しにすることもできるのだ。
アミガサタケの下ごしらえ、乾燥焼きの手順
1 アミガサタケをよく洗い汚れを取る。縦半分に切り、特に網目や柄の空洞部分に入り込んだ砂やアリを注意して取り除く。
2 洗ったアミガサタケの水気を手で絞り、表面の水気をペーパータオルなどで拭き取る。ドライヤーなどで乾かしても良い。
3 オーブンにクッキングシートを敷き、アミガサタケを並べ、100度C加熱しながら、15分おきの間隔で乾燥状態を確認しながら焦げないように気をつけて焼く。
乾燥することで香りが強くなりより旨味が増すという。
見た目は悪いが味は一級品。姿形からは想像できない美味いものが、世の中にはままある。
アミガサタケも、ウルトラセブンに登場した宇宙人(チブル星人)のような見た目からは想像できない、美味いキノコなのだ。
ちなみに、微量な毒成分のメチルヒドラジンはロケットの推進剤に使われる科学物質だ。
もちろん宇宙人がアミガサタケから燃料を抽出しているわけではないけれど。
せっかくの高級キノコ、アミガサタケを美味しく食べるには?
若鶏のソテー “ モリーユソース ” のレシピ
材料(4人分)
○ソース
*以下自然のものなので、大きさはまちまち。調味料などの量は目安として。
乾燥焼きしたアミガサタケ適量(一人分、普通の大きさのもので2~3本程度)
チキンブイヨン 150cc
生クリーム 100cc
グラス・ド・ビアン 25cc (ない場合はフォン・ド・ヴォーを煮詰めたものでも可)
○若鶏のソテー
ほうれん草 人束
鶏むね肉 4枚
バター 適量
塩、胡椒 少々
作り方
○モリーユソース
1 アミガサタケを食べやすい大きさに切り、被る程度の水にしばらく浸けて戻す。
2 戻し汁ごと火にかけて、ほとんど煮汁が無くなるまで煮詰める。
3 アミガサタケにチキンブイヨンを加えて煮る。
4 生クリーム、グラス・ド・ビアンを加え、塩、胡椒で味を整え、バターを少々加える。
○若鶏のソテー
1 鶏肉に塩、胡椒をしてしばらく置く。
2 少量のバターをフライパンに引き、皮目を下にして鶏肉を焼く。
3 ほうれん草を少量のバターで炒める。
4 皿にほうれん草を敷き、鶏むね肉のソテーを乗せ、ソースの中のアミガサタケを飾り付け、ソースをかけて完成。
アミガサタケ(注意が必要なキノコ)
学名:Morchella esculenta (L.) Pers.
【頭部】
卵型で頂部は丸く尖らない。網目(肋脈)は縦横に均等に発達し、柄に直生する。淡褐色~汚褐色~黄褐色。空洞で内部の表面は細かい粒状で白色。
【柄】
棒状または基部に向かってやや太い。中空で筒状。表面は類白色~黄白色で平滑かやや粉状。
【肉】
薄く弾力があり表面と同色。無味無臭。
【環境】
春、林内地上。特にサクラの樹下に多く発生する。
【食毒】
可食だが、有毒成分も含み生食は厳禁。十分に加熱処理すること。
アミガサタケに似た毒キノコ
●シャグマアミガサタケ(※猛毒※)
学名:Gyromitra esculenta (Pers.) Fr.
【大きさ】
高さ5cm~15cm。
【頭部】
類球形~不規則に歪み、著しいシワや大小の凹凸になり、全体として脳状の形になる。黄土褐色~暗赤褐色~黒赤褐色。中空。
【柄】
下方に太く、不規則で大まかなシワや窪みがある。中空だが潰れて内部で折り重なって癒着し、一見、中実に見えることもある。表面は平滑で淡黄色~肌色。
【肉】
薄く、弾力があり、表面色とほぼ同じ。
【環境】
春から初夏、ウラジロモミやマツなどの針葉樹林地上に発生。
【食毒】
致命的な猛毒で、発がん性もある。ヨーロッパでは長時間煮沸して揮発性の有毒成分、ジロミトリンとその加水分解物質のメチルヒドラジンを取り除き食用にするが、毒抜き中の湯気で中毒を起こして死亡した例もあるという。ちなみにメチルヒドラジンはロケットの燃料に使われる物質。
文・写真/柳澤まきよし
協力/恵比寿マッシュルーム 山岡昌治
参考/
「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)
「お気に入りのレシピ 山岡シェフのキノコ料理」(山岡昌治著 雄鶏社)
「Gakken 増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ」 (長沢英史監修 学研教育出版)
「北陸のきのこ図鑑」(池内良幸著 橋本確文堂)
「大学病院医療情報ネットワーク研究センター 中毒データベース検索システム」