英ロングトレイル「COAST TO COAST」壊れたテントポールの解決策を求め右往左往
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    2019.07.29

    英ロングトレイル「COAST TO COAST」壊れたテントポールの解決策を求め右往左往

    DAY 9【Reeth to Colburn Hall 総距離27km】

    朝、またまたポッキリと折れたテントポールを確認。ここまでで折れたテントポール数3本! キャンプした日数が5日であることを踏まえると、折れる確率は60%の計算になる。ここまで来るとショックはなくなるが、テントポールのスペアは黄色と赤それぞれ一本と接合部にはめるスリーブがひとつしかないことを考えると、もし、次に折れるポールが黄色の場合、なす術がないのだ。

    後半戦が始まったばかりでこれから週末で宿が取れない可能性がことを考えると、正直心は穏やかではなかった。

    ぽっきり折れたテントポール。

    それでも、たわわに実ったベリーを見つけると、そんな心配事もどこへやら。

    完全に熟れると触った瞬間に手に落ち、口の中に入れるとプチプチっとベリーからビタミンCやアントシアニンが弾け、肌もぴちぴちになる気がする。

    Marrick Prioryの元修道院。

    12世紀にベネディクト派の修道女たちがひっそりと暮らしていた小さな修道院。しかし、ヘンリー8世によって1540年に立ち退きを命じ、解散を余儀なくさせられたという。

    イギリス横断していると、いたるところにヘンリー8世が行った宗教改革がもたらした影響を直に目の当たりにできる。そんな修道院は紆余曲折があり、今はアウトドアセンターとしての機能を果たしている。

    “Put the best foot forward”とはイギリスに古くからある言い回しで、「全力を尽くしてね!」という意味。C2Cのウォーカー達に向けての、応援メッセージに勇気づけられる。

    ほのぼのとしたイギリスの典型的な雰囲気。

    まるでクローン羊のような二匹。

    Marskeの村に近づいた頃、またまたC2C仲間のキングとプリンスと犬たちにトレイルで合流。二人に、昨夜とうとう3本目のテントポールが折れてしまったことについて話すと、彼らは「後で、僕らの車で近所のアウトドアショップやホームセンターで何とか代用できるテントポールを探すのを手伝うよ!」と申し出てくれた。

    思いもよらぬ提案にビックリし、お互い連絡が取れるように電話番号とメッセンジャーでも話せるようにFacebookのアカウント情報を交換した。

    男気があり熱いプリンスとキング。

    Richmondの町の手前にて。

    それぞれの地図で場所を確認。

    ひとまず、これから通過するRichmondはC2Cの中でも最大規模の町ということで、念のため、アウトドアショップに立ち寄ることに。

    昔から市場町として栄えたRichmond。

    アウトドアショップ店員に事情を説明するアリー。

    倉庫に転がっていたテントポールを探してきてくれたが、適合しそうなテントポールやスリーブのスペアは見つからない。とりあえず最悪の場合、テープでグルグル撒きにできるよう、ダックテープを購入。ホームセンターも探してみたが、やはりない。

    カフェの前にはCoast to Coastウォーカーに向けたメッセージを看板に出すほど、ここは中継地として人気の場所と言える。

    赤、赤、赤!

    日程に余裕がある人は、ここRichmondに宿泊するパターンも多く聞かれたが、田舎の村や、自然の中で過ごしていると、小さな町といえどもどうもけたたましく思えて、落ち着かなかったので、お茶をし、少し休憩した後、今夜の目的地、Colburn Hallへとさっさと向かうことにした。

    Richmondの名所でもあるRichmond城を尻目にSwale川を渡り、森に入っていく。

    静かな森を歩いていると、 「危険! ここは軍事訓練エリア」と書いてある看板が。

    この側にあるCatterick駐屯地はイギリスでも最大のイギリス軍の訓練基地なのだった。しかしながら、この看板があったとて、どう気をつけたらいいのやらよくわからない。

    現在地が曖昧になり、少し不安に思っていたところ、前から迷彩服のイギリス軍の人たちが歩いてきたので一安心。「今どこか教えてくれる?」と尋ねると、「いや〜、実は僕らも道に迷っているんだ」との思いもよらない返事が返ってきた。

    「おいおい、大丈夫か?!」と思いつつも、ガックリ。しかし落ち着いてGPSで場所の確認をするやいなや、即座に迷子の不安は拭われた。

    迷える軍人さんたち。

    巨木を目にすると旅に葉を触り、木と交信しようとするアリー。

    ようやく本日のゴール、Colburn Hallに到着!

    今夜の宿泊地はパブ、The Hildyard Armsの裏庭。なんとこのパブ、創立したのは1823年! もちろん内装は改装され清潔感がありつつも、歴史を感じさせる雰囲気はしっかりと残っている。食事をすればキャンプ代はタダになるという嬉しい特典がある。

    手際よくエールを入れるデイブ。

    カウンターに座ると、昼間から飲んでいた半分酔っぱらった地元のお父さんが声をかけてきた。「君たちのように僕も若い頃、C2Cを歩こうと考えたことがあるよ。でも、いつも時間がない、お金がない、と言い訳を見つけては、実行に移すタイミングを逃してしまったよ。今となっては、もうこの膝が耐えられないから出来なくなってしまって、何であのときやらなかったのか、と後悔しているよ。やっぱり、何かやりたいと思った時には、やるべきだね!」と。

    今回、私たちがC2Cを歩けている境遇に感謝しつつも、身につまされる思いもした。他に言い訳を見つけてやらずに後回しにしていることがまだまだ沢山あるからだ。ウォーキングと一緒で、一歩足を踏み出すことの大切さを改めて思った。

    少ししんみりした雰囲気になったところ、お父さんが、「それはさておき、ここの店は後ろにある映画のポスターの撮影現場になったんだぜ!」と明るい声で教えてくれた。

    2014年に公開された、コメディー映画 『Downhill(下り坂)』のポスター。

    後ろを振り返ると、サインが入った映画のポスターが額装され飾ってある。昔から友達で中年の危機を迎えた男性4人組みがC2Cを歩くロードムービー。携帯で映画のレビューを早速見てみると、どうやら低予算で作られ、俳優たちは無名で星の数はすこぶる少なかったがそれでも、C2Cのトレイルがロケ地となっているので、いつかは見てみたい。一息ついたところで、今夜の寝床のパブの裏庭に向かい折れたテントポールを確認。

    ダックテープでグルグル巻にした折れたテントポール。

    応急処置を施したものの、やはり心もとない。しばらくするとキングとプリンスが車でパブの裏庭に到着するや否や、車で10分ほどの場所にあるアウトドアショップに連れていってくれるという。お言葉に甘えて、連れていってもらうが、あいにく、私たちのテントにそぐうポールは置いてない。

    ここのアウトドア店員もどうしたらいいか一緒に悩んでくれた。

    既製品には頼るすべがないと言うことで、代替案を探す作戦に変更。向かうは日本でいう100円ショップのイギリス版、Poundland! ここはすべての商品が1ポンドでありとあらゆるものが揃っている。

    何かないかなーっと頭をフル回転させながら道の中を歩くプリンス。

    ゴルフのパットパットの棒をカナノコで切って、テントポールの中に入れられないか、あるいは歯ブラシの先端部を切ってさ、テントポールの接合部に入れてみてはどうかなどなど、どんどんアイディアが浮かぶもどれもしっくりこない。

    歯ブラシを持って、説明するプリンスと真剣に耳を傾けるアリー。

    そんなプリンス、昔は戦艦を設計していたエンジニアで、何か解決案がないか、店内をくまなく周り、頭も周ってくれる。そして、ようやく自撮り棒、セルフィースティックを見つけるや否や、「これだ!」と閃きの声が上がった。

    筒状の棒を分解し、テントポールの接合部に合わせ、スリーブとして代用。それをダックテップでぐるぐる巻きにして固定すれば大丈夫だよ、とのことで、皆納得。(※つい興奮し、写真を撮り損ねてしまった)

    旅に出る前は全くの見ず知らずだったキングとプリンスたちはまるで旧友のように助けてくれた。アリーが代表して、二人に心から感謝の気持ちを伝えると、キングは言った。

    「気にするなよ! もし僕がこの境遇だったら、同じようにしてくれただろう?」

    するとアリーは「No!」とあっけらかんに返事。おいおい、と笑いながら、みんなでパブの温かい手作りの夜ご飯に舌鼓を打ちながら、夜は更けていった。

    長い一日を締めくくるマスタード乗せのサーモンとアスパラは絶品だった。

    そして、今回の経験を経ての気付きは、やはり持つべきものは沢山のテントポールのスペアより友である、ということであった。

    (実際歩いた距離 25.6km, 38,506歩)
    写真・文/YURIKO NAKAO

    プロフィール
    中尾由里子

    東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。
    学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。
    青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。
    休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。
    2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行なっている。
    2017年5月よりオランダに在住。

    好きな言葉「Sense of Wonder
    2016 Sienna International Photography Awards (SIPA)  Nature photo 部門 ファイナリスト
    2017  ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催

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