ビーパル本誌に2013年から連載している探検家・角幡唯介氏のエッセイ『エベレストには登らない』がこの度、単行本として発売される。唯一無二の探検家・カクハタの脳内は思った以上に複雑で、愉快で、そして恐ろしく前向きだった!
ネパールでのイエティ捜索隊に自ら参加した記録を書いた『雪男は向こうからやってきた』やチベットの伝説の峡谷、ツアンポーでの単独行をまとめた『空白の五マイル』、そして『極夜行』では1匹との犬との太陽の昇らない約4か月の真っ暗旅(ちなみに『極夜行前』という著書もアリ)。
角幡唯介の登場によって、冒険譚は賑々しくなった。自らの探検を文字に書き起こすだけでなく、『漂流』や『アグルーカの行方』では他者の生き様を追う。ここ10年くらいの間に立て続けに、まさに瀑布のように! 作品を発表し続けている。
その氏の最新本が『エベレストには登らない』。なんと挑戦的なタイトルなのだろう。だが冒険おける脱システムや漂泊登山など、新たな潮流を生みだしている一連の活動を見ると、なるほど言い得て妙である。
『エベレストに登らない』は、現在もビーパル本誌で連載が続いている人気エッセイ。件の冒険譚に留まらず角幡氏はエッセイも多く書いている。すでにエッセイ本は幾つか出ているが、エッセイを書き始めたのはビーパルでの連載が最初だったという。
世間を騒がせたニュース、何気ない日常のひとコマ、自らの恥部…硬軟織り交ぜ、さまざまな出来事に探検家はあれやこれやと思考を巡らし、深い考察を加えている。連載スタート当初は、自然やアウトドアに関連したことを意識して書いていたようだが、徐々に自由になっていったのか、話題は徐々に広がりをみせた。
すべてにおいて前向きなところが読んでいて清々しくて爽快だった(探検家だから後ろ向きだったら、たぶん死んでしまうか)。え〜、そんなことにこ〜んな紙幅を使って!という深まり過ぎる考察への驚きも、なくはない。なんのシガラミもなく伸び伸び、なににもおもねらず、書きたいことを書いている。ああ、探検家って自由!
そして、その実直な人柄がよく表れているのか、読むと不思議と元気が湧いてくる。ほほう、そういう考え方もあるか、と固定概念を打ち破られ、新しい道筋がパッと拓ける感じだ。
ひとつの話題が数ページなのでちょっとした合間で一編が読み切れるボリューム。すでに角幡ファンの方は必読、探検家が気になるけど、分厚い本が苦手という人にもサラッとどこからでも読める。
角幡氏もあとがきに書いているが、“厠”のお供にちょうどよいかもしれない。
※構成/須藤ナオミ 撮影/小倉雄一郎