締めつけない下着、バスタオルサイズの手ぬぐいーー日々をヒントに「発明」するウェルネス・ブランド『すます』
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    2020.02.20

    締めつけない下着、バスタオルサイズの手ぬぐいーー日々をヒントに「発明」するウェルネス・ブランド『すます』

    私が書きました!
    編集者・ライター
    ニイミユカ
    兵庫県出身、浅草在住。よく食べよく動く、編集者・ライター。衣食住など生活にまつわる地に足のついた企画をメインに、雑誌や書籍、WEBメディアなどで編集・執筆しています。instagram @yuknote

    無理なく続けられる範囲で、自分や周りの人たち、さらには地球環境にもいい塩梅の選択をしていくーー。そんな、“エシカル”な物事や暮らし方をご紹介している連載『今日からできるエシカル生活』。今回は、毎日の「こうあったら、もっといいのに」をかたちにするウェルネス・ブランド『すます』を尋ねました。

    第7回:凛々しく美しく、自立する。すこやかに導くものづくり。

    発熱、頭痛、肩こり、便秘、寝不足、ストレス。いつだってすこやかにありたいけれど、わたしたちは、心身の揺らぎと隣り合わせ。そんな揺らぎを一つでもなくしたいと、生活に気をつけたり、「よい」と言われるものを使ったりします。

    もちろん記者も、その一人。できれば躓かず、笑顔のまま毎日を終えたいと願っています。でも、実際は難しいことも多くて……。

    そんなある日、SNSで目に留まったのが『すます』の『身体も拭ける大手ぬぐい』でした。出産したばかりの知人が「家事のストレスを少しでも軽くしたくて、バスタオルを乾きやすくてかさばらず、嫌なにおいも出にくい手ぬぐいにしてみた」というコメントとともに、写真をアップしていたのです。

    約75cm×165cm。バスタオルサイズの『身体も拭ける大手ぬぐい』白4730円、墨・紺6160円(ともに税込)。 写真提供=すます

    バスタオルに感じていた違和感を払拭。「乾きやすい・コンパクト・においにくい」と、心地よくかたちになったものを見て、目からうろこ。毎日使う中で小さく重ねてきた我慢が、ほろっと手放された瞬間でした。なにより、シンプルで、美しい。

    使うことが喜びになるものは、長く付き合えます。そんなものづくりをする人に、会ってみたい! 願いが叶い、訪れたのは『すます』のショールーム。東京・築地駅から歩いて数分の、閑静な街にあります。

    『すます』のショールーム。静かな道路に面したガラスから、たっぷり陽光が差しこみます。

    迎えてくださったのは、ブランド・ディレクターである橘田ミオさんと、姉のユイさんです。現在、姉妹で手がける『すます』をミオさんが始めたのには、その生い立ちも関係していました。

    ーー『すます』のメリノウール製の下着を身につけて、驚きました。触れ心地がよくて、締めつけもほぼなし。ストーンと落ちちゃうんじゃないかっていうぐらい。

    「ゆるゆるでしょう? 下着は『締めつけない』をコンセプトにしてるんです。そもそも、わたしはアレルギーやアトピーをもっていて、ほんのちょっとしたゴムもつらくって。とくに下着は、幼いころから難民。心地よくて、かつ女性らしくシックな下着が、ずーっとほしかったんです(ミオ)」

    「素材はもちろん、ワイヤーや、小さなタグ、さりげないレースでもかゆくなっちゃってね。わたしもそんなに肌は強くなかったから、『すます』の下着を身につけたら、後戻りできなくなっちゃった(笑)(ユイ)」

    ワイヤーもゴムも金具も使わない、三角ブラ型の『紐で調節するブラ』1万8700円と、『紐で結ぶショートパンツ』2万900円(ともに税込)。身につけていても締めつけを感じず、素肌を風が吹き抜けていきます。 写真提供=すます

    ーーおふたりとも敏感肌なんですね。そこからどう、ものづくりにつながったのでしょう。

    「さかのぼると、わたしは物心ついたころから“自分には大丈夫なものと、そうでないもの”がある、と感じながら育ったんです。だから、新しいものをどんどん試すというよりは、一個一個、自分は大丈夫かって確認する癖がついちゃって。健康に関するものを調べたり試したりするのが趣味のようになっていったんです。

    大学を出た後は出版社で働きはじめて、3つの女性誌を担当しました。その中の一つで、健康系の企画や特集を立ちあげて。ちょうど世の中的にも、ヘルスケアやウェルネスに関心が高くなっていたころ。当時は、まずは自分自身で、健康によさそうなものを本当にいろいろ試しました。

    そうするうち、体にいいと言われるものでも、あまりものに頼りすぎるのもよくないのかな。余計なものが一切入っていないとか、シンプルだとか、そういうもののほうが確かだな、と思うようになっていったんです(ミオ)」

    ーーなるほど。ものに依存してしまっては、本末転倒ですよね。心身そのものがすこやかにならないと。

    「はい。本当の意味でのすこやかは、自立できる凛々しさあってこそだと思うので。ものは、そのきっかけに過ぎない。

    そういうことを考えるうち、仕事は楽しかったけど、普段使っているもので『ちょっと足りない』だとか『こうだったらいいのに』と思うものをつくってみたくなりました。それで2017年の1月、36才で会社を辞めたんです。(ミオ)」

    ニュージーランド産の17.5ミクロンのメリノウールで仕立てた、「ゆるゆる」のショーツやタンクトップなど。

    ミオさんは、退職を前に、ずっと行ってみたかったニュージーランドへ渡ります。1週間の短い旅で目の当たりにしたのは、ありのままに生活しながら、身の丈にあった成長をしている人々とお国柄。すっかりそのファンになったミオさんは、ニュージーランドにまつわる仕事がしたいと、帰国後にリサーチ。普段から登山などで愛用しているメリノウール製品が、多数手がけられていることを知ります。

    「メリノウールは、ムレにくく、抗菌性も高いからにおいにくい。とってもいい素材なのに、アウトドア以外のジャンルでほとんど使われていないのはもったいないと感じたんです。そして、この素材でわたしが思い描く下着をつくりたいと思いました。これが『すます』のものづくりの始まりです(ミオ)」

    毎日使うものへの違和感を、一つずつ解決していく

    全てのアイテムが整然と並ぶ『すます』のショールーム。

    ーー仕事柄、たくさんのものをご覧になってきているはず。それゆえの、難しさもありませんでしたか?

    「そもそも、『本当につくるべきなのか』というのは最初にすごく考えます。すでによいものがあれば、それを使いたいと思いますし。でも、だからこそ、つくる以上はどの製品も、世の中にないものをと考え始めるから、やっぱり時間はかかりますね。ものづくりというより、発明のような(ミオ)」

    ーー発明のラインナップは、紐で結ぶメリノウールの下着や肌着、細くて軽やかな仕草も美しくなるお箸、ラミー素材の締めつけないフットカバー、頭に巻ける長手ぬぐい、そして、身体も拭ける大手ぬぐい。こう、一見するとジャンルレスですが、共通点はありますか?

    「毎日使う、が共通点でしょうか。使うことが当たり前だからこそ、違和感があっても『こんなものか』と見逃したり、ストレスがあること自体が普通になっちゃったり。でも、毎日だからこそ、小さくても積み重なればダメージは大きくなっていくと思うんです。

    最初につくった下着でいえば、子どものころから『締めつけが嫌だな』と感じていたけれど、毎日身につけて当たり前のものでした。下着といえば、かゆいもの。下着でかゆくなるのは、仕方がない。そういう潜在的なストレスを手放せて、かつ気に入るものが、世の中になかったんです(ミオ)」

    無漂白のさらしを後染めしている『手ぬぐい』シリーズ。

    「『大手ぬぐい』の発明は、バスタオルへのモヤモヤがきっかけだったよね(ユイ)」

    「そう。お風呂できれいにした身体を拭くバスタオルが、水分を含むと雑菌が繁殖してくさくなるし、そのにおいを取りたいがゆえに水や洗剤をたくさん使って洗う。さらには、乾きづらいし、干すスペースも保管場所もとる。でも、お風呂に入ると必ず使うから、そのストレスは毎日のことで。

    そもそも父と姉が手ぬぐい好きで、よさは知っていました。手ぬぐいって、保水時間が短いから乾きやすくて、においの元となる雑菌も繁殖しづらいんですって。それなら、大判の手ぬぐいがあればいいじゃん! なんて、最初は気軽に考えていたけれど……。世の中にないには、理由がある(笑)。

    手ぬぐいの生地である“さらし”って、織れる幅が決まっているんです。だから、『すます』の『身体も拭ける大手ぬぐい』は、生地をオーダーメイド。ロールで届いた布を自分たちでカットして、両端のフリンジも手作業で整えて。シンプルなのに、めちゃくちゃ手間がかかっています(ミオ)」

    目打ちを使い、整える。「最初は1枚に40分くらいかかっていたけれど、今は15分くらいでできるようになりました(ユイ)」。姉妹でおしゃべりしながら作業することも。 写真提供=すます

    ーー身のまわりを見つめ直すことがものづくりに繋がっているんですね。違和感を、一つひとつ解決していく。

    「そうですね。そうそう、じつは長野県の原村に土地を買って、いま家を建てているんです。この春から、両親と姉家族が住む予定で(ミオ)」

    ーーそれも『すます』の一環ですか?

    「はい。小屋のまわりの自然をどうしようかなと思った時に、『庭づくり』ではなく、その土地にもともと自生する草花や木々だけを育てて、丁寧に手入れをしながら、自由に生やしていったら、どんな風景になるにか興味があって。その土地にある草花や木々が、ほどよい状態の姿がつくれないかなと。

    原村って、もとは原っぱだったから原村っていうんですって。そこに植林されて、風景が変わっていったそうです。だから最初は、土地に残った木の根っこを取り除くところから始めました。いずれ、草花が育って、それぞれがすこやかに、自立して共生できるように整えていけたら。

    何気ない草花のある風景だけど、ああ、いいなあと、じんわり感じるんです。こういう自然のあり方が、価値観としてもう一度根づいていけば、たとえば休耕地や荒地がいきいきと生まれ変わったり、シーズンごとに花の苗を買わなくても身の周りに心地よい景色がつくれたりするんじゃないかなって(ミオ)」

    製品と一緒に届く『すます』のパンフレット。『身体も拭ける大手ぬぐい』を水にさらした姿を撮影。

    ーーもはやものづくりの垣根を超えて、ブランドというより、人生そのものがプロジェクトのような。

    「そうかもしれない(笑)。わたしは普段、『すます』のほかに、フリーランスで編集の仕事もしているんですけど、二足のわらじだから『すます』では純粋に発明できていると思うんです。これが最初から『すます』だけでいこう! となっていたら、視点が揺らいでいたかもしれない(ミオ)」

    「発明じゃなくビジネスになって、売ることが先立つかもしれない。ブランドとして自立したいから、売れることはうれしいけど、こだわりは大切にしたいね(ユイ)」

    「本当にゆっくりとしか進められないのだけど、今は一つずつ、日々の中で『すます』なりの気づきを形にしていければ(ミオ)」

    店舗ではなくショールームという形をとったのは、来てくれる一人ひとりとリラックスして向き合いたかったから。

     * * *

    『すます』の自己紹介文には、「人の身体と精神が本来持っている、凛々しさを引き出し、自立した意識のもとで、美しく生きたいと願う人のために」とあります。また、お話を伺う中で、ミオさんは「自立」という言葉を、何度か口にしました。

    「自立」は、本当の意味ですこやかに生きていくうえで、欠かせない意識なのかもしれません。全てとっぱらった人間に、最後に残るのは自分自身です。だからこそ、心身ともに自立することが必要で、でも、自立するためにはすこやかにならなければ難しい。

    研ぎ澄まされた、製品やプロジェクトを通してーー。ウェルネス・ブランド『すます』が目指す姿は、想像以上に壮大なものでした。


    <『すます』ショールーム概要>

    住所:東京都中央区築地7-15-13
    事前予約制です。予約の詳細は下記よりご覧ください。
    https://suma-su.net/about/#tokoro
    メール:info@suma-su.net
    URL:https://suma-su.net/

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