和田義弥
古い道具が好きだ。ヴィンテージとか、骨董品とか、マニアが飛びつくようなものじゃなく、単純に使い古されて手垢のついたような木や鉄でできた道具が好きなのだ。なぜなら経年による味わいがあるし、古い道具というのはつまり、それだけ長持ちするからだ。付け加えれば新品を買うより、ずっと安いというのもある。で、先日も近所で毎月開かれる蚤の市で、古い和斧を手に入れた。
洋斧と和斧の違いとは?
近年、ブッシュクラフトが流行っていることもあり、アウトドアショップでも斧を取り扱うようになったが、そのほとんどは洋斧だ。薪ストーブ店にあるのもそう。ホームセンターにはわずかに和斧が置いてあるが、ものが限られる。その点、蚤の市なら古くてもいい和斧が手に入る。しかも、新品の洋斧の5分の1以下の値段で!
洋斧と和斧の大きな違いは斧身にある。一般的に洋斧(右)は刃先から中心部向かって厚くなっており重量がある。丸太に刃を食い込ませたら、その形状と重さで裂き広げるのだ。
一方、和斧は刃先から斧頭までまっすぐな傾斜面で丸太を切り裂く。洋斧に比べて斧身が軽く、柄が長いのも特徴である。
私は和斧と洋斧を丸太のサイズや樹種によって使い分けているが、好んで手に取るのは和斧だ。何せ軽いので連続した作業でも疲れにくく、斧身の形状や重さに頼るのではなく、技術で割るってところが楽しい。感覚的にいうと洋斧はドカッ、和斧はスパーン。そこんとこ気持ちいい。
斧身の刻み目が意味するもの
通常、和斧は刃先を右にして置いたとき表に4本、裏に3本の刻み目がある。4本線は太陽、土、水、空気のことでヨキ(四気)という。木が育つために必要な要素だ。3本線はミキ。神酒のことである。山の神に感謝し、安全を祈願するものだ。身(3)をよ(4)けるという意味もある。こういう日本人的な自然への敬いと縁起担ぎも、和斧に愛着を持てるところなのだ。
手に入れた和斧は刃先がひどく錆びていたが、砥石で軽く研ぐと輝きを取り戻した。カシの柄はしばらくそのまま使えたが、ある日首元に亀裂が入っているのに気づき新しい柄に交換した。ついでに刃のカバーと首元をガードするシャフトプロテクターをレザーで作ることにした。柄の首元は最も傷めやすい部分で、特に薪割りになれないうちはこの部分を丸太にぶつけて破損させてしまうことが多いのだ。洋斧の中には最初から金属のプロテクターがついているものもあるが、和斧にもあっていい。装飾的にもカッコいい。
材料
①牛革(2㎜厚)、②手縫い糸(ロウ引き)、③紐、④バネホック…1個、⑤カシメ…1個、⑥床面仕上げ材、⑦画用紙
道具
①クランプ、②木づち、③定規、④ヘリ落とし、⑤鉛筆、⑥裁ちバサミ、⑦カッター、⑧カシメ打ち棒、⑨バネホック打ち棒、⑩ハトメ抜き、⑪4本ひし目打ち、⑫目打ち、⑬打ち台、⑭ヘリ磨き、⑮縫い針、⑯布
作り方
Step1 型紙を作り、部材を切り出す
1 適当なサイズに画用紙を切り、斧の刃先に合わせて折り目をつけ、製作するカバーのだいたいの形をとる。
2 同様に柄の部分に画用紙を合わせてプロテクターの形をとる。
3 折り目を目安に斧カバーとプロテクターの展開図を画用紙に描き、ハサミで切り出す。上の型紙が斧カバー、下がプロテクター。寸法はすべて現物合わせ。
4 革に型紙を合わせて、目打ちで型を写し取る。
5 裁ちバサミで型通りに革を切り出す。斧カバーを固定するベルトも切り出した。
Step2 斧カバーを縫い合わせる
6 革の裏側の毛羽立ちを抑えるため床面仕上げ材を布につけて塗り、ヘリ磨きの平面でこすって滑らかに仕上げる。
7 革の裁ち口をヘリ落としで面取りする。(※写真はシャフトプロテクターの部材だが、作業は同じ)
8 裁ち口から5㎜のところに定規を当てて目打ちで手縫いする線を引く。
9 8で引いた線に沿って4本ひし目打ちを当て、木づちで叩いて縫い針を通す穴をあける。
10 革に水を含ませて、斧に合わせて折り目をつけ、クランプでしばらく固定する。乾燥すると斧の形に成型される。
11 革の手縫いでは糸の両端に針をつけ、1つの穴に2本の針を左右から交互に通しながら縫い進める。糸は縫い線の4倍程度の長さで用意し、最初の縫い穴に針を通したら両方の糸の長さを揃える。縫い穴に2つの針を通すたびに糸を左右に引っ張って締める。
12 縫い終わりは2~3目縫い返して、縫い穴のきわで糸を切る。
Step3 ベルトをつける
13 斧カバーのベルトをつける位置にハトメ抜きでカシメとバネホックをつける穴を開ける。
14 打ち台を置いてバネホックボタン打ち棒で斧カバーにバネホックボタン(凸)をつける。
15 同じようにカシメで斧カバーにベルトを取りつける。
16 ベルトにつけるバネホックボタン(凹)の位置を現物合わせで決める。
17 打ち台を置いてバネホックボタン打ち棒でベルトにバネホックボタン(凹)をつける。
18 縫い合わせたヘリに床面仕上げ材を塗り、ヘリ磨きの側面の溝で磨く。
Step4 シャフトプロテクターをつくる
19 斧カバーと同じように裏側の毛羽立ちを抑えて、へりを落とし、水で濡らして成型したら、革を合わせるための紐を通す穴をハトメ抜きで開ける。
20 柄にプロテクターを回し、背の部分を紐できつく結んだら完成。
この和斧は木と鉄と革でできている。軽いプラスチックやピカピカしたステンレスや機能的な化学繊維より、こういう経年変化する素材はいいな。ある意味、いつまでも経っても古くならない。このレザーカバーも、新品の今が一番ダサいときだ。味わいは使い始めてからちょっとずつ出てくる。