自作(DIY)入門用として最適なスタッフバッグ
前回(https://www.bepal.net/diy/81182)のポーチと並んでスタッフバッグも自作したいギアの一つではないだろうか? 中でも”巾着袋”タイプは、ファスナーを使用しない分ポーチよりも簡単で、裁縫に親しんでいない方にとって、自作への最適な入り口になると思う。
今回は、ミシンや手縫いは初めてに近い方向けに簡易なスタッフバッグの作り方を少し詳しく説明したい。自作を経験して要領をマスターしたら、細かな処理(縫い代の始末等)を自力でトライできると思う。
材料と道具
1.生地
ウルトラライト(UL)というからには生地の軽さが最重要となるが、その他にも強度、耐水性/撥水性/防水性、価格さらに入手のし易さも重要となる。これらの条件を満足させると生地(ファブリック)として、今回は15デニール の「シルポリ」(0.93 oz/yd2 <31.5 g/m2>)を使った。
ポリエステル生地にシリコン/ポリウレタンをしみ込ませかつコーティングした撥水性の生地で、Sil/PU (silicone/polyurethane)と表記される。なおシルポリでなくシルナイロンでも構わない。非常に滑り易いので、生地の取り扱いが通常の布地と比べて少し難しい。
購入先はさまざまな会社があるので、自身に合ったものを検索して探してみよう。検索キイワードは、日本での購入ならば「シルナイロン シルポリ リップストップ 生地 アウトドア」、海外であれば「silnylon silpoly ripstop fabric outdoor」で探してみて欲しい。某米国通販サイトで58インチ幅(147cm)のシルポリは、価格の変動があるが、$6~8/yd (¥720~960/m $1=¥110,送料別)程度で販売されている。
寸法設計
収納物を直方体とみなした場合
・バッグ長さ(天地)=長さ+(底部長辺+底部短辺)/2+ひも通し部(25mm)+縫代(10mm)+余裕(30 mm程度)
・バッグ底部=(底部長辺+底部短辺) ✕ 2+縫代(10mm+10mm)+余裕(20 mm程度)
注: 余裕は形状によって異なってくるので少し長めにして最終段階で調整するのが良い。
例: ティッシュ箱 (底部110 mm ✕55 mm, 長さ230 mm、1.4リットル)に必要な生地
・長さ(天地) = 230 +(110+55)/2 + 25 +10 +30 = 377.5 mm
・底部 = (110+55) ✕ 2 + (20) + 余裕(20) = 370 mm
【生地寸法決定】 378 ✕370 mm
2.紐とコードストッパー
紐はなんでも良いが、ここではULということで軽量・高強度で知られるダイニーマ繊維ロープ(2 mmΦ)を用いた。
必要な長さ = 袋口部周囲長さ (330 mm) + α (220 mm) = 550 mm
注:最初は長めにしておき、最後にカットして調整すると良い。
コードストッパー: 1個
3.道具
ミシン (針: #9、糸: フジックススパン#60)、裁縫道具、ロータリーカッター、カッターマット。
詳細は前回の記事(https://www.bepal.net/diy/81182)を参考にしてください。
作り方
市販品の多くは生地端のホツレを防ぐ「縫代の始末」(布同士を縫い合わせた縫代部、端の始末のこと)がされている。しかしシルポリ、シルナイロンはSil/PU処理されている為、生地端がほつれにくく、既製品でも縫い合わせのままのシンプルな作りが多い。今回は縫い合わせのままで、縫代の始末はしない簡易版で説明する。
ポイントは4点ある。
1. 縫い合わせ
通常素材ならば説明不要の箇所だが、今回の素材は滑りやすいので、注意点と失敗例を示す。
2. あきとあき口
ここも(1)同様な注意点とあき口は力がかかる箇所なので補強しておく必要がある。
3. 紐通し部
手順的には3番目だが、折り目を付けておくと後が楽になるので最初にしっかり折り目を付けておくと良い。
4. マチ
マチはなくても構わず、ペタンとした平たい袋でも構わない。ステップアップで作ってみよう。
1.生地の印付けと裁断
印付けは鉛筆タイプの白いチャコペンを使用した。マジックは生地がインクをはじいてマークしにくい。
またシルポリは非常に滑りやすく、ハサミでカットは厳しい。生地が動かないよう数カ所重しをした上で製図、ロータリーカッターでのカットが望ましい。
2.紐通し部の折り目をつける
生地裏を表にして、上端から10 mm位置で2つ折りし、さらに15 mm位置で3つ折りし、アイロンで折り目をつけておく。なおアイロン温度は低〜中程度で、端切れで試して温度決定する。
3.筒部の縫い合わせ
生地を長手方向(天地方向)で中表(表面になる部分を向かい合わせにして)の二つ折し、縫代両端の端を合わせて縫代10 mmでミシン掛けする。通常の布であれば、全く問題ない簡単なミシン掛け作業だが、今回のシルポリ生地は滑りやすく、裁縫用仮止めクリップで止めても、ちょっとした力で動いてしまう。
慣れないうちは次の写真のように、手間がかかってもシツケをして、生地のズレを押さえてからミシン掛けすることをオススメする。もし縫い目が狂った場合、リッパーなどを使って縫い目を切りほどいて、ミシン針跡を擦って目立たなくした後、縫い直すと良い。
4.バッグ底部の縫い合わせ
底部も筒部と同様に縫代10 mmでミシン掛けする。既に長手方向でミシン掛けして上下のズレはしにくくなっているので、クリップで止めてミシンで縫うでも良いかもしれないが、念のためシツケてからミシン掛けした方が確実だ。
5.あき部縫代部とあき止まりの処理
あき止まり(今回は完成上端から45 mm位置)にミシン縫い目ギリギリまでハサミを入れる。
あき止まり近くの縫い合わせた縫い代と、事前に折り目をつけた紐とおし部の両端を開いて、あき部を二つ折し、折り目をアイロンで付けた後、写真のようにシツケをする。ここも手間だが、シツケをすることで後のミシン掛けが簡単になる。
ミシンの補助テーブルを外して…
筒状の生地をミシンテーブルに通してかぶせるようにして、折込んだ端から1-2 mm部をミシン掛け(ステッチ)し、あき部をU字形にミシンを掛けるる。その際あき止まり部を数回返し縫いして補強する。
ステッチとは?
「おさえミシン」ともいい、そもそもは「縫い目」のこと。表に見えてもよい飾り用の縫い目のことを「ステッチ」と呼ぶ。また本縫いとは別に、もう一本縫うことで強度をアップさせたいときや縫代を安定させるためにも使う。
6.三つ折りした紐通し部のミシン掛け(ステッチ)
ステッチは表からかけることにする(裏側の方が端がわかり易いので、裏側からしても構わない)。袋を裏返して、出来上がりの状態にした上で、ミシン腕部を覆いかぶせるようにする。
生地が薄いので、 表から裏側の三つ折り端が透けて見える。端から数mmのところをステッチする。ミシン掛け始めと終わりは3~4目程返し縫い(前後に数回縫う)する。
7.紐通しに紐を通す
出来た紐通しに紐を通し、適当な長さでカット後、コードストッパーを取り付け、紐端末を結んで、完成。カットした紐端末をライターなどであぶっておくことを忘れないように。
8.裏返しにして、完成!
さて、肝心の重量は7.2 g。また別に作成した150×150×270mm (3リットル)が8.3 g。M社の3リットルULスタッフバッグが9.4 gなので、自作品もULと言っても良いだろう。
<ステップアップ編> 三角部をミシンで縫って、カットしてマチを作ろう
マチをつけないスタッフバッグは色々な形状に対応できて便利ではあるものの、収納物の形が決まっている場合やはり綺麗に見せたい。そんな時には、三角マチなら後で”現合わせ”しながらマチを作ることができる。
ティッシュ箱を入れてみると、短辺側に写真のような三角形が自然に形成される。
完成品を再度裏返して、次の写真の白線部をミシン掛けした後、余分な三角をカット。あるいは折りたたむ。ここも念のためシツケをしている。
次の写真がマチを付けた底部。さあ、どうだろう。
入れる物の形状とぴったり合ったマチがあるとやはり見栄えが良い。後で現物を入れ生じた三角マチを確認しながらミシンを入れる方法はとても簡単なので、是非マチを作って欲しい。四角底のスタッフバッグを作れるようになると、今度は丸底にもトライしたくなると思う。そうなれば自作も楽しくなるはずだ。
失敗例
筆者は実はいろいろ失敗している。失敗例を紹介するのは恥ずかしいのだが、読者が同様な失敗をしないためにも敢えて失敗例を紹介する。
1.縫い終わり後半に生地が滑って、生地がずれてしまった
文中何度も触れているが、シルポリあるいはシルナイロンはシリコンコーティングされている為とても滑りやすく、ちょっとした力で合わせていた布の上下が簡単にズレてしまう。ミシン掛けの時、下の布地を噛んだり、上の生地がズレて縫い目が狂うといったトラブルが起きやすい。その時は縫い目を切ってほどいて、縫い直すしかない。自分使いの物であれば、ミシン跡を気にせず、何度も縫い直しても良い訳で、そんな失敗例の積み重ねから腕が上がってゆく。
しかし、縫い直しが出来ると言っても、前回紹介したFibermax64のような生地は針跡がくっきり残ってしまい為、防滴・防水仕様のものは縫い直しは避けたい。
慣れないうちは、まち針または写真のように、縫い目より縫代側に「シツケ」をした上でミシン掛けするのが良い。
2.天地の長さを間違えていた
紐通しが終わり、マチを作る為に箱を入れて見た時点で「あれ? 長い!」。ここではじめて設計時の勘違いでスタッフバッグの高さ(天地)が長過ぎた事に気がついた。
そんな場合は底部を縫い直すことで長さ調整する。あるいは紐を締めた時に上部にまだ余裕があるような時、底部の縫い直しで短くする修正が可能だ。
同様なことは、周方向でも可能だが、どちらも寸法を小さくする事しか対応できない。また三角マチを付ける前に修正しなければいけない。
3.丸底のマチは難しい
この素材は非常に滑りやすく、上下の生地がズレやすい。市販のスタッフバッグと同様丸底で作ろうとすると、通常の生地でもそれなりの技術を要するのだが、この生地ではさらに難易度が上がる。昨年、そんなことを知らないでいきなり最初から丸底に挑戦した結果は……、惨憺たる結果だった。自分で作ったポンチョ用の、丸底スタッフバックの失敗例を示す。今思えば小さなスタッフバッグの丸底は難易度がさらに高くなるので、三角マチで十分だった。
最後に
スタッフバッグ1枚のみ必要ならば、既製品を購入するのが最も経済的だ。しかし1ヤード(約0.91m) ×58インチ幅(147cm)の生地(約1,000円弱)からは、今回のサイズであれば、6~8枚とれる。海外から取り寄せると送料約2,000〜3,000円と高いが、色々作るのであれば自作でも十分元はとれる、と思う。またこの生地を、次回制作予定のオーガナイザー(小物整理に便利な収納ケース)でも使う予定なので、 いろいろと楽しめる。
山小屋で夜明け前のパッキング時に、ポリエチレン袋を持参したがためにガサガサ音がたってしまい、肩身の狭い思いを経験した方もいるかもしれない。シルポリやシルナイロン製ULスタッフバッグは音が静かで、周囲の人へ迷惑をかけない。ULスタッフバッグは、マナーの観点からもオススメしたい。
是非様々なサイズのスタッフバッグを作って楽しんで欲しい。