こんな時こそ地図の世界を探検しよう
国土地理院が発行する「地形図」は登山をはじめアウトドアでの活動に欠かすことのできない存在だ。この地形図をデジタル化し無償でウェブサイトに公開しているのが「地理院地図」である。店舗名や施設名の記載もナビゲーションの機能もなく、読み解くには等高線や地図記号といった独特のルールを理解する必要があるなど、 Googleマップなどの地図サービスに比べると街なかでは使いにくい印象があるかもしれない。でも地理院地図にはこれらの便利な地図や地形図にはないさまざまな情報と機能が盛り込まれている。「地理院地図」を見ながら自宅でのんびり時間と空間を超えた旅に出てみよう。
地理院地図
https://maps.gsi.go.jp/
※「地理院地図」画面の出典は国土地理院ウェブサイトより
地理院地図の初期画面で左上にある「地図」アイコンをタップし、メニューを開いた状態。メニューは閉じることもできるので、画面の小さなスマートフォンでは必要な時にだけ表示すると使いやすい。また画面右上の「ツール」メニュー(スマートフォンの場合はメニューアイコン内)から「並べて比較」を選択すると、画面を分割して表示することができる。
左右で年代の異なる写真を表示すれば、時間の経過による地形や街並みの変化をより詳しく比較できる。また写真と地形図を表示すれば実際の地形がどのように地形図上に表されるのかを理解しやすい。拡大・縮小や位置を移動しても左右の地図の表示が連動する機能もある。1点目の図版で使用した断面図もツールメニューから利用できる。
昔の風景を空から眺める
まず最初に試してみたいのが「年代別の写真」メニューだ。航空機や衛星から撮影された写真が8つの年代1936年~現在)に分類、公開されている。地域によっては該当する写真がない年代があるものの、自分が小学生だった頃の学校周辺の風景や廃線前の鉄道路線など、今では見ることのできない風景を空から眺めることができる。家族と一緒に当時の思い出を語りあったり、ビデオ会議システムを使った友人たちとの「宅飲み」の際に画面を共有すると盛り上がりそうだ。
いざという時に役に立つ防災情報も
地理院地図にはさまざまな防災情報も掲載されている。各地に残る災害伝承の碑の位置と解説、近年の災害(地震、台風・水害、火山)の状況などを参考に、自分の住む街が過去どのような災害に見舞われてきたかを知っておこう。避難場所の位置と豪雨による浸水エリアといった複数の情報を重ねて表示することもできるので、災害時の避難経路シミュレーションなどに役立てたい。
過去の災害の記録としてぜひ見ておきたいのが年代別写真メニューにある「東日本大震災後正射画像」だ。2011年3月の震災直後から2年9ヶ月後の2013年12月まで4回にわたって撮影された三陸沿岸の写真である。最新の写真や今昔マップの「東北地方太平洋岸」にある2011年以前の地形図と比べると、津波に襲われる前の街の様子や当時の被害の大きさ、その後の復興の足跡が見えてくる。
苦手な等高線も3D表示で一目瞭然
登山道や自転車での峠越えの際に気になるのがルートの勾配だ。「等高線の間隔が狭い=勾配が急」というルールは頭では分かっていても、地図から実際の地形を理解するには経験が必要だ。しかし地理院地図には3D表示という便利なツールがある。
※一部の環境では表示できない場合あり
ウインドウに立体化したいエリアを表示し、ツールメニューから「3D」を選択するだけ。表示されたモデルをグルグル回して東西南北自由な方向から眺められるだけでなく、上空から見下ろすことも地中(?)から見上げることも、拡大・縮小もできる。山の尾根筋や谷と等高線の関係も、火山の噴火でできたカルデラ湖などの特徴的な地形も、3D表示なら一目瞭然である。立体感が乏しい場合は、高さ方向を強調すれば地形の特徴を把握しやすくなる。山だけでなく扇状地や河岸段丘、断層や入り組んだリアス式海岸なども”立体映え”する地形である。
表示しているデータのダウンロードも可能なので(無償)、3Dプリンター出力サービスに持ち込めばお気に入りの地形のミニチュアモデルを製作することもできる。
年代別の地形図を集めた「今昔マップ」
地理院地図にはさまざまな情報が用意されているが、残念ながら過去に発行された地形図は図郭(区画)ごとに1枚ずつしか表示できない。そこで活用したいのが「今昔マップ on the web」だ。埼玉大学教育学部人文地理学研究室(谷謙二教授)が公開しているもので、同じ年代・同じエリアの地形図がシームレスにつなぎ合わされた状態で表示される。明治時代以降の地形図(全国41地域、4,028枚)を収録しているので、地理院地図の写真(昭和10年代以降)より古い国土の姿を知ることもできる。
明治から令和へ。街の変化を比較する
地理院地図の写真で自分が住む街の昔の風景を空から眺めるのも面白いが、今昔マップなら地名や道路の変遷、地図記号から土地の使われ方や植生の変化などを知ることができる。廃線となった鉄道や廃道となった国道、廃止された炭鉱や学校など、昔の地形図にはかつてそこに暮らしていた人々の様子も記録されているのだ。
地理院地図と2画面表示で真価を発揮
今昔マップは該当エリアを開くと画面が分割表示されるので、左右で異なる時代の地形図を表示してもいいし、片側に地理院地図の写真を表示してもいい。もしPCなど表示領域の大きなディスプレイを使えるのであれば、ブラウザのウインドウを2つ開き片方のウインドウに地理院地図の写真、もう片方に今昔マップを表示してみよう。比較できる情報が増え”タイムトラベル”が楽しくなる。
今昔(こんじゃく)マップ
http://ktgis.net/kjmapw/
地図のことをもっと知りたくなったら
地理院地図と今昔マップにはまだまだ紹介しきれない情報がたくさん掲載されている。メニューやツールのアイコンの先にある奥深い世界を探検してみよう。またTwitterの「国土地理院応用地理部」アカウントでは「在宅教育支援」や「地形がよくわかる」などためになる情報を発信しているので、ぜひフォローして地図の楽しさにハマってほしい。