スーパーマーケットや青果店に梅の実が並ぶ季節がやってきた。例年6月の上旬には青梅が、6月中旬~下旬には黄色く熟したものが店頭に並び、7月上旬には姿を消してしまう。梅干しや梅酒作りはちょっと敷居が高いかも…という方に、気軽に「梅しごと」の楽しさを味わえる”梅ピューレ”の作り方を紹介しよう。
実はこのレシピ、知り合いの畑に植えられていた梅の収穫を手伝った折に、隣の畑に顔を出した地元のおばちゃんから聞いたもの。「ペーストとかピューレ(※)なんていうと洒落た感じがするけど、ゆでこぼして裏ごしして軽く煮詰めるだけだから」と勧められた。浸透圧を利用する製法上、砂糖の使用量が多くなりがちな梅ジュース(シロップ)よりも応用範囲が広く、果肉をまるごと使った爽やかで味わい深い食材である。
※”ピューレ”は果物や野菜をすり潰して裏ごしした半液体状のもの。ピューレをさらに煮詰めたものが”ペースト”。
【用意するもの】
・梅
・砂糖:上白糖やグラニュー糖を梅の重さの1/4程度。梅1kgなら砂糖は250gほど
・追熟(ついじゅく)用のザル:竹製が望ましいが、皿や新聞紙でもOK
・ヘタ取り用の楊枝、または竹串
・ペーパータオル、ふきんなど
・あらごし用のザル:ステンレス製の目が細かいもの、ハンドミキサーなどでも代用可
・木べら(なければシリコン製のものなど)
・ボウル(ガラス製かステンレス製のもの)
・保存容器
1. 梅の準備
「簡単あらごし梅ピューレ」に使う梅は、梅干しや梅酒に使う“優“や“秀“ランクの梅を選別した後に残る等級なしの“クズ梅“でも大丈夫。多少の傷みは問題なし。スーパーで売れ残って半額になった梅でも美味しくできる。
ただし“カリカリ梅干し“用の小梅や果肉が薄い未成熟の青梅は黄色く熟しにくいため、避けた方がよい。肉厚で実の大きい南高梅などの種類が適しているものの、1kgで1,000円前後と価格も高め。もし売れ残って値引きされたものが見つかればぜひ購入しておきたい。店頭で追熟が進んでいることも多く、購入してすぐ使えるというメリットもある。
2.追熟
用意した梅の実をザルなどに載せ、風通しの良い室内で数日放置する。
直射日光は避けること。箱で購入した場合は蓋を開けておく。傷があるものは腐りやすいので、別のザルなどに梅の実同士を離して並べておく。実の状態にもよるが、表面が乾いてシワが寄るような場合は新聞紙で覆うといい。
青梅の場合は3~4日、実の全体から緑色が消えて黄色からオレンジ色に変われば追熟は完了だ。熟すにつれて芳しい梅の香りが部屋中に広がるようになる。
※生の青梅の果肉や種にはアミグダリンという中毒成分が含まれる。ただし追熟とその後の加工により分解されるので、この工程はしっかりと行ないたい。購入した梅が完熟している場合は、追熟の工程を省き傷のあるものをチェックしたあとで「洗浄、アク抜き」から始めるといい。
傷のある梅は冷凍する
運よく値引き販売の南高梅を購入できたとしても、傷があったりぶつかって変色している梅が混じっていることもある。傷や変色部分は腐りやすいので、適度に熟したら取り分けて軽く洗っておこう。よく水気を切ったあとでジッパー付き保存パックなどに詰め、ひと晩ほど冷凍しておくといい。あらごしの工程の半日前に冷凍庫から冷蔵庫に袋を移し、解凍しておく。
3.洗浄、アク抜き
水を張ったボウルなどに梅を入れ、軽く洗う。流水に当てたり強くかき混ぜたりするとヘタが取れてしまうことがあるので注意したい。一度水を捨て再度多めの水を張ってアク抜きをする。梅が完熟していればアクが少なくなっているので水につける時間は10分程度でOK。
4.ヘタとり
2つ折りにしたペーパータオルで軽く包むようにして水を拭きながら、楊枝や竹串でヘタを取る。楊枝の先の部分でヘタの周囲をなぞるようにすると実から離れやすい。追熟した梅は実が柔らかくなっているので優しく扱うこと。水を含んだペーパータオルはよく絞れば再使用できる。
5.ゆでこぼす
大鍋に水を入れよく沸騰させる。一度に大量の梅を入れるとお湯の温度が下がってしまうので、水の量は梅の重さの3倍以上を目安にしよう(※)。梅を入れ再度沸騰したら(鍋の底から気泡がプクプク上がる状態)、激しく沸騰しないよう火力を調節する。梅の7~8割が浮き上がってきたら火を止め、ザルにあげる。
※家庭用の鍋の場合、20cmサイズで約3L、24cmサイズで4~6Lの容量があるものが一般的。20cmサイズの場合は、1kgの梅を半分ずつ2回に分けてゆでこぼした方が失敗が少ない。この場合はその都度新しいお湯を沸かし、ひと鍋ごとに次の「あらごし」の工程まで済ませておく。
火力が強く鍋全体がグツグツ煮えたぎるような状態や、ゆで時間が長くなりすぎると梅の皮が破れてしまうので注意が必要だ。皮が破れると柔らかくなった果肉がお湯に溶け出してしまうため、破れる前にザルに上げるようにする。梅が完熟していれば、再度沸騰したあとに浮き上がったものからザルにあげてもいい。
※冷蔵庫で解凍した梅がある場合は、軽く湯どうししてから傷や変色のある部分を切り落とす。ヘタを取り、他のゆでこぼした梅と一緒にザルにのせる。
6.ザルであらごし
ザルに鍋の中身をあけ、軽く湯を切る。ボウルにザルを載せ、木べらで実をこす。ゴシゴシとザルの網に擦るというよりはへらで押さえて実の果汁をボウルに落とすようなイメージで。
一番搾り
力を入れて作業をすると皮までこしてしまうため、柔らかい実の部分を中心に丁寧に作業を進める。この段階の果汁がいわゆる「一番搾り」となり、鮮やかな黄色ととろりした舌触り、かすかな苦味(これがクセになる)が特徴となる。
二番絞り
ザルに残った種と皮はもったいないので再利用しよう。鍋にあけ水を加えてひと煮立ちする。水の量はザルに残った種と皮と同量を目安にする。残った種と皮から実が離れるよう、木べらでよく混ぜザルでこす。この「二番絞り」果汁は種や皮由来のほろ苦さが増すものの、砂糖の量を少し増やせば味に奥行きが出る。水を加えて薄まった果汁も、次の工程で煮詰める時間を増やして水分を飛ばせばいい。
7.砂糖を加え、ひと煮立ち
こした果汁を鍋にあけ、砂糖を混ぜる。この時、一番搾りと二番絞り果汁を別々に仕上げれば、双方の味の違いを楽しめる(砂糖の重さはそれぞれ果汁の2~3割で計算)。面倒であれば混ぜてしまっても問題はない。
中火でサッとひと煮立ちさせたら、保存容器に移す。砂糖の量や煮詰める時間はお好みで調節可。この段階で砂糖を少なめにしておいて、食べる際に各自の好みに応じて甘さを加えてもいい。
8.保存方法
冷蔵の場合は空いたペットボトル(炭酸水用の強度のあるもの)などに小分けしておくと使いやすい。冷凍の場合はジッパー付き保存パックに入れ、平らに重ねて冷凍庫に入れておく。こうすると板状に薄く固まるため、必要な量だけ折り取って使えるし、解凍もしやすくなる。ペットボトルもジップロックパックも高熱には弱いので、粗熱をとってから移し替えること。
消費期限は冷蔵で約1週間、冷凍の場合は1ヶ月程度。砂糖を少なめにした場合はお早めに。
工夫次第でいろいろ使える
完成した簡単あらごし梅ピューレ、さてどんな方法で味わおうか。ひとなめすると、まろやかなれどシッカリとした酸味とほのかな苦味、そして爽やかな梅の香りがたまらない。単純に冷水やよく冷えた炭酸水で割っても美味しいが、おすすめは牛乳割り。梅の酸が牛乳のタンパク質と反応しとろみがつく。子供のおやつには少し砂糖を加えると飲みやすいかもしれない。梅干しの代わりに焼酎のお湯割りにひと垂らしすれば、塩分が気になるお父さんには嬉しい一杯になるだろう。
その他、ヨーグルトやクリームチーズ、バニラアイスにかける、ゼリーを作る、冷奴にのせるなど、工夫次第でいろいろな使い方ができる。寒天と水飴で作る「のし梅」も魅力的だ。また生チョコ(夏は手に入りにくいのが難点)にひとさじのせると濃厚さと爽やかさが絶妙にマッチした一品となり、シングルモルトウイスキーとの相性はもう最高。
「梅しごと」は工程の数は多いけれど個々の作業はシンプルなのが特徴だ。梅干しや梅酒づくりも「ヘタ取り」以降にいくつかの工程が増えるだけなので、まずは梅ピューレ から始めてみよう。
梅というとカリカリ梅の「青」か梅干しの「赤」のイメージが強いけれど、一度「金茶色」のピューレの大人の味わいを体験すると、そのイメージは変わってしまうかもしれない。