丈夫で焚き火にかけられて、さまざまな調理法に使える上に、熱伝導も抜群。もはやアウトドア料理に欠かせない調理器具である、スキレット。小ぶりで取り回しがしやすいものもひとつ欲しいな、と思っていろいろ探しているなかで目に留まったのが、岩手県にある南部鉄器の工房「釜定」の「イグ鍋」でした。
直径16cmほどとコンパクトで、重さは900g足らず。手に心地よくなじむサイズ感はもちろん、心惹かれた最大の理由は何と言っても見た目のカッコ良さでした。底から縁にかけてのなめらかな曲線と、モダンなデザインの取っ手。真上から見ても横から見ても、造形の美しさを感じます。
それまで南部鉄器と聞くと浮かぶのは「古き良き鉄瓶」というイメージで、恥ずかしながらこうしたプロダクトがあることを知りませんでした。 俄然、南部鉄器と「釜定」に興味が湧き、これは詳しい人に話を聞かねば……ということで、麻布十番にある「designshop」のショールームへ。こちらは「長く使える良いもの」を20年以上にわたって発信するオンライン中心のインテリアショップで、オーナーの森博さんが岩手県盛岡市の出身ということもあり、オープン当初から釜定の商品を取り扱っています。
「イグ鍋は、浅型のフライパン『シャロウパン』などと並んで、釜定でも人気の商品。小ぶりでフォルムも美しく、そのままテーブルに出しても映えるところも特徴です」(森さん)。
ソーセージや卵、肉がおいしく焼けるのはもちろんのこと、高い熱伝導率のおかげでパンケーキがふっくらと焼けると愛用する人も多いとか。持ち手が短くオーブンにも入れられるので、グラタンやキッシュ作りにもぴったり。キャンプで使うのはもちろん、日常的にも活躍してくれること間違いなしです。
伝統技法とモダンデザインの融合で南部鉄器を支える「釜定」
南部鉄器のふるさとは、岩手県の盛岡市と奥州市周辺。良質な砂鉄資源を背景に、江戸時代から鋳物作りが盛んに行われてきたエリアです。盛岡で明治時代に創業した釜定の当主は、三代目の宮伸穂さん。昔ながらの製法を守りながらも現代の生活になじむデザインを提案する作り手として、国内外の注目を集めています。
「使い手の目線に立ったモノ作りを大切にしている工房です。マットな仕上がりの質感も独特。何より、北欧を感じるモダンなデザインに魅力を感じます」と、森さん。さらに釜定は、効率化が進みつつある今もなお、複雑な工程の多くを手作業で行う数少ない作り手のひとつでもあるといいます。
「例えば鉄瓶やケトルを高温の炭火で焼いて内側にさび止めの酸化皮膜を作る〝釜焼き〟は、南部鉄器の伝統技術のひとつ。職人の高い技術が必要とされ、手間ひまがかかるため、この方法だと鉄瓶を月に20個ほどしか作ることができません。けれどこの処理のおかげで内部が素焼きのまま保たれ、鉄分が溶け出したまろやかなお湯を沸かすことができる。鉄器の本来の利点、風合いを生かすために欠かせないものとして、釜定ではこの限りなくアナログに近い手法が長年守られています」
こうした作り手の背景もぜひ知ってもらえたらと、この夏に森さんは、クラウドファンディングによって「南部鉄器のある暮らしー釜定の仕事」を製作。
「使い手と伝統職人をつなぎたいという思いもあり、これまであまり語られることのなかった作り手側のストーリーも掲載しました。こうして本にまとめる試みが南部鉄器だけでなく、日本の伝統工芸全体に広がっていけば、と願っています」
シンプルな形のなかに息づく、日本の材料と長い間育まれてきた技術。そんな背景を知ると、調理後に必要なちょっとした手入れも、「育てていく」楽しみに変わりそう。キャンプの時間が、より豊かなものになるはずです。
イグ鍋 価格:¥4,500+税
design: Nobuho Miya 宮伸穂
外寸 : 16.5 × 24.5 × H 3cm
持ち手 : 8.5cm
底φ: 約9.5 cm
重さ : 0.9kg
https://www.designshop-jp.com