アウトドア初心者にとって、焚き火は難しい遊びだ。なぜなら、多くの人が考えるほど薪には簡単に火が付かないからだ。アウトドア雑誌の愛読者で、最初はスギやシラカバの葉っぱなど、火口といわれる燃えやすいものに火を付けるということを頭で知っていたとしても、体験を伴わなければおそらく火はすぐに消えてしまって焚き火にはならない。
小学生の頃の私がそうだった。廃材置き場に友だちと秘密基地を作り、どこかから持ってきた籾殻と小枝を山にして、ポケットに潜ませてきたマッチで火を付けようとしたものの、それが燃え上がる気配はちっともなかった。公園の落ち葉を集めて焼きイモを焼いた覚えもあるが、何も考えずに焚き火をしていたので、そのときどうやって火をつけたのかは分からない。
意識的に焚き火をするようになったのは、20代のはじめにオートバイにテントを積んで、国内外をうろうろし始めてからだが、最初の数日間はキャンプで焚き火をしようとしても火起こしのコツを知らなかったので難儀した。
燃焼の三要素
火を起こすためには、可燃物(薪)と酸素と熱が必要不可欠で、そのどれかひとつが欠けても火は起こらない。これを燃焼の三要素という。火を維持するためには、この三要素が常に働き合いながら連続的に化学反応が繰り返される状態をつくる必要がある。
薪をはじめとした可燃物はそれ自体が燃えているように錯覚するが、実はそうではない。加熱されることで物質を構成する炭素や水素が気化して可燃性ガスとなり、それが空気中の酸素と結合して燃えるのだ。太い薪にマッチやライターの小さな火を近づけても燃えないのは熱量が足りないからだ。
一方で新聞紙が簡単に燃えるのは、小さな火でも可燃性ガスが発生するためである。ただし、燃えやすい物質というのは燃え尽きるのも早い。だから、火を維持するためには、燃えやすい物質に火を付けたら、それが燃え尽きる前により燃えにくいものに火を移しながら徐々に熱量を上げていかなければならない。火起こしとはつまりそういうことだ。
ちなみに、水を満たした紙コップは、焚き火に置いてもすぐには燃えない。なぜなら水が蒸発しない限り、紙が発火点の450度を超えることはなく可燃性ガスが発生しないからだ。つまり、コッヘルで湯を沸かさなくてもカップ(紙製に限る)に直接水を入れて温かいカップラーメンを作ることができる。薪が燃えにくいのも同様で、まずはその内部に含まれる水分を放出しないと燃焼は始まらないのである。
キャンプ場で太い薪をバーナーであぶって火を付けようとしている人を見たことがあるけれど、ああいうのはスマートじゃない。手早いようで決してそんなことはないし、仮に火がついても、かなり長い時間バーナーであぶり続けないと焚き火として維持することはできない。
火起こしの方法
焚き火は下準備が大切だ。火起こしの際には、スギの葉などの火口に着火してから、燃えやすい小枝、中太の枝、太い薪と火が安定するまで次々に薪をくべていかなくてはいけない。だから、焚き火をはじめる前には、それらの焚き付けや薪をたっぷり拾い集め、サイズごとに分けてすぐ手の届くところに置いておく。重要なのはよく乾いた薪を集めること。
薪の組み方はいろいろあるけれど、オーソドックスなのは並列型。30~40㎝の間隔をあけて太い薪を平行に2本並べておき、その間に薪を積み上げる組み方だ。太い薪がかまどの役割を果たしその間に熱を蓄えてくれる。
地面からの湿気を防ぐため、太い薪の間には火床として中太の薪を敷き、その上に火口と細い枝をこんもりと積み上げて、風上から火口に点火。焚き付けに火が付いたら、中太の薪、太い薪と少しずつ追加していき、火を大きくしていく。薪が湿っていてくすぶるようなら、火吹き棒で吹く。空気を送ってやると火勢が強くなる。熱量が上がれば太い薪に火が移って安定する。その後は、様子を見ながらときどき薪を追加して、燃焼の三要素を維持すれば焚き火はいつまでも燃え続ける。
火起こし器とファイヤースターター
着火が苦手という人には簡単にできる火起こし器という便利な道具もある。キャプテンスタッグの『炭焼き名人』やユニフレームの『チャコスタⅡ』などが代表的。要は煙突効果のある筒状の道具だ。中に火口と小枝を入れて着火すれば、下の穴から空気が入り煙突効果で自然に火が燃えあがっていくというもの。バーベキューのときの炭の着火を目的とした道具だが、焚き火でも使える。その着火の容易さはYouTubeの動画などで見ることができる。
最近はサバイバル的な火花式発火法を試みる人たちも増えている。火打ち石を火打ち金で擦って火花を飛ばす原始的手法だ。現代版のそれはファイヤースターターといって、可燃性の高いマグネシウムの棒を金属でこするものだけれど、これも一興。ナイフの背でこすってもいい。
火起こしの方法は人によって千差万別。決まったやり方なんて別にない。でも、焚き火を見れば、その人のアウトドア度がだいたいわかるかもしれない。