ロープワークで「降下する」「登攀(はん)する」という基本的な動きを前回(https://www.bepal.net/?p=95217&preview=true)でお伝えしました。今回は「引き上げる」という動きをロープワークで練習しましょう。
負傷者が登攀する際に、体力的や技術的に登り返せない場合、救助者がロープ確保をしながらサポートしつつ、負傷者に登り返してもらいます。救助者は支点を確保し、負傷者がいる場所まで斜面を降り、そこから負傷者(もしくは荷物類など)を引き上げる手順です。
手順と全体の流れ
(1)救助者がイタリアンヒッチで降下する。降下してきたロープの末端にダブルエイトノットを作成。負傷者にチェストハーネスを作り、ダブルエイトノットのループにカラビナを接続する。
(2)救助者はフレンチノットで登攀し、支点にガルダーヒッチを結び直す。
(3)負傷者と支点との間のロープに弛みが無いようにピンと張る。
(4)準備ができたら負傷者に合図を送り、負傷者が登り出すことを確認してから、ロープがたるまないように引っ張り上げる。
では、それぞれの動きを具体的に見ていきましょう。
救助者が降下する
救助者が降下する際の基本姿勢を確認しましょう。救助者は支点を確保した後、負傷者用のチェストハーネス(スリング)やカラビナを持って、負傷者のもとに降下します。降下先の足場や方向を確認しながら、手は腰あたりでロープを半握りして、スピードをコントロールしながら降りていきます。
完了したら、救助者は登攀して支点までいったん戻ります。
引き上げる準備をする
支点のスリングに、2つのカラビナをつけます。カラビナにロープを掛けて、相手側のロープをピンと張り、ガルダーヒッチを作成します。
ガルダーヒッチ(右側が相手の場合)の作り方をお伝えします。
分かりやすく引っ張る側のロープを端末にしていますが、実際は相手側から支点までのロープがピンとなるまで端末を引き込みます。
相手を引き上げる
相手側と反対側のロープを下に引いて、緩みのない状態をキープしながら登ってもらいます。体重を掛けて引くことで相手の負荷を軽減することもできます。
必ず登ってOKの合図があるまで、相手に登り出すのを待ってもらいましょう。
負傷者が登りだすとロープが弛み、落下したときに弛んだぶん落ちてしまう恐れがあります。そのため、極力ロープの弛みが無くなるように引っ張り続けてください(引っ張ることに夢中になり、自分が滑落しないように)。
注意点
・初めから斜面で行わず、平地で操作を確認してから、斜面で練習しましょう。
・練習する際も、自然へのダメージや落石等の危険を配慮しながら行いましょう。
・カラビナやスリング、ロープは必ず登山仕様(身体確保可能)の物を使ってください。
・ロープ降下の際には、指を挟まれたり摩擦で怪我をする可能性もあるので、薄手の手袋(作業用グローブ、軍手、革手袋)を用意すると安心です。
本来ならば講習会や経験者からの指導を受けて確認してもらうべきですが、今回このように紹介したのは、ロープワークに興味を持ってもらい、「思いのほかそんなに難しくない」ということを感じてもらいたかったためです。
また「降下」とか「登攀」なんて聞くと「危ないこと」というイメージを抱きがちですが、むしろその逆で、こんなシンプルなアイテムだけで多少の急斜面も「安心感を与えてくれる」のだということを知ってもらいたいなと思いました。どんな道具も使い慣れないから「難しそう」に見えるだけで、実際に持って使っていれば応用も利いて面白くて便利です。
経験を重ねていけば、垂直の崖でも安心して下りられるようになると思いますよ。遭難して崖っぷちに飛び出しても、落ち着いて下山できたのはロープを持っていたおかげだった、なんて話も聞いたことがあります。
ロープワークは反復練習しないとなかなか身につきません。毎月8日は「ロープワークの日」にしてみたり、グループのリーダーは登山中に1度は皆でロープワークの時間を作ってみてはいかがでしょう? 年に1度はロープワークの講習会に参加するのが理想です。
他にもロープでできることを調べて、積極的にロープを使って親しんでみてください。