僕の居場所は、空にある。写真家・山本直洋がモーターパラグライダーで七大陸最高峰に挑む理由
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    2020.08.28

    僕の居場所は、空にある。写真家・山本直洋がモーターパラグライダーで七大陸最高峰に挑む理由

    私が書きました!
    著述家・編集者・写真家
    山本高樹
    1969年岡山県生まれ、早稲田大学第一文学部卒。2007年から約1年半の間、インド北部の山岳地帯、ラダックとザンスカールに長期滞在して取材を敢行。以来、この地方での取材をライフワークとしながら、世界各地を取材で飛び回る日々を送っている。著書に『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』(雷鳥社)『ラダック ザンスカール スピティ 北インドのリトル・チベット[増補改訂版]』(ダイヤモンド社)など。厳寒期のザンスカールで凍結した川の上を歩く究極の旅を綴った新刊『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』(雷鳥社)が2020年4月に発売。

    モーターパラグライダーで飛行しながら撮影中の山本直洋さん(写真提供:山本直洋)

    「モーターパラグライダーで飛んでいると、本当に、地球を感じることができるんですよ。空に浮いているんですけど、自分というちっぽけな存在が、自然や地球の一部になっているような感覚になるんです」

    プロペラ付きエンジンとパラグライダーで自在に空を飛ぶことのできる、モーターパラグライダー。山本直洋さんは、そのモーターパラグライダーを駆使して単身空を飛行し、地球を感じる風景「Earthscape」を撮影する写真家として知られています。

    プロペラ付きエンジンを背負い、離陸する前の山本さん(写真提供:山本直洋)

    空を飛んで写真を撮る生き方を目指して

    「空を飛びたいというのは、子供の頃からの夢でした。何かしら空に関わる生き方をしたいとずっと思っていたんです。大学卒業後に1年ほど働いた会社を辞め、旅をしながら写真を撮ってそれをお金にするような仕事をしたいと考えていました。その頃、たまたま手に取った雑誌で、モーターパラグライダーの存在を知って。これで空を飛びながら写真を撮れば、仕事にできる。空を飛ぶ夢も叶うし、最高だな、これだ! と強く思いました」

    写真の勉強をするために米国ニューヨークに渡り、語学学校で英語を学んでいた山本さんは、「日本語を勉強したいので、日本人の友達を探している」とSNSで発信していた米国人と友達になります。偶然にもその人は、ニューヨークでも有名なフォトスタジオのマネージャーの方でした。思いがけない出会いに恵まれた山本さんは、フォトスタジオでスタッフとして働きながら、撮影機材の扱い方など、写真のイロハを学んでいきました。

    「米国の就労ヴィザを取って、そのスタジオに長居する選択も考えました。ただ僕は、空撮をやりたいと最初から決めていたので、日本でモーターパラグライダの技術をしっかり身につけよう、と。帰国して、栃木県那須烏山市にあるスカイトライアルというパラグライダースクールに通いました。代表の塚部省一さんはご自身でも空撮の仕事をされている方だったので、空撮の特訓をするにはぴったりだったんです。当時の僕は、お金はあまり持っていなかったんですが、空撮を仕事にすると決めていたので、覚悟してローンを組んで、授業料や、中古のモーターパラグライダー機材の費用を工面しました」

    初めてパラグライダーで空を飛んだ時、山本さんが感じたのは、感動というのとは少し違った、意外な感覚だったそうです。

    「ちっちゃい頃、毎晩のように空を飛ぶ夢を見ていました。自分に暗示をかけて空を飛ぶ夢を見ていた時期もあったんです。飛びたいなと思ったら、部屋のベッドに仰向けになって、薄目を開けながら、抜けろ抜けろと念じると、身体から魂が抜けたような感じになって。ベランダから外に飛び出して、自由自在に空を飛ぶような感覚を味わえていたんですよ。その夢の中で見ていた景色はものすごくリアルだったんですが、初めてパラグライダーで飛んだ時、目の前に広がる景色と、子供の頃の夢で見ていた景色が、まったく同じ感覚でつながったんです。感動というより、ああ、これだ、やっと見つけた、という感覚でした」

    空撮に用いる機材をチェックしている山本さん(写真提供:山本直洋)

    生身の身体で飛んでこそ、伝えられる感動がある

    モーターパラグライダーの特訓を重ねた山本さんは、約2年をかけてライセンスを取得。写真家として独立し、さまざまな種類の撮影を手がけながら、空撮による作品づくりに取り組んでいきました。

    「モーターパラグライダーは通常、ラインを左右の手で持って操作するんですけど、空撮をする時は、右手でカメラを持ちつつ、左手でラインを持って操作しなければならないので、最初からそれを想定した練習をしていました。意外に思われるかもしれませんが、写真撮影に使うカメラは、普通に首からストラップでぶら下げているだけなんですよ。動画撮影の場合は、ハーネスと固定具を使って少し安定させるんですが」

    プロペラ付きのエンジンを背負っているとはいえ、モーターパラグライダーによる飛行では、風を読むことのできる知識と経験、そして万が一の事態に遭遇した時の冷静な判断が不可欠だと山本さんは言います。

    「モーターパラグライダーはいったん離陸すると、上昇気流がなくてもエンジンをふかせば飛び続けられますが、上昇気流をうまく使うと、より安全で燃費のいい飛び方をすることができます。どの地形でどんな風が吹くか、勉強しておく必要がありますね。飛んでいる時、風向きと風の強さには、常に気をつけています。高度が上がれば上がるほど距離感もつかみにくくなりますし、撮影に集中しているうちに予想以上に流されて、戻れなくなってしまう可能性もあるので。低空を飛んでいる時は、木や電線に引っかからないように、ものすごく注意しますね。あと、万が一エンジンが止まってしまった場合はどこに不時着するか、降りられる場所を事前に頭に入れています」

    隠岐諸島の沖合を飛びながら撮影された写真(写真提供:山本直洋)

    海外では北欧のノルウェーやスウェーデン、北米カナダのユーコン準州。国内では知床や阿蘇山、隠岐諸島などが、空撮に取り組んだ中で印象に残っている場所だと山本さんは言います。

    「僕は写真を撮る時、地球を感じる風景(Earthscape)というものをテーマにしているので、できるだけ人工物のない場所で撮影をするのが好きです。そういう意味では、知床は最高の場所です。飛んでいても、人工物がなかなか目に入らないんですよ。それだけ自然が豊かなところなんですね。日本では一番好きな場所かな。知床で撮影をしていた頃、初めて雲の上を飛んだ時は、すごかったです。その日は曇っていたんですが、少し雲の薄い部分があって、その切れ間に入って、真っ白な世界の中でエンジンをふかし続けたら、すぽっ、と雲の上に抜けたんです。そこでは、白い雲海がぶわーっと広がっていて、はるか彼方に、知床連山の頂がぽこんと見えていて。ふっと下を見たら、自分が飛んでいる姿の影が雲に映って、その周りに虹が出ていたんです。ブロッケン現象というんですよね。雲の上で、一人でむちゃくちゃ叫びながら、夢中で写真を撮り続けていました」

    知床で雲海の上を飛行中に現れたブロッケン現象(写真提供:山本直洋)

    モーターパラグライダーによる空撮のほかに、最近ではドローンを操縦しての撮影も数多く手がけている山本さん。しかし両者の間には、明らかな違いを感じているそうです。

    「地上からドローンを操縦している時に手元のモニターで見る景色と、生身の身体で飛びながら見る景色とでは、得られる感動がまったく違うと感じています。最近のドローンは性能がいいので、すごく綺麗な映像が撮れるんですが、人間の生の感情は、なかなか込められないですね。地球を感じる風景というテーマを掲げている以上、自分自身が感動してシャッターを切ることに意味があると思いますし、その感動を何とか伝えられるような写真を撮りたいと思っています」

    ノルウェーで雪嶺の上空を飛びながら撮影した写真(写真提供:山本直洋)

    事故を乗り越え、七大陸最高峰の空撮に挑む

    作品づくりにおいて、自分自身が空を飛ぶことにこだわり続ける山本さんが挑もうとしているのが、世界の七大陸最高峰をモーターパラグライダーで空撮するというプロジェクト。成功すれば、世界で初の快挙となります。

    「もともと山は好きで、学生の頃はいつか七大陸最高峰に登りたいなあと思っていました。その七大陸最高峰を、足で登るのではなく、モーターパラグライダーで空撮したら面白いんじゃないか、と。成功したら世界初だし、写真家としても良い作品を残せるのでは、と思いついたんです。3年くらい前にそう思いついてから、そのプロジェクトのことしか考えられなくなりました。登山関係の方や、パラグライダーで高高度を飛んだ経験のある方に連絡して、いろいろ情報を集めているうちに、人脈も広がって、これはいけそうだ、と。2019年9月に、プロジェクトの第一弾として、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロの空撮に挑戦する予定でした。クラウドファンディングで資金を集めて、スポンサーもついて、たくさんの方々に応援していただいて、やれる!と思っていたんですが……自分自身、突っ走ってしまっていた部分があったのかなあ……」

    アクシデントが起こったのは、2019年9月初旬、改造したエンジンによるテスト飛行でのことでした。飛行中にエンジンで火災が発生。墜落は免れたものの、山本さんは身体に火傷を負い、約1カ月半の入院治療を余儀なくされることになります。

    「キリマンジャロを空撮するためには、高度6000メートルまで上がらなければならないので、そのためにはエンジンをパワーアップする必要があったんです。パワーアップにはいくつかの方法があるんですが、時間的、予算的に一番現実的だった、エンジンに酸素を直接送り込む改造を施すことにしました。地上で使う分には実績のある改造法なんですが、空で使った事例はなくて、協力していただいていたエンジニアの方もあまりおすすめできないかなと言っていたんです。でも僕はノリノリでやっていて……それが事故の原因ですね。本当に反省しかないんですが、まだテスト中でよかったです。今後はとにかく、時間や予算をケチらず、安全第一でやらなければ、と気を引き締めています」

    負傷も癒え、2020年に入ってリハビリフライトを順調に再開した山本さん。七大陸最高峰空撮プロジェクトへの再チャレンジは、2021年9月を目標としているそうです。

    「七大陸最高峰の中では、エベレストと、南極大陸のヴィンソン・マシフが難しそうです。ヴィンソン・マシフは高さはそれほどでもないんですが、許可取りや気温対策が大変そうです。エベレストは最後になると思いますが、9000メートルまで上がらなければならないので、相当特殊なエンジンを用意しなければならないですね。エベレストは、どんなに早くても5年後になりそうなので、体力的にも最初で最後のチャンスだと思います」

    カナダのユーコン準州に広がる極北の大地(写真提供:山本直洋)

    「幸せ」とは少し違う、空を飛び続ける理由

    「僕が初めて、地球を感じる風景を目にしたのは、中学生の時です。当時、家族の都合でノルウェーに住んでいて、プレケストーレンという観光地に遊びに行ったんです。そこはフィヨルドから500メートルくらいの高さの断崖がそびえていて、ほとんどの観光客はその断崖の上まで行って戻ってくるんですが、山自体はもう少し上まであるので、僕は一人で、山の上へ登ってみたんです。すると上からは、有名な観光地とは反対側に、地球が丸みを帯びていると感じられるくらい、ものすごく遠くまで見渡せる景色が広がっていて。その時、涙が出てきたんです。地球って、こんなにすごいんだ、と。あの経験が、僕の中で原点となっています」

    「空を飛びたい」という子供の頃からの夢と、「地球を感じる風景」に触れた原体験。世界の七大陸最高峰の空撮という壮大なプロジェクトに山本さんが挑む理由は、そういったとてもシンプルで純粋な思いからなのでしょう。

    はるか彼方に富士山を臨みながら、雲海の上を飛ぶ(写真提供:山本直洋)

    「モーターパラグライダーで空を飛ぶことの魅力は、そうですね……飛行機とかでは感じられない、足の下に地面も何もない、宙に浮いている浮遊感というか。大自然の上空を一人で飛んでいると、自分だけがそこにいて、この景色を見ているのも自分一人だ、と感じます。事故を経験した後でも、それは変わらないですね。トラウマもいっさい感じなくて、やっぱり空は気持ちいいなあ、と……」

    空を飛ぶことに、ほかの何物にも代えがたい喜びを感じている山本さん。しかし、その感情に「幸せ」という言葉はあまり使いたくない、と言います。

    「たとえば、自分の家で、子供と一緒に寝ている時は、幸せだなあ、と感じます。でも、空を飛ぶ時に感じるのは、そういう幸せとはちょっと違う感覚なんですよね。地球って、こんなにすごいんだ。自分はとてもちっぽけだけど、このまま風になって、この大きな地球の一部になりたい。空にいるんですけど、地球とつながっているような感覚。空は、自分の居場所のようなものなのだと思います」

    モーターパラグライダーで飛行しながら撮影中の撮影中の山本さん(写真提供:山本直洋)

    山本直洋さんと七大陸最高峰空撮プロジェクトの最新情報は、山本さんの公式サイトと公式YouTubeチャンネルで発信されています。


    ■山本直洋さんの公式サイト http://www.naohphoto.com
    ■山本直洋さんの公式YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/c/NaohPhoto


    山本高樹の新刊『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』発売中!

    『冬の旅 ザンスカール、最果ての谷へ』
    文・写真:山本高樹 価格:本体1800円+税 発行:雷鳥社 A5変形判288ページ(カラー77ページ) ISBN978-4-8441-3765-8
    彼らは確かに、そこで、生きていた。氷の川の上に現れる幻の道“チャダル”を辿る旅。インド北部、ヒマラヤの西外れの高地、ザンスカール。その最奥の僧院で行われる知られざる祭礼を目指し、氷の川を辿り、洞窟で眠り、雪崩の跡を踏み越える“冬の旅”に挑む。人々はなぜ、この苛烈な土地で生きることを選んだのか。極寒の高地を巡る旅を通じて“人生の意味”を問う物語。

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