ライター:藍野裕之
1962年生まれ。長らく世界の諸民族を訪ねる旅に憧れ続ける。そんな志向が高じて登山史、探検史をひもとくようになった。
「資料」から「アート」に民族造形、探検や登山の記録。
国立民族学博物館(民博)館長の吉田憲司さんにお話を聞く機会があった。
「今、これまでなかったほど民族学とアートが接近しているんですよ」というのが印象的だった。
民博の収蔵品は主として20世紀後半に集めたもの。当時は、世界各地の民族が生活に使っていた。しかし、その後に地球規模で生活の激変が起こり、もはや収蔵品は民族の生活ではなく、民族の独自の造形感覚を伝えるものになったという。
ピカソ、岡本太郎など民族造形に燃え盛る魂を向けた芸術家はいた。今は民族学者を始め芸術家以外から「資料」ではなく「アート」と見る動きが高まっているのだ。それは諸民族の生活道具だけではないのかもしれない。カメラが普及する以前の探検家のスケッチ、探検や登山の記録写真、道具など、それらからは、無機質な「資料」と縁遠い、巧まざる美とでもいえるような光彩を受け取れる。
あるものを「美しい」と感じるのはかなり主観的な感覚だ。しかし、悪政にNoというのと同じように、美しいものを美しいと声に出したいものである。
チベット探検:
探検家のスケッチを画学生が模写
『探検家ヘディンと京都大学』
スウェン・ヘディンといえば中央アジアを駆け巡った大探検家だ。1908年に京都大学を訪問。携えていたスケッチを画学生が写した。1世紀以上眠っていた60枚に及ぶ模写が2014年に発見され解説付き画集となった。
田中和子 編 佐藤兼永 撮影 ¥6,800 2018年
京都大学学術出版会 278㌻ A4変形判
山岳文化:
登山の歴史を豊富なヴィジュアルで辿る
『世界の山岳大百科』
英国山岳会と英国王立地理学協会という世界一古い登山団体、探検団体が共編したヴィジュアル版の登山史の書。豊富に盛り込まれた記録写真が美しい。
英国山岳会・英国王立地理学協会 編、
池田常道 翻訳監修 ¥9,800 2013年
山と溪谷社 360㌻ 30.2 x 25.4㎝
民族造形:
新たな目で民族の造形に迫った展覧会図録
『イメージの力〜国立民族学博物館コレクションにさぐる』
「イメージ。人間が自ら外部もしくは内部に作りだした色と形をもつもの」と吉田憲司さんは記す。国立民族学博物館の収蔵品をアートと見る試みの書。
「イメージの力」実行委員会 編集
¥2,297 2014年 国立民族学博物館
272㌻ A4変形判
少数民族:
30か月の冒険が生んだ執念の書
『BEFORE THEY PASS AWAY〜彼らがいなくなる前に』
ジミー・ネルソンはイギリスの広告写真家だが、2009年に古い大判カメラを携えて旅に出た。本書は冒険旅行の成果。北極圏、中央アジア、アフリカ、南米、ニューギニアなどの民族を美しく捉えた写真集だ。
ジミー・ネルソン著 神長倉信義翻訳 ¥4,200
2016年 パイ インターナショナル 280㌻ A4変形判
※撮影/永易量行
◎紹介している本の書誌情報は、すべて発行当時のものとなります。
(BE-PAL 2020年7月号より)