焚き火とは薪を燃やして、その熱で料理をしたり、暖をとったり、また揺らめく炎を眺めたりして楽しむ遊びだ。電気やガスが普及する以前は生活の一部だったし、災害時やサバイバル的な環境になれば、その火は命をつなぐものになる。
火は熱と酸素と可燃物の三要素が働き合って起こるが、なかでも重要なのが可燃物となる薪である。なぜなら、薪の種類や状態によって熱量は左右され、薪の組み方で酸素の供給をコントロールできるからである。そもそも、この三要素で自ら用意するものは薪しかないなのだ。
薪を入手するときに気をつけることは?
では、その薪をどうやって調達するのか?田舎に住んでいる人なら近くの山や森や河原で倒木や流木を拾ってくればいい。いつも焚き火の煙の臭いが漂うアウトドアの達人なら、キャンプ地の自然に分け入って乾いた薪を難なく集めてくるに違いない。そうやって手に入れる薪は、当たり前だが無料だ。
でも、都会暮らしのキャンプ初心者は、アウトドアショップやホームセンターやキャンプ場などで焚き火用として販売されている薪を購入するのがおすすめだ。インターネットの通販でも入手できるけど、送料を考えるとあまり安い買い物ではない。
市販の薪を入手する際に気をつけたいのは、その薪がよく乾いているかどうか。水分をたくさん含んでいると火はつきにくいし、煙ばかり出て焚き火にならない。だから、頻繁にキャンプに行く人は、少し余分に薪を入手して雨のあたらない家の軒下などに保管しておき、よく乾燥させたものを常々持っていくようにするといい。
樹種による薪の違いとは?
市販の薪は樹種によって価格が異なる。一般にスギやヒノキなどの針葉樹に比べて、ナラやクヌギなどの広葉樹のほうが、値段が高い。理由は広葉樹のほうが、火持ちがよく、熱量もあり薪として優れているからだ。ただ、正確に言えばどんな樹種でも重量当たりの燃焼効率はほぼ同じ。つまり、乾燥重量がいずれも1㎏のスギとクヌギを燃やした場合に発する熱量はほとんど変わらないのだ。
では、違いは何かというと比重である。スギの比重は約0.37なのに対し、クヌギの比重は約0.85。同じ体積で考えるとクヌギはスギの倍以上の熱を発することになり、比重が高い分だけ燃焼時間も長くなる。一方で、比重が小さい軽い木は着火性がよく、スギやヒノキやマツはよく乾燥さえしていれば簡単に火をつけることができる。だから、火起こしのときは針葉樹を使い、火が大きくなったら広葉樹をくべて安定燃焼に持っていくというのが理想だ。
火持ちが悪い針葉樹は燠ができにくく、すぐ灰になって燃え尽きてしまう。その点、広葉樹は燃え進むと燠になり、赤々と遠赤外線を発しながらゆっくり燃える。その状態は炭が燃えているのと同じで、燠を寄せたり、広げたりすることで温度調整もしやすく、料理をするにも向いている。
安全な薪割りの方法とは
一般的に市販の薪は、長さが約40㎝で、太さは大人の腕くらいある。それが70㎝くらいの針金で10本前後束ねられて一束になる。ただ、この太い薪だけで焚き火をするのは難しい。なぜなら太過ぎて最初の火がつかないからだ。そこで、薪割りが必要になる。手斧やナタを使って薪を着火しやすい大きさに割り裂いてやるのだ。
薪を割る方法は木口に手斧やナタの刃を当てて背の部分を別の薪で叩いて食い込ませてやる。手斧やナタを振り下ろす割り方は慣れた人じゃないと危ないので、初心者にはおすすめしない。大人の指の太さくらいから、ちょっと太めのものまで、いろいろなサイズの薪をこしらえておくと火起こしがスムーズ。細かくした薪はさらにナイフで削って毛羽立てておくと火つきがよくなる。火口はスギの葉や乾いた落ち葉があれば拾い集めておく。着火剤や新聞紙でもOKだ。
キャンプではどれくらいの量の薪が必要か
1泊2日のキャンプで、どれくらいの量の薪を必要とするかは焚き火のやり方によって変わる。大きな火を燃やさなければ広葉樹の薪一束で3~4時間は持つ。余裕を持って2束あれば一晩は十分持つはずだ。
燃焼時間や火力は薪そのもののポテンシャルにもよるが、長持ちさせるコツは薪の組み方だ。円錐状に立ち上げるピラミッド型(ティピー型ともいう)やキャンプファイヤーの組み方である井桁型なんかだと、わっと大きな炎があがり薪はすぐに燃え尽きてしまう。これじゃどんなに薪の量があっても足りない。焚き火が上手な人は、そんな派手な燃やし方はしない。太い薪を平行に2本並べて、その間で小さな炎を一晩中燃やしている。
直火が禁止されているキャンプ場では、焚き火台を使うケースが多いが、考え方は同じ。スノーピークの焚き火台でも、ユニフレームのファイアグリルでも、セットして薪を無造作に積むだけでは炎をコントロールできない。焚き火台をそのまま地面に見立てて薪を組んでやる。焚き火の跡を残さず、後始末と片付けが簡単にできるのは焚き火台の優れたところだ。
最近は冬キャンプも流行っていて、コンパクトな薪ストーブをキャンプ場に持ち込む人も増えている。一般的に薪ストーブと焚き火で同じ量の薪を燃やした場合、熱を逃がさず、空気の供給が制限される薪ストーブの方が長持ちする。ただ、キャンプ用の薪ストーブは燃焼室が小さいため、薪を小割りにすると案外燃えるのが早いので要注意。寒い冬のキャンプは暖が取れないと悲惨なので、薪は多めに用意した方がいい。
薪を事前に用意してキャンプ場に持ち運ぶ場合の車への積み方も教えよう。そのままだと木くずが落ちるし、安定しないので段ボールに収納するのがいい。なぜ段ボールかというと、四角い箱の方がその上に物を重ねることができてパッキングしやすいし、焚き付けにもなるからだ。
バイクでソロキャンプという場合は、積載できる荷物が限られるので現地調達が基本。ソロで小さな焚き火を起こすだけなら両手で持てるだけの薪を拾い集めれば十分だ。
ともあれ、薪はよく乾燥していることが何よりも大切。そして薪の組み方で炎や火力を自在にコントロールする。焚き火とは薪を燃やすことなのだから。