【写真家・吉田亮人さんに聞く:後編】バングラデシュの人々の労働と、私たちの社会との意外なつながりとは?
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    2016.03.30

    【写真家・吉田亮人さんに聞く:後編】バングラデシュの人々の労働と、私たちの社会との意外なつながりとは?

    ——新しい写真集『Tannery』では、首都ダッカの一角にある、ハザリバーグという皮なめし工場の集まる地帯を取材されたそうですね。

    吉田:この一帯を取材したのは2013年からなんですが、ここはダッカの中心部近くにあるのに、皮をなめす工程で使われている有害な化学薬品が、何の処理もされないまま街の中を流れてしまっているんです。余った皮も周辺にそのまま捨てられていて。かなり深刻な汚染状況なんですが、政府はそうした問題に対して何の手も打とうとしていません。僕自身、最初の頃はそういう場所があることを知らなかったんですが、ダッカでいつもお世話になっているバングラデシュ人の映画監督の方の家から、歩いてほんの10分か15分くらいの場所だと知って、これは行かなければ、と思いました。この皮なめし工場の地域全体に300軒ほど工場があって、3万人くらいの人々が働いているんですが、その中の3、4軒ほどに目星をつけて、顔見知りになって、中を全部撮影させてもらいました。毎朝工場に出かけていって撮影して、夕方帰ろうとすると、工場の人たちが「泊まっているところに帰る前に、消臭スプレーを自分にかけろよ。お前、相当臭うから」と言うんです。もう、消臭スプレーとかでどうにかなるレベルではなかったんですけどね。

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    ——『Tannery』に収録される写真を何枚か見ましたが、レンガ工場を撮った『Brick Yard』が、写真集に使われた紙の質感もあいまって、ざらざらと乾いた印象なのに対し、『Tannery』の写真はぬめっとしていて、禍々しい感じさえしますね。

    吉田:写真集の装丁をお願いしている矢萩多聞さんと二人で話していたのは、あの場所の皮の匂いと、ぬるっとした感じと、汗と薬品がごたまぜになった、ぐっちゃぐちゃな感じを写真集で伝えたいということでした。『Brick Yard』のレンガ工場も確かに過酷な現場でしたが、これに比べると牧歌的でポジティブに見えますね。『Tannery』では、このものすごく困難な場所でうごめくように毎日働いている人たちがいて、それでも生きていて……そこに救いはあるのかないのか、それは見る人に判断してもらうしかないんですけど。「働くって何だろう?」みたいなことを強調したいわけではなく、もうそれだけではないというか……。

    ——うまく言えないんですが、写真としてのクオリティとは別のところで、見終わった後、ざわざわしたものが心に残りますね……。

    吉田:僕自身、それを見たり聞いたり味わったりした後に、誰かとの別の会話ですぐに忘れられてしまうような、心に何も残らないものは作りたくないんです。ポジティブだろうがネガティブだろうが後味の悪いものだろうが、気になって仕方がない、心がざわつくものを提示していきたいですし、僕自身もそういうものを見たいといつも思っています。正直な話、自分でも、『Tannery』という写真集で何を伝えたいのか、うまく言語化できていないんですよね。とにかく、自分はこういう場所を見てきて、そこにはこういう人たちがいたんだ、と。「どうして撮ったんですか?」と聞かれて、それに答えられないのは、写真家としてはあるまじきことかもしれませんけど。ただ、一つだけ今はっきりと言えるのは、彼らと僕たちは、実はとても密接につながっているということです。

    ——というと?

    吉田:この皮なめし工場地帯には、海外から各国のバイヤーたちが買い付けに来るんです。日本人も来るし、ヨーロッパ各国のバイヤーも。聞いたところによると、ハザリバーグで作られた皮が日本に輸入されて、加工され、何らかの製品になって僕たちの手元に普通に届いているんです。でも、僕たちはそれをまったく知らない。バングラデシュに限らず、僕たちが普段日本で生活できているのは、世界の遠い国にいる人たちが絶対にどこかの部分で関わっていて、切っても切り離せないつながりがあるからなんです。僕たちは何も知らないところで、彼らの労働の恩恵を受けています。もっと言うと、彼らから搾取しているのかもしれません。彼ら自身も、自分たちのなめした皮が、どこでどういう風に使われているのか知らないんです。その部分が、すごく断絶されてしまっていて。

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    ——なるほど……その事実に気づくと、写真を見ても、あらためていろいろと考えさせられますね。

    吉田:ある意味、この『Tannery』という写真集では、僕たちと彼らの断絶された部分を、点と点を結んで線にして……そんなに太い線じゃないですけど、その部分を見えるようにしたい、と考えています。

    ——今後は、どういったテーマで撮影に取り組みたいとお考えですか?

    吉田:以前、『Brick Yard』がパリ・フォトの写真集部門にノミネートされた時、パリの会場で出会った人たちから「どうして君は日本人なのに、バングラデシュの人たちを撮っているの?」と聞かれることが多かったんです。日本人としてのアイデンティティ、日本人であることの意味をすごく問われたので、自分でもそろそろそういう時期なのかもしれない、と思って。日本でも以前から同時進行で撮っていたんですが、海外だけでなく、これからは日本でももっと撮っていこうかなと。コンセプトは自分の中に大きなテーマがあるので、それをずっと掘り下げていってみたいと思っています。

    ——これまでの「働く」というテーマが、また新たな方向に広がっていくわけですね。その先を見せていただけるのを楽しみにしています。ありがとうございました。

    【写真家・吉田亮人さんに聞く:前編】

    吉田亮人 Akihito Yoshida
    1980年宮崎市生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部卒業後、日本語教師としてタイの大学に1年間勤務。帰国後、小学校教員として京都市にて6年間勤務し、退職。2010年より写真家として活動開始。2014年12月、初の写真集『Brick Yard』を発行(私家版・限定200部)。コニカミノルタフォトプレミオ2014年度大賞、Paris Photo – Aperture Foundation Photobook Award 2015ノミネート、日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015ピープル部門最優秀賞など受賞多数。2016年春、写真集『Tannery』を発行予定。
    http://www.akihito-yoshida.com/

    聞き手:山本高樹 Takaki Yamamoto
    著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々[新装版]』を雷鳥社より刊行。
    http://ymtk.jp/ladakh/

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