本誌の読者なら、カモが逆立ちして尾を水面から出しているユーモラスな姿を見たことがあるだろう。しかしそのとき、水中では何が行なわれているのか。
著者の写真家・中川雄三氏もそれを知りたくて、撮影を始めた。
最初は、カモのデコイ(木製やプラスチック製のカモの模型)を改造した帽子をかぶり、水中からそっと近づく作戦だった。
それがうまくいかないとわかると、ドラム缶を浮かせてその中でひたすら待ったらどうか、カモロボットに水中カメラをつけたらどうか? などなど、作戦は頭の中で際限なく膨らんでいく。しかし実際は、カモが警戒心を解くところまではなかなか近づけない。
正直いって、そこまでやるかあ? というほどの写真家の意地に苦笑させられた。きっとこれでは写真が撮れても、なんだか割に合わないような気もする。
しかし、そんな過程を経てついに成功したカモの水中の姿を見て納得。撮影された結果も重要だが、動物写真家はこうやって工夫を重ねながら、自分の撮りたい写真に一歩一歩近づいていくこと自体を楽しんでいるように思えたからだ。
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『水中さつえい大作戦』
中川雄三文・写真・絵
福音館書店 1300円+税
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この本を読んだ人=三宅直人
1954年岡山県生まれ。出版社を経てフリーのライターに。『BE-PAL』や『サライ』で自然関係の記事を執筆。25年にわたって自然関連の図 書紹介も行っている。最近は都市と郊外、野生植物と園芸植物のボーダー領域に興味がありブログ 「ボーダーガーデニングと庭の事件簿」 http://bordergardening333.blog.fc2.com/ を公開中。