素朴かつ洗練された真鍮製カトラリー
全国的にも有名な鋳物の町、富山県高岡市。氷見市との境目にそびえ立つ二上山の近くにあるのが、創業以来123年の歳月を重ねてきた真鍮鋳物メーカー「FUTAGAMI」。富山で唯一、真鍮カトラリーを製造している。
私が運営するグルメサイクリングツアー中に、鱒の寿司などの外で食べられる食事と共に地元の器やカトラリーを紹介しようと、”メイドイン富山”を探している際にFUTAGAMIの製品にたどり着いた。
当時調べた限りでは、富山県産カトラリーは他に見当たらなかったため、購入した動機も「なんとなく富山の物だったから」が本音で、無骨でザラリとした金色の製品は棚の奥にしまったままになっていた。
Café & Gallery muséeでの運命的な出会い
しばらくして、石川県金沢市を訪れた私は、21世紀美術館近くの「Café & Gallery musée」というカフェに偶然入ることになった。窓側の席を見ると、どこかで見覚えがあるような卓上のランプが置かれている。
店の空気を支配しているような存在感。それでいてどこか懐かしい。そんなインダストリアルな雰囲気漂わせるランプを見つめながら食事を待っていると、サラダと一緒に運ばれてきたカトラリーがふと目に付いた。
FUTAGAMIのカトラリーを採用した経緯を聞くと、「以前、金沢美術工芸大学の工芸科鋳金専攻の学生3人展が開かれた時に知り合った学生の一人が、FUTAGAMIに就職する」ということがきっかけになったと店主の”益田玲子”さんはいう。
「あれ?これってもしかして、FUTAGAMIのカトラリー?じゃあランプもFUTAGAMI?」。確証はもてなかった。何故かというと、私が所有しているものには無い「使い込まれた鈍く暖かみのある光」が味となり出ていたからだ。その時、初めてこのカトラリーは使わなければ、より魅力ある姿にならないものなんだと実感する。
手工業デザイナーの大治将典(オオジマサノリ)氏デザインのスプーンやフォークは、海外の製品と比べて浅く作られている。日本人が普段食べているカレーやチャーハンなどを食べやすいように設計。持ち手がひし形なのは強度を持たせるためなのだとか。muséeに来られた海外からのお客さんが「オオジデザイン!」と、感動していたというエピソードも。
カトラリーはすべて鉛フリー。先端は銀メッキが15ミクロン施されている。毎日使用すると、1年に1ミクロンほど消費されるという。
左から1、3本目「フォーク大」3,630円、2、4本目「フォーク小」3,179円、5、7本目「スプーン大」3,487円、6、8本目「スプーン小」2,948円、9、11本目「ナイフ」4,928円、10本目「スープスプーン」3,487円(すべて税込)。
FUTAGAMIの鋳造法「生型鋳造」は、砂型から製品を取り出すと、砂と真鍮との接触部分がザラザラとした表情「鋳肌」となる。通常、真鍮製品は鋳肌の状態から磨き上げたり、塗装やメッキを施すが、こちらの製品は鋳肌の面はそのままで、バリや形を整えるだけにとどめて完成となる。他社からみれば「未完」の状態になるが、その鋳肌状態こそが最大の個性であり魅力となっている。
上品かつ、屋外でも使いやすいキッチンペーパーホルダーをみつけた
「キッチンペーパーホルダー 小」の土台は真鍮でどっしりと重く、片手でキッチンペーパーが取れる。デザインも良く持ち運びもしやすいため、アウトドアでの使い勝手も◎。私のイチオシ!
ステンレスやチタンなどのカトラリーは、購入した瞬間が一番光り輝いているが、使い込んでいけば輝きは失われ味や趣があるという状態にはならない。FUTAGAMIの鋳肌製品は、使い込み、経年変化し、自分色に染めていける数少ないカトラリー。キャンプのお供に使って育ててみて欲しい一品である。
FUTAGAMI
〒933-0951
住所:富山県高岡市長慶寺1000
TEL:0766-23-8531
http://www.futagami-imono.co.jp/
撮影:徳光典子
調理デザイン:田中真紀子 instagram:@gbpmmy
キャンプ道具:島田敏彦 facebook:Toshihiko Shimada