ようやく暑さも収まり、ツーリングの気持ちいい季節になった。それで、30年近く乗り続けている1100㏄のオートバイのタンデムシートに10歳の長男を載せ、キャンプ道具一式とフィッシングギアを詰め込んだボストンバッグを荷台に積んで栃木県の日光にマス釣りに行った。
それが大失敗だったのは高速に乗ってすぐに気がついた。車が多すぎるのだ。晴天の連休中日で行楽地が賑わうのはわかっていたはずなのだが、前々日から2日続いた雨のあとの晴れ間で、その後の天気予報も台風の接近で雨模様。まさにその日だけ顔を出した太陽に誘われて家を出てしまったのだ。
でもやっぱりいろは坂で渋滞に巻き込まれ、昼過ぎに目的の湖に到着すると2~3m間隔で湖畔に人が並んでいるような状態。船着き場のボートもすべて出払っている。こりゃダメだ。こんな場所で魚が釣れる可能性はほとんどない。以前、この湖で初めて30㎝ほどのニジマスを釣り、その再現を楽しみにしていた長男は残念そうだったが釣りはあきらめた。それで早々にテントを張ってしまうことにしてキャンプ場に向かったが、そこで改めて休日の行楽地の恐ろしさを見てしまった。
焚き火はテントから3~4m離れた場所で
冬はスキー場のゲレンデになる山の緩やかな斜面を開放したそのキャンプ場は、普段ならほとんど人がいないのに、この日ばかりはどこかの野外フェスのようなテント村状態。これまでいろいろな場所で数えきれないほどキャンプしたけれどこんなに人であふれるキャンプ場は初めてだ。駐車場から近い斜面の下は足の踏み場もない。
お互いこんな近くによくテントを張れるなぁと思う。これじゃ落ち着いて焚き火もできやしない。焚き火をするならテントから3~4mは離れた方がいい。風がなくても火の粉は舞うのだし、それで高価なテントに穴があいたら目もあてられない。
キャンプ場を変えようとも思ったけれど、またオートバイを走らせて渋滞にはまっても面白くない。あきらめてこの賑やかなテント村を遠くから眺めて楽しむことにした。こんな人だらけのキャンプ場でも、実は穴場を知っている。ちょっと歩いて山の上まで行けばいいのだ。ファミリーキャンパーは荷物が多いから、あまり歩きたがらない。水場が遠くなるのもみんな嫌がる。案の定、斜面を登っていくと2~3張りのテントがあるだけだったので、その少し離れた森が迫る場所に二人用の小さなテントを設営した。
河原や海岸での焚き火は条例等を確認
山の上から眺めるカラフルなテント村はなかなか壮観。流行りのソロキャンプをしている人も結構いて、日の暮れぬうちからあちらこちらで焚き火の白い煙が上がっていた。
やっぱりキャンプと言ったら焚き火ですからね。そうそう前置きが長くなったが、この記事の主題は焚き火の場所。キャンプブームと言われる今、みんな焚き火ができる場所を探して東京や神奈川や埼玉の街からはるばる訪れるんだろうし、荷台に大きな荷物を積んだ京都ナンバーや静岡ナンバーのオートバイも駐車場に止まっていた。関東指折りの行楽地だから、連休ともなれば遠くから来る人も多いようだ。
田舎に暮らしていて広い庭があれば、ファイヤープレイスでもこしらえて好きなだけ焚き火ができるけれど、東京とか、大阪とか、福岡とか、そういう都会に暮らしている人が大手を振って焚き火が出来る場所といったらキャンプ場くらいしかないでしょう。あとは河原か、海岸になる。
栃木と茨城を流れる那珂川を毎年何回かカヤックで下るけれど、川面から岸を眺めていればキャンプや焚き火をする場所はすぐに見つかる。カヌーやカヤックで川や海を旅する人は、いいキャンプ地をよく知っているのじゃないだろうか。
河原や浜辺は基本的には誰もが自由に利用できるみんなのもの。河川法や海岸法といった法律でそういうことになっている。ただし、当然管理者もいて大抵は国や自治体であり、場所によっては条例で焚き火やキャンプやバーベキューが禁止されているところもある。
環境的に焚き火ができないこともあるけれど、それまで容認されていた場所が最近禁止されるようになったとしたら、それは心ないキャンパーのせいかもしれない。河原や海辺で焚き火やバーベキューをするときは、そこで暮らす人たちの気分を害するようなことがあってはいけない。そうじゃないと、自由に焚き火ができる場所がどんどん減っていってしまう。昔は公園や空き地でも落ち葉と枯れ枝集めて焚き火して、焼きイモができたりもした。田舎の話だけど。
山や森での焚き火はokか?
山や森での焚き火はどうかというと、通常その土地には所有者がいる。国立公園や県立公園などに指定されている地域でも、そのすべてが国や県などの土地というわけではなく、区域内には個人所有の土地もたくさんあるのだ。そういう他人の土地で焚き火をするわけにはいかない。
では、国立公園や県立公園で国や県が管理する公共の土地についてはどうだろう?
その利用を定める自然公園法では、その地域内を特に自然を保護しなくてはいけない特別保護地区とそれ以外の地域に分けており、特別保護地区では焚き火などをすることについて、特殊な場合以外はしてはならないことになっている。役所への許可申請も必要だ。
一方でそれ以外の地域では、実は焚き火について法律上の規制はない。ただ、たとえ禁止されていなくてもやむを得ない場合を除けば、山や森はレジャーで焚き火をするような場所ではない。流行りのソロキャンプにしてもそうだ。美しい森を一瞬にして台無しにしてしまう恐れだってある。
なだらかな斜面になったキャンプ場のてっぺんから眺める夜のテント村は、ランタンの淡い明かりと焚き火の明滅がささやかな夜景を見せてくれた。
背後の森に動物の気配がした。日が暮れるのを待っていた鹿が山を下りてきたのだ。そこに人がいることも焚き火の炎も大して気にすることなく、無心に草を食んでいる。下界のテント村の人たちは、おしゃべりに夢中で夕闇の森の静かなエンターテイメントに誰も気づいていない。長男にとってその日釣りができなかったことは、大きな野生動物との出会いで帳消しになった。
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