写真集『倒木 ~屋久島 ときの狭間に立ちて~』を撮影した、写真家・柏倉陽介さんが語る屋久島の魅力
初めて屋久島を訪れたのは十年以上も前になります。まだ二十代の駆け出しフォトグラファーだった私は自然風景の撮り方を屋久島で学んだように思います。三十代になって、光の捉え方や被写体の質感を思うように撮れるようになった時、もう何も撮るものがないぞという状況になりました。
その頃だったか、雨の降る森の中で倒木に目がとまりました。一見すると苔に覆われた巨石のように感じていたものが実は樹だったということに驚きました。苔や蔦、杉の芽など、さまざまな命に覆われた倒木は生と死の境界線すら曖昧に感じさせます。一度ピントが合うと、森のいたるところに転がる倒木が浮かび上がってきました。私はずっと昔から倒木に囲まれていたのでした。
屋久島に生きる千年以上の樹齢を持つ杉は屋久杉と呼ばれます。屋久杉には豊富な油分が蓄えられていて、腐りにくいのが特徴です。そのため、千年生きた杉は倒れたあとも千年残り続けると言われています。森の中には数千年前に生きた命があり、また数千年後まで生きる命が同時に存在しています。途方もない時間と時間の狭間に立っていると、永遠とは静かなのだなと思わされるのです。
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やがて倒木は苔に覆われ、新しい命が芽吹き始めます。命に覆われた倒木は生と死の境界線すら曖昧に感じさせます。森の中には数千年前に生きた命があり、また数千年後まで生きる命が同時に存在しています。悠久の中に立っていると、人もまた同じように生死を繰り返してきたのではないかと思えます。大切な命を次世代につなげるとは使い古された表現かもしれません。しかし、この森ではそれがシンプルな答えです。(*後書きより抜粋)
出版社 冬青社
出版年 2020年8月
価格 6,000円+税
仕様 ハードカバー/290mm×290mm/72ページ
https://www.yosukekashiwakura.com/photobook
柏倉陽介
1978年山形県生まれ。東京のカラスが作ったハンガー製の巣を被写体に選び、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において環境をテーマとした作品として写真が展示される。そのほか、文明と野生の衝突地帯に生きるオランウータンのリハビリテーション風景の作品発表を続けている。2019年は冒険家 荻田泰永氏と若者たちの600kmに渡る北極圏遠征に同行。写真や映像撮影を担当し、ナショナルジオグラフィックやNHKなどのメディアに発表している。主な撮影分野は自然風景、自然と対峙する人間、環境保護など多岐にわたる。米国立スミソニアン自然史博物館、世界大都市気候先導グループ会議などに展示。ドイツ博物館やロンドン自然史博物館発行誌、レンズカルチャー誌ほか国内外のメディアに掲載される。