山岳雑誌『岳人』編集者 服部文祥さん
’99年から長期山行に装備と食料を極力持ち込まず、食料を現地調達するサバイバル登山を始める。現在は愛犬のナツを相棒に実践。
寝床より下流に火をおこす
川沿いは夜から朝にかけ、上流から下流に風が流れるので、煙くならないよう、焚き火は寝床の下流に作る。
川に対して薪を垂直に並べる
焚き火全体に空気を送り込みたいときは、川に対して薪を垂直に置く。平行に置くと川上ばかりが燃えてしまう。
『300泊以上野営してるけど、雨で焚き火がおこせなかったことはないな』
朝目覚めたら、燻っていた焚き火をおこし、チャイを淹れる。それを飲みながらチャパティを焼くのが、最近の山旅での定番。半分食べて、半分はポケットに入れ、出発する。
午前中は山や渓を歩き続ける。時計は持っていないから、太陽が南中より傾いたら、その日の野営地を探しだす。野営地の条件は落石が来ないこと、ちょっとした雨では増水が来ないこと、体を伸ばして寝られること。きれいな水がすぐに汲め、薪が集められればなおいい。サバイバル登山では、暖をとるのも調理するのも、すべて焚き火が熱源だから、薪は重要な要素になる。さらにイワナが釣れる流れが近くにあれば理想的。そうじゃないとゴハンのオカズがなくなる。
野営地を決めたら、寝床を決めて立木を利用してタープを張る。雨に降られるのがイヤだから、まずはこれが先決。そのあと、薪拾いに出かける。万が一に備えて、ガスストーブを持っていかないのか?と聞かれるが、万一の予備は安心だが重く、安全には直結しない。薪がいくらでもあるのに燃料を持つのは馬鹿らしい。
薪を集めたら焚き火をおこす。火床には御神木(太い丸太を使うから、そう呼んでいる)を据え、薪を並行に並べていく。沢に対して垂直に置くと、満遍なく燃えてくれる。もともと、源流釣りの翁、瀬畑雄三さんに教わった火おこし術を、自分なりにアレンジしたものだ。流行のブッシュクラフトの火おこしやキリモミ法は美しいけど、移動を続ける長期間の旅では受け入れ難いほど効率が悪いので、そこは妥協してライターを使っている。山で300泊以上しているが、雨で火がおこせなかったことは一度もない。火がおきたら、残しておいたチャパティとチャイでひと息入れる。チャイは1日に二回も三回も作る。山中で調達できない砂糖を持って行くのはインチキ臭いけど、ヒマラヤの民も常に飲んでいるから容認。
イワナをおかずに夕飯を食べたら、翌日の計画を立て、焚き火の横で眠りにつく。冬は夜中に2回ほど薪をくべることもある。夜焚き火がついていると、虫も来ないし、安心して眠れる。ほだ火が残っていると、翌朝の飯作りも早くできる。
サバイバル登山では、これが日常だ。焚き火は術であり、欠くことのできない道具なのだ。
太い木を並べて火床を作る
ヨイショっと
火床を決めたら、御神木(太い木)を置き、転がらないように河原で拾った岩で支える。
鍋吊るし用の枝を地面にさし、ぐらつかないよう岩で固定。枝は延焼しないように生木がいい。
向かい側にも太めの木を置き、御神木との間に、薪を平行に並べ、火床を作る。
薪は立ち枯れのものを探す
野営地についたらタープを張り、薪を拾う。雨の日は立ち枯れや倒木の枝など、地面から離れたものを探す。
必要最低限な道具で火をおこす
右から焚き付け用のスギの葉、白樺の樹皮、雨の日用のチューブメタ(着火剤)、ライター、枝切り用のノコギリ。
火床の上に、焚き付けになる白樺の皮を細く裂いて置く。あらかじめ天日で乾燥させておくと簡単に火が付く。
白樺の皮の上に、小枝を火床と平行に並べる。熱を逃さないように小枝は隙間を作らないようにし、火を付ける。
焚き火を使った飯作り
チャイを淹れる
枝から針金で鍋を吊るし、湯を沸かす。今のところ、吊るし用には錆びにくい銅線がベスト。
沸いたら、スライスしたショウガ、塩ひとつまみ、紅茶の茶葉、ザラメ(多め)を入れ、クツクツ煮出す。
茶葉が開いたら火からおろし、粉末クリームを好みの分量入れる。家では牛乳でOK。
1日に2、3回は飲むな。
チャパティを焼く
全粒粉+強力粉に塩と水を加え、よくこねる。コッフェルに蓋をし、しばらく生地を寝かす。
打ち粉をした板に丸めた生地をのせ、麺棒で丸く延ばす。今回は麺棒を忘れ、即席で枝で製作。
強火に熱したフライパンで焼く。生地が膨らみ焼き目がついたら裏返し、両面こんがりと。
山での定番朝飯。あまったらそのままポケットに入れて携行できるので、最近は握り飯よりも気に入っている。
立つ鳥跡を濁さず、再び山へ
朝は薪をくべず、放っておいて、完全燃焼させる。野営したあとは、来る前の状態に戻して出発するのがセオリー。
※構成/大石裕美 撮影/亀田正人
●YouTubeにて【本格山旅ドキュメンタリー】服部文祥の楽園山旅を公開中。https://www.youtube.com/watch?v=/niULcAXAwoU
(BE-PAL 2020年11月号より)